フェスタの冒険 方針
「私の仲間になってください、お願いします!」
フェスタの言葉を受けたジバは笑顔で右手を差し出した。
フェスタはその手を握り、握手を交わす。
まだたった二人だが、ここに新たなパーティーが結成された瞬間であった。
「改めまして、ジバ・シンヤです。これからよろしくお願いします」
「フェスタです。未熟者ですがお願いします」
と、自己紹介を済ませたところで二人は互いの今後の予定について話し合う。
「旅への出発はいつにしますか?」
と、ジバが聞いてくる。どうも彼はフェスタの予定に従うつもりのようだ。
これを受けてフェスタも一緒に旅に出るに当たって気になる部分を聞いてみる。
「なるべく早くとは思ってるんですが、ジバさんはその……お仕事は大丈夫なんですか? ギルドの職員なんですよね?」
気になるのはジバの仕事のことである。
彼は冒険者ギルド総本部の魔法装備鑑定課の職員であるはずだ。
いきなり仕事を辞めてしまうのは不都合があるかも知れないし、それを都合する時間の猶予ぐらいはフェスタも設けるつもりである。
しかし、ジバの返答はあっさりしたものだった。
「ああ、大丈夫ですよ。元々ここは二人で回している課ですし、そもそも私は嘱託の立場ですからね」
魔法装備鑑定課は、ジバともう一人の人物、リアという女性の二人が一日交代で勤務していたそうだ。
今晩中に彼女とギルドに辞めるという連絡を済まし、早ければ明日の朝には旅に出られる状態になれる、とジバは言う、「まあ、リアには文句ぐらいは言われそうですが」と付け足しながら頬をポリポリと掻いてみせた。
ジバが良いというのならば、フェスタとしてもなるべく早く旅には出たい。
欲を言えばもう少しパーティーのメンバーを集めてから出発したいような気持ちもあったが、このワイズラット王国周辺であればまだ魔王の軍勢も攻め入ってきてはいないし、二人でも旅に出て大丈夫だろうと思える。
パーティーメンバーは別の町でも募ることはできるし、運が良ければジバのような有能な人物との出会いもあるかも知れない。
そうと決まれば早く旅に出たい、と思うのが人情である。
命懸けの旅になるのは分かっているが、それに勝るとも劣らない未知の体験への期待がフェスタにはあった。
「では出発は明日の朝で、お願いします!」
「分かりました、どこへ向かうかは決めているのですか?」
と、ジバが聞いてくる。
これに関しては、フェスタは既に決めていることがあった。
「はい、ともかく南へ向かおうかと。少しでもホーク大陸に近づこうと思っています」
現在、魔王の居場所は特定されていない。
ホーク大陸に封印されていたのが復活してしまったのだからホーク大陸のどこかに居るだろうという予測と魔王軍の活動の拠点らしき場所がホーク大陸にあるという情報が魔王の居場所を推測する根拠となっている。
故に、魔王討伐に向かうために南へ向かうというフェスタの判断には否定する点は無く、ジバはフェスタの考えに賛成の意思を示した。
こうして、出発の日時を決めてから、本日のところはフェスタとジバは別行動に入る。
ジバはギルドの仕事に関する退職の報告や引き継ぎをして、旅の準備を整えるとのことだった。
フェスタは昨夜も泊まった宿に戻り、もう一泊だけここに泊まることを宿の主人に伝える。
昨夜と同じ部屋に通され、ベッドに腰を降ろしてから身に付けていた鎧とマントを外す。
あわよくば今日のうちに王都を出発できるだろうと考えて一度は宿を引き払い、装備も全て身に付けて一日行動していたが。
自分の見積りは甘かったな、とがっくり肩を落とす。
ともあれ、ジバという仲間ができたというのは良い出来事であったが、それ以外は自分の認識の甘さや計画の無さを痛感させられる長い一日だった。
反省しきりなフェスタが夕食を取るために宿の食堂へ行こうと立ち上がる頃には完全に日も沈み、外は完全に真っ暗になっていたのだった。