フェスタの冒険 雑談
「ほう、じゃあアンタは勇者候補なんだ?」
「はい、田舎から出てきたばっかりです」
相席の女との世間話としてフェスタは自分の出自を『近隣のある村の猟師の娘』と語った。
死んだ母の形見が蔵の中にあって、それが賢王に所縁の品と鑑定されて勇者候補となり、旅に出る準備として王都の冒険者ギルドにやって来て今日登録を済ませたところだ、と自分のことを紹介した。
女はアリサと名乗った。三日前に所属していたパーティーが解散となり、新しいパーティーメンバーを探しに王都までやって来たらしい。
「まあ、みんな冒険者を辞めるって言っちまっちゃってるんだから仕方ないんだけどね」
と言いながら、アリサはジョッキをグイッと呷る。
その一息でジョッキの中身は空になってしまったようで、アリサはロッカちゃんに新しいエールを注文している。
「アンタはもう仲間見つけたの?」
「あ、はい。魔術師の方を一人だけなんですけど。明日からその方と一緒に旅に出ます」
とやり取りをしている間にロッカちゃんがテーブルに新しいエールを運んでくる。
フェスタのオレンジジュースも一緒だ。
自然とアリサの話し相手をすることが続行となる。
「魔法使いねえ、じゃあアンタが勇者だからあと前衛一人と後衛一人か二人くらい募集って感じかい?」
「うーん、そうですねえ。理想を言えばそうですけど、魔王討伐の旅といってどれくらいの方が仲間になってくれるか……」
この世界で冒険者のパーティーというと少なくて三人ほど、多くて五人ほどが一般的である。
少ないと身動きは取りやすくなるが全滅の危険性が増すが多過ぎると互いのカバーはし易くなるものの身動きを取りづらくなる。行動の素早さという面でもそうであるが、ダンジョンなどの狭い場所で動き難いという物理面でも多人数パーティーは不利となり易い。
そういった理由から、多くのパーティーは四人編成が多い。
戦士や武闘家、騎士といった前衛職が二人に魔術師や治療師、僧侶や盗賊、狩人といった後衛職が二人といったいわゆるバランスの良いパーティーというのが好まれている。
もちろん例外も多く存在していて、戦士のみで三人パーティーとか、魔術師と狩人のみの後衛職だけで編成されているパーティーとかの変わり種も居たりはするが、そういうパーティーは大抵の場合は依頼内容によって臨時メンバーを入れたり、自分たちが臨時メンバーとして他のパーティーに参加するなどしてやり繰りをしていたりする。
「魔王討伐ねえ、確かにあんまり行きたいとは思わないかねえ……」
フェスタの言葉にアリサが納得してみせる。
魔王討伐となれば間違いなく長期に渡る旅となるし、普段の冒険よりも危険が多く付き纏う。
多くの冒険者にとって『美味しい話』ではなく、どちらかと言えば敬遠したい話であろう。
ジバのように、魔王討伐と聞いた上で自分から関わりたいと言い出す方が珍しいのだ。
「そう言えば、何でアリサさんのパーティーは解散しちゃったんですか?」
自身の話を続けると暗い雰囲気になりそうだと思ったフェスタが話題を変える。
自分もいつパーティー解散の憂き目に遭うやもしれないので、後学の為にも聞いておこうとも思ったのである。
「うん? みんな自信を無くしたって言い出しちゃってねえ……」
二日前まで、アリサたちのパーティーは国都から一日ほど歩いた位置にある洞穴に入っていたそうだ。
近隣の村から、洞穴の中にいる魔物の討伐依頼が冒険者ギルドに出されていて、それをアリサたちのパーティーが受けていた。
洞穴の中は迷宮ほど複雑ではないものの、それなりに入り組んだ造りとなっており魔物を捜索しては倒すという作業の繰り返しになっていた。
洞穴の捜索を続けること四日、洞穴の最深部に辿り着いたアリサたち一行はピンチに見舞われることとなった。
この洞穴は軍隊アリの作った巣穴だったのだ。
その最深部が女王蟻の部屋になっていて、そこに辿り着いたアリサたちは大量の兵隊蟻に囲まれてしまった。
倒せど倒せど兵隊蟻は奥から沸いてきてキリがない。
その内にパーティーの魔術師は魔法を出せないほどに消耗し、剣士は剣が折れ、僧侶も倒れてしまい、残るアリサも鎧は破壊されているわ持っていた回復アイテムも使い果してしまうわのボロボロの状態になってしまった。
撤退戦を繰り広げ、出口にむかっていたつもりがいつの間にか壁際にまで追いやられてしまっており、それでもなお眼前には兵隊蟻が迫る。
もう終わりかーーと、思った時である。
「フハハハハハハ! ワタシが来たからには! もう安心だぞっ!」
という声が出口の方から響いてくるのが聞こえた。