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フェスタの冒険 魔族

 フェスタたちが来た道から、森の中から誰かが現れた。

 緑色の髪に青白い肌、尖った耳と何より人類とは違う特徴ーー両耳の上から伸びる二本の角。

 それはフェスタたち人類から『魔族』呼ばれる者であった。


「何でここまで人間が入って来とるねん、ホンマ仕事せえへんわ、あのトリエント(ボンクラ)ども」


 少年のような格好に少年のような姿形、少年のような声なのに。その魔族は圧倒的な量の瘴気を滲ませながら、ただそこに立っているだけでフェスタたちを恐怖の渦に叩き込んだ。


 魔族、それは人間とは決して相容れぬ存在である。

 神話の昔、幾度となく神々に争いを仕掛け、時に人を大陸ごと滅ぼし、最後には人類に悪心を残しながら神々によって地底よりも深いところに閉じ込められた者たち。

 それがフェスタたちの世界に伝わる魔族と呼ばれる者に関する伝承である。


 しかし、伝承とされていたのはつい最近、二百年とちょっと前までの話だ。

 その頃に遥か地底より、彼の魔王が地上に復活を遂げたのだ。

 その姿は蒼い髪に青白い肌、尖った耳に三本の角が生えていたと伝えられている。

 人類は、伝説にしか存在しないと思っていた魔族が実在していた事を知らされたのだ。


 そんな魔族が、フェスタたちを見ている。口許に歪んだ嗤いを湛えながら。


「ええか、ボクが見付けたんやし、(バラ)してトリエントどもの肥料にでもしたろうかーー」


 と、魔族が言った直後にフェスタたちの視界から魔族が消えた。


「ガハッ!」


 次の瞬間、フェスタが見たのは血を吐きながら倒れていくジバの姿だった。

 魔族の腕がジバの胸を、完全に貫いている。誰がどう見ても助からないーー。

 次の瞬間、アリサが魔族に飛び掛かった。「フェスタ! 逃げろ!」と叫びながら。

 フェスタが動ける態勢に移行するまでに、アリサは魔族の顔を狙って殴りかかるが、魔族は身動き一つせずにアリサの拳を顔で受け止めながら微動だにしない。

 殴ったままの体勢になっているアリサの腹へ魔族の掌底が入った。正確にはアリサの腹に掌底が入った瞬間にようやくフェスタの眼は魔族の動きを捉えることができた。

 スローモーションのように倒れていくアリサを見て、フェスタは腰に刺さった剣を抜いた。

 魔族はフェスタを見ている。その視線を真正面から受け止めてフェスタは魔族に向かって低い姿勢で走る。

 「おぉぉおおおぉぉおおおおおっ!」という声がフェスタの口から漏れていた。

 気合いとも怒りとも、恐怖を振り切る虚勢の声かも分からぬ声が。


 一閃ーーフェスタの剣は魔族に防がれずに魔族の左手を切り裂いた。


「おー、()ったいなあ、何すんねんな、自分」


 手首を切り落とされても、魔族は平気な顔をしていた。

 相対して剣を構えているフェスタなど、まるで眼中に無いといった風情で地面に落ちた自分の手首を拾うためにしゃがみ込んだ。


「ああーばっちいなあ。洗わな付けられへんやん、こんなとこに落としたら」


 と、言いながら自分の手に着いた土をポンポンと叩いて落とす。

 その間、フェスタは魔族に斬りかかれなかった。まるで隙が見えないのだ。

 目の前の、油断し放題に見える魔族の、どこにどのように斬り掛かっても自分が返り討ちに遭う姿(イメージ)しか思い浮かばないのだ。

 いつの間にか、フェスタの身体は恐怖でガタガタと震えていた。


「ん? 自分、なんやオモロイ混ざり方しよんなあ」


 震えるフェスタをしゃがんだまましげしげと見つめながら、魔族が興味深そうな口調で言う。

 フェスタは動けない。斬りかかることも、逃げ出すことも、話すことさえできない。

 蛇に睨まれたカエルのように、動くことができなくなってしまっていた。


「まあ、ええか……お嬢ちゃん、どうせどっかに帰ってここの事を報告するんやろ? せやったら、人間どもに『ここに近付くな』って伝えといてんか。おつかいやってくれたらご褒美にお嬢ちゃんは見逃したるわ」


 そう言うと、魔族は手首を持って立ち上がった。


「なんや、返事くらいせなアカンで。ほなな、ボク手ぇ洗わなアカンから帰るわ。さいなら」


 と、言い残し魔族はいきなり姿を消した。

 残されたのは、地に伏しているジバとアリサ、立ち尽くすフェスタのみであった。

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