フェスタの冒険 防具
仲間なる盃を交わした後、フェスタとアリサは宿屋の主人に頼み同部屋で一夜を過ごした。
もっとも、かなりの酒量を過ごし、また旅から戻ったばかりのアリサは疲れてしまっていたようですぐに眠ってしまったのだが。
眠ってしまう前に明日の予定としてジバへの引き合わせと、武器屋へ新装備を買いに行く、ということを決めてからアリサは眠りに就いた。
翌朝、フェスタよりも早く目覚めていたアリサに起こされ、恥ずかしがるフェスタ。
「子供なんだから起こされるまで寝るのも愛嬌さ」
と、何とも複雑な慰められ方をしながらも食堂に向かい朝食を取っていると、待ち合わせよりは大分と早い時間にも関わらずジバがやってきた。
「おはようございます、ご一緒している方は?」
ジバは視線をアリサに向けながらフェスタに聞いてくる。
「あ、昨日私が仲間にお誘いしたアリサさんです。アリサさん、こちらが昨日お話したジバさんです」
一言の相談もせずに仲間を増やすのはマズかったかな、と思いながら両者への紹介をしてみるフェスタ。
心配は杞憂だったようで、ジバはスッと自分の右手を差し出しアリサに握手を求める。
アリサは焦ったように自分の服で手を拭ってからジバの手を握り返した。
「ジバ・シンヤです、以後お見知り置きを」
「アリサだ、よろしく頼む」
シンプルな自己紹介が終わるとジバもテーブルに着き、今日も元気に食堂を駆け回りロッカちゃんを捕まえて朝食を注文し始めた。
ちなみに、本日の朝食メニューはベーコンエッグにサラダ、それと黒パンである。
もちろんのことパンは食べ放題であり、フェスタは既に二つ目のパンを半分まで食べ進んでいる。
「えー、では今日出発するという予定は変更しますか?」
唐突にジバが聞いてくる。
自己紹介以外は何も話していない段階なのに、妙に察しの良い男である。
「あ、はい。アリサさんの装備が全て壊れてしまったそうなので、まず買い換えをしようかと」
質問に答えたのはフェスタである。
アリサは口を出さずにフェスタの言葉に頷くのみである。
「ほう、それは大変ですね。それなら王都に私が先代から懇意にしていただいている武器屋があります。そちらで武器を選びませんか? お値段に関しても相談してもらえると思いますし」
と、切り出してくる。
フェスタにもアリサにも異存は無く、そこで装備を整えてから王都を出発しよう、ということで意見の一致を見た三人であった。
朝食を終えてから部屋で出発準備を終わらせ、食堂で待ってくれていたジバと合流し武器屋へ向かう。
途中、ジバの準備は大丈夫なのかを尋ねると、彼の装備は昨日も身に付けていた黒いローブと短い杖、それと腰にぶら下げてある小さめの袋だけであると教えられた。
いかにも冒険者らしい軽装である。
アリサからの「えらく少ない荷物だね」という問いにも、ジバは「非力な魔術師ですので、この程度に抑えています」と軽く返す。
少し歩くと、商業区にある武器屋の中でもかなり立派な店構えなのではなかろうかと思える大きめの店に到着した。
店に入るなり、身なりの良い店員が寄ってきてジバに丁寧な挨拶を始める。
それを制止したジバが「女性向けの防具を見せていただきたいのですが」と言うと、五分も経たぬうちに立派な防具がフェスタたちの前に集められた。
フェスタが付けているような胸当て鎧に、小さめの片手用の盾、前垂れとマント、鉢巻の前部分に鉄板が縫い付けられた鉢金といった具合である。
「こ、こんな高そうな防具、アタシの稼ぎじゃ手が出ないよ」
アリサが慌てながらそう言い切る。
確かに、持って来られた防具はどれも高級そうに見える。
フェスタとしては、相場はよく分かっていないものの多少高くても仲間の為なら購入するつもりでいる、嫌らしい言い方だが『金には困っていない』のだから。
「お幾らでしょうか?」
慌てるアリサを尻目に、フェスタが店員に聞く。
アリサの反応からして、問題なのは値段だけだろうと判断したからだ。
「普段でしたら白金貨二枚と大金貨四枚というところですが、ジバ様のご紹介ということですので……勉強させて頂いて白金貨二枚で結構でございます」
と、答える店員の言葉にアリサは目玉が飛び出そうになる。
白金貨二枚といえばこの王都でも居住区でそれなりの家が買えてしまう金額である。
一体どれだけの長期間冒険者を続ければそれだけ貯められるのか見当も付かないような大金である。
もっとお手軽な値段の品物を、とアリサが言いかけたところでジバが口を挟む。
「ふむ、妥当なところですね。ではそれでーーサイズだけ合わせておきましょうか」
と、事も無さげに言ってみせる。
武器屋のカウンターには既にジバが腰の袋から取り出された白金貨が二枚置かれてしまっている。
「ありがとうございます。装備される方はどちらでしょうか?」
アリサが口を挟む間も無く商談は成立してしまい、定員はフェスタとアリサの両方を見ながらサイズ調整をするのがどちらなのかを尋ねてくる。
まだ武器すら買っていないのに、防具だけでこの出費。
金銭感覚の違うパーティーメンバーに頭がクラクラするような感覚を覚えつつ、思考停止しながた店員に手を上げてみせるアリサであった。