フェスタの冒険 逡巡
ジバの部屋から出て、フェスタは冒険者ギルドの二階にある食堂で頭を抱えていた。
返答の期限を自ら引き延ばしてしまったものの、フェスタは自分がいかに時間をかけて考えたところで自身の納得の行く答えが出るわけではないことを知っていたからである。
フェスタがジバを仲間にする為に今ひとつ足りていない要素、それはフェスタが一人でどれだけ考えようとも埋まるものではなかったからだ。
それは『フェスタがジバを仲間として信頼できるか否か』という部分だ。
別にフェスタはジバに不信感を抱いているわけではない。
出会ってから大した時間も経っていないし、嫌悪感を抱くような事をされたわけでもない。
まあ、いきなり断りも無く胸を触られた、といのはあったが胸当て鎧の上からだし解析を使った鑑定のためというのが分かっているかたノーカンだ。若干恥ずかしかったが怒ったり嫌ったりする類の話ではない。
だがしかし、出会ってから時間が経っていない、というのは不信感を抱く時間も無かったと同時に信頼感を築く時間が無かったことも同時に意味しているのである。
この辺りのことを考えた上で、フェスタが考えていることがあった。
考えを進めなければならない事があった。
ジバを仲間にする上でーー仲間になってもらう為にフェスタが変えなければならない認識があった。
それは『仲間を作る』という行為に関してフェスタが今まで深くは考えていなかったことだ。
魔王討伐の旅に出るに当たって、一人だけで旅をするのは無茶がある、ということをフェスタは分かっている。
ただの旅ならともかく魔物と戦うことを絶対の避けられない危険な旅なのだ、余程自分の実力に自信がある者でなければ一人旅など不可能だろう。
自分に足りない部分を補ってもらい、自分もまた相手の足りない部分を補う。そういった持ちつ持たれつの仲間がいないと危険な旅は乗り越えられない。
そういう考えがあるから、冒険者ギルドで仲間募集の申請まで出したのだが、思えばあの時点でもフェスタの覚悟は足りていなかったのでは無いだろうか。
ジバに『自分を仲間にしないか?』と言われて初めて自分の中に基準があることを悟ってしまったのだ。
誰かを仲間にする時、その人物が信頼に値するかどうかーーそういう基準を自分が持っていたことを。
そして、その基準は世間をナメているような甘い考えなのではないか、ということも。
甘い考え、認識の間違い、覚悟の無さ、例える言葉は多々あるがそれはフェスタが旅をするならば絶対に正しておかなければならない考えであった。
これから旅をしていく中で、仲間が増えることも、増やさないといけなくなることもあるだろう。
その度にフェスタは相手を信頼、信用できるようになるまで判断を保留して待たせるのか?
仲間になれるかもしれない人物をフェスタの甘い考えによって仲間にできないまま終わることも起きてしまうのではないか?
幸いなことに今回はジバがフェスタの返答を待ってくれるという事で、こうしてフェスタが考える時間の猶予を与えられた。
しかし、本来ならばその場で、仲間にならないかと問われたその時、フェスタは答えを出すべきだったのだ。答えを出さなければいけなかったのだ。
既にフェスタの中で答えは出ていた。ここまで考えて、自身の甘さを知った上で、答えは出ていた。
フェスタの前提が間違っていたことをフェスタはジバに時間を貰った時点で気が付いていたのだ。
そして、現在フェスタは時間を与えられたおかげでようやく自身の認識を改めるに至ることができた。
フェスタが得た新たな考え方。
それは『信頼できるから仲間になるのではなく、仲間になってから信頼していく』というものだった。
考えがまとまった今、フェスタからジバに対する返事は決まった。
食堂の窓から見える光景は、既に太陽が西の空の沈みつつあった。
全く筆が進みませんでした。