フェスタの冒険 VS樹木人
「フェスタさん……私が魔法で牽制します、その間の枝を切ってアリサさんの救出を」
アリサは枝に身体を締め付けられていて、身動きをしていない。
顔色は変わっていないところを見るにどうやら気絶させられてしまっているようだ。
樹木人の抵抗できなければそれだけ幹に取り込まれるのが早くなってしまう。
のんびりしている暇は無かった。
フェスタが駆け出すと同時に別の方向から枝が伸びてくる。
枝の先は太い針のようになっていてフェスタの顔に一直線に伸びてくる、樹木人の目的がフェスタを捕らえることではなく殺傷を目的としているのだ、と物語る。
せっかくの獲物を奪おうとしてくるフェスタに、樹木人は怒っていたのだ。
枝を剣の一閃で斬り落とし、さらに身を低くしながらダッシュして樹木人との距離を詰める。
そんなフェスタをさらに攻撃せんと頭上に当たる場所から枝が動く、がそれはジバが杖から打ち出した炎の玉によって幹の根元から焼き切られる。
その攻撃に痛みを感じたように、樹木人が幹から身体を揺らす。
アリサを捕らえる木の枝も、その動きでバランスを崩したように大きく揺れる。
隙を突くようにフェスタはアリサを捕らえる枝に近付き、飛び上がると同時に枝を斬った。
斬られた枝は力を失ったようにアリサを手放し、支えを空中で失ったアリサは地上に向けて落下する。
だが、落下するとりも早くフェスタがその下へと移動しており、アリサの腰の辺りを抱き締めるように落下するアリサを受け止める。
「フェスタさん! アリサさんを連れて樹木人から離れてください!」
ジバの声が響く。
素早く樹木人から距離を取り、アリサの下半身を地面に下ろし上半身を抱きながらアリサの様子を見る。
アリサの胸はちゃんと上下動をしており、気絶しているだけだと判別できた。
(良かった、生きてた)
懸案していた事が杞憂に終わったが、まだ安堵はできないとジバと樹木人を見る。
ジバは何らかの魔法を撃ち終えた後のようで、前に差し出した杖から魔力の残滓が見える。
樹木人はーーその身体とも呼べる大きな幹の中心に大きな穴は開いていた。
穴の向こう側が見えるほどの大きな穴である。穴の内側は炭化したように真っ黒になっていた。
「フェスタさん、トドメを!」
ジバの叫びを受け、アリサをそっと地面に寝かせてフェスタは駆け出す。
走りながら剣を横向きに構え、ジバの攻撃によって薄くされた幹の側面の一撃を入れながら、勢いを保ちながら一気に逆側の幹まで斬り落とす。
フェスタの一撃を最期に、樹木人は完全に動かなくなった。
それでも剣を構えたままのフェスタであったが、一呼吸入れた後の視線を動かすとアリサの傍に移動していたジバがコクリと頷きながら「もう大丈夫です」と言うのを聞いて、ようやく剣先を下ろし構えを解いた。
「ジバさん、アリサさんは!?」
駆け寄りながら剣を鞘に収め、フェスタがジバに問う。
フェスタの見立てでは気絶しているだけであったが、目に見えないような怪我だったらどうしよう、と戦いが終わって冷静になったのか焦りの色が浮かぶ。
「大丈夫ですよ、今ねんのために回復薬を飲ませておきますので」
と言いながら腰の袋を漁り、中から回復薬が入った瓶を取り出しアリサに飲ませる。
少し激しかったアリサの胸の上下動が、回復薬の効果だろうか、穏やかなものに変わる。
「少し休ませればすぐに目を覚ますでしょう」
「そっか、良かったあーー」
ジバの言葉と、アリサの様子に胸を撫で下ろす。
両手で胸を押さえながら安堵の溜息を吐く姿は、戦っていた時とは別物のように年相応の幼さを見せていた。
ジバはそんなフェスタの様子を見つつ、満足そうにウンウンと頷いてから一拍空けて、表情を引き締めながたフェスタに、
「ともかく、今日はゲントの村に戻りましょう。こんな場所で樹木人の会うとは思いませんでしたし。一旦計画を立て直してから出直しましょう」
と、提案する。
フェスタはその提案に同意し、一行はアリサの意識の回復を待ってから森を出て、一旦のところは村へと戻るのだった。