フェスタの冒険 密談
購入した手甲はサイズも丁度良いものであったのでその場で装備し、一行はサイズ調整を任せてあった防具受け取りに防具売場へと戻った。
最終的なチェックの為にアリサ自身が装備しながらで調整させて欲しいという店員からの申し出により、アリサ一人だけが試着室に入る事となり、試着室の外ではフェスタとジバが二人だけで待っていた。
とはいえ、既にお分かりであろうがここは武器屋は武器屋でも高級武器屋というやつだ。
ジバがなぜこのような高級店の先代とコネを持っているのかは不明だが、高級店らしく連れの試着を待つ間の対応も一流であった。
フェスタたちは設えの良い椅子に座り、ミニテーブルに置かれた高級な紅茶で優雅なティータイムという状態となっていた。
「ジバさん、ちょっとお聞きしたいんですが」
フェスタからジバに声を掛ける。ややジト目である。
武器を買う際に、一度は流した疑問を問い詰めたかったからだ。
ジバは糸目に変化のないまま涼しい顔である。
「さっき、アリサさんに解析かけたって言ってましたよね?」
「はい、初めてお会いした時、握手させて頂いた時に」
やはり、ジバはさらっと答える。
他人に解析を掛けることに関して、何も悪気は無さそうな感じだ。
フェスタはあの時か、と思い出しながらも未だに残っている疑惑をジバに投げかける。
「あの……ひょっとして、私にもかけてたりしますか……解析を」
初対面のアリサに何の断りもなく解析をかけたという事とは、同じく自分にもーーとフェスタが思うのは当然のことであろう。
「はい、初めてお会いした時に……ああ、大丈夫ですよ、秘密はお守りしますからーーフェスティア王女」
紅茶を飲みながら、サラッと彼がフェスタの本名まで知っているという意味の言葉を言ってのけるジバ。
一方フェスタは、自分の予想が悪い方に全て当たっていたおかげで顔が珍しく引き攣っている。
「わ、わ、わた、ワタシがお、王女って知ってて仲間に誘ったんですか?」
声は上ずっているものの、一応は小声である。
一応、離れた場所とはいえ店員は居るし、試着室の中にはアリサも居るからだ。
さすがに焦っているとはいえ、自分の正体を大声でバラすほどフェスタも馬鹿ではない。
「ええ、さすがにお誘いした理由は貴女が王女だから、ということではありませんが」
「そ、それはどういう……」
自分も解析を使えればこんな質問をしなくて済むのだろうか、などと考えながらフェスタはジバに疑問をぶるける。
場所も時もよろしくは無いと分かってはいるが、今が聞き出すチャンスには違いないからだ。
「私のね、知り合いにとてもよく似ていらっしゃるからです。フェスタさん、貴女がね」
と言いながら笑った。
ジバの返事には色んな意図が込められているようにフェスタには感じた。
フェスタの仲間になったのはジバの個人的な事情に深く根差しているらしく、あまり語りたくなさそうだという事が一点。
その個人的な理由というものが、フェスタの親族に関わっているのではないか、というのが一点。
そうでなければ『似ている』という理由だけでわざわざ魔王討伐の旅に付き合おうとはしないだろう。
そして、最後の一点はジバは今フェスタのことをわざわざ『フェスタさん』と呼んだことだ。
フェスティアという本名を知りながらわざわざフェスタという偽名に付き合うーーこれは秘密は守るというジバの意思をフェスタに示してくれたように思えた。
「あの、何と言いますか……ありがとうございます」
何と言えば良いか思い付かず、フェスタはジバに礼を言った。
ジバは紅茶を持ったまま「どういたしまして」と肩を竦めてみせ「紅茶冷めてしまいますよ」と微笑みながら言う。
二人が紅茶を飲み終える頃合でアリサは試着室室から出てきた。
アリサにぴったりのサイズに合わされた防具は、さすが高級品と呼べるほど彼女に馴染んでおり、真っ青な顔をしたアリサだけが全体の調和に残念感を醸し出すのであった。