フェスタの冒険 乾杯
「アタシをアンタの仲間に?」
「ハイ! アリサさんさえ良ければ……ですけど」
いつの間にか立ち上がってしまっていたフェスタだが、アリサからの確認のような問い返しに勢いを失ったように椅子に座り直す。
いきなりすぎたかな? と内心では反省している。
アリサの事情を聞いて居ても立っても居られないなくなってしまったのだ。
「アハハ、面白いこと言うねアンタは」
少し、から笑いに近い声でアリサが笑った。
不快そうな表情では無いが、どう答えたものやらというような困り顔をしている。
ほんの僅かな間、考える素振りを見せた後、
「アタシはさあ、全滅食らいそうになるような弱いパーティーのメンバーなんだよ? これから魔王を倒そうっていうアンタがアタシみたいなのを誘ってどうするんだい」
その口調も、表情も、やや呆れているようでいて決して怒っているわけでもなくフェスタを諭すような柔らかなものだった。
自分がパーティーに入っても、フェスタの力にはなってやれない。
そう言っているようだった。
「そ、そんなことは無いです!」
アリサの言葉の意図を察しながらも、フェスタはなお食い下がってみせる。
フェスタとて力など無い、それでも無いなりにアリサの助力となってやりたかった。
「うーん、困ったねえ」
そう言いながらアリサがエールの入ったジョッキを啜る。
フェスタの勧誘から、エールは全然減らなくなっている。
アリサなりに真剣にフェスタの勧誘を考えてくれているのだろう、というのがその様子から伝わってくる。
その事がなおさらアリサを仲間にいれたいという気持ちをフェスタに抱かせる。
「じ、じゃあ臨時で、臨時で私のパーティーに入ってもらうっていうのはどうですか? アリサさんの気分次第でいつ抜けてもらってもオッケーという形で!」
必死な様子のフェスタに苦笑いが浮かぶアリサ。
いっそこの少女の思うがままに行動しようか、と思いかけて自身の重大な事情に思い至った。
「あ、いやね、その形で仲間になるのは構わないけどさ。アタシ装備をほとんど無くちゃってるんだよね」
そう、彼女は軍隊アリとの戦いで装備の全てを破損してしまい、修理不可能な状態にまで陥っていた。
ギルドから受け取った依頼金はあるが、それを使ってもこれまでよりワンランクか下手するとツーランクは下の、最低限の装備しか揃えられないだろう。
アリサとしては、そういった下位装備を揃えて、どこかの駆け出しパーティーにでも混ざって簡単な依頼をこなしつつ出直しする、そんな心積もりであった。
さすがに、そんな装備しか揃えられずに魔王討伐の旅に付いて行くのは無理だろう、とフェスタにも自身の状況を簡単に説明する。
しかし、フェスタは逆にそんなアリサが抱える事情に喰い付いた。
「わ、私が装備を全部買います! それを私からの依頼金として私に雇われてください!」
これでどうだ、と言わんばかりの顔をしているフェスタにアリサは思わず吹き出しそうになる。
理由は分からないが、何故か自分をここまで買ってくれるフェスタに悪い気はしていなかった。
(この子は魔王討伐に行くって言ってたかねえ、だったら目標はホーク大陸ってところか……そこまでは無理でも、途中までくらいなら付いて行ってやっても良いかねえ)
考えてから、アリサはフェスタに向けて一つ頷く。
「じゃあ、良いんですか?」
「ああ、いいよ仲間になろう」
眼を輝かせるフェスタに、笑顔で答えるアリサ。
アリサが自分の持っているジョッキを掲げながら目でフェスタに合図を送ってくる。
その合図が意味するところを察して、フェスタもオレンジジュースの入ったコップを掲げる。
「「乾杯!」」
何の合図も無く二人同時に声を合わせて叫び、互いの飲み物を一気に飲み干す二人であった。
フェスタ に なかま が ふえた!