フェスタの冒険 惑い
「なるほど、立派な覚悟です」
フェスタの語った決意に、ジバは納得したような表情を見せる。
声にも表情にも態度にも、どこにも皮肉ったり嫌味を載せたりといった風は見受けられない。
ただただ素直にフェスタの決意を賞賛しているようだった。
「そ、そんな褒められるようなことは言っていませんよ……」
過分ではないかと思えるほどのジバの賞賛の言葉のくすぐったいような気持ちを覚えて、フェスタは謙遜ではなく本心からそう答えた。
自分だけではなく、戦いの旅に赴いた勇者候補たちは多少の違いこそあれ皆似たような思いであるとフェスタは思っているからだ。
そうでなければ、いかに賢王の血を引いているからというだけで死を賭して魔物と戦えるはずがない。
「いえ、少なくとも私にとってはそれだけの価値がある決意を聞かせて頂いた、ということです」
それでもなおフェスタを讃える言葉を続けるジバに、フェスタはくすぐったいを通り越して恥ずかしい気持ちになってしまう。
フェスタを照れさせている当の本人は顎に手を当てて何事かを考えているような雰囲気を見せている。
糸目のせいで目を開いているのか閉じているのかは判別できないのだが。
考え事はすぐに何がしかの方針を見つけたようで、さしたる時間も経たぬうちにジバが再び口を開く。
「お仲間を探しているとおっしゃていましたね。もし良ければ……私を旅の供にしませんか?」
「ジバさんを私の仲間に……ですか?」
「はい、魔王討伐の旅の仲間に……です」
その言葉に驚きはしたものの、すぐにフェスタは冷静な思考へと至る。
正直、フェスタにとってジバが仲間になってくれるというのは願ってもないことだ。
他の魔法を見せられたわけでは無いが、一番最初に見せられた魔法ーー解析。
あれ一つだけを見ても、彼が有能な魔術師であろうことは疑いようもない。
しかし、釈然としないのだ。
どうして彼がフェスタの仲間になろうか、と申し出てくるのか。
それ以前に、なぜ彼がフェスタが魔王討伐の旅に出る理由にこだわったのか。
それらの理由が分からないままには、フェスタはジバに了解の返答を出せないと思った。
故に、フェスタのジバへの返答はーー無言というものになった。
「どうやら、すぐには決めかねる、といったご様子ですね」
言いながら、ジバは一つ溜息を吐く。
残念そうな様子に見えるが、諦めてはいない。
どうやってフェスタを口説き落とそうか、そう考えている風に見える。
そんなジバを見て、今度はフェスタからジバに質問をぶつけた。
「どうして、ジバさんは私の仲間になろうと思うんですか?」
ストレートな言葉で、真っ直ぐジバを見つめながら。
その瞳は誤魔化しのない正直な言葉を聞きたいと口よりも雄弁に語っていた。
フェスタの瞳を見て、ジバは少し悩む素振りを見せる。
だが、それも束の間、ジバは決断したように答えを出した。
「それは私が勇者と共に魔王を討ち倒したいと思っているからです」
ジバのその言葉は、フェスタには嘘偽りのないものだと思えた。
しかし、まだ全ては語られていない、とも感じ言葉の続きを待った。
「貴女と共に行きたいという理由は、貴女の決意が私の知る限りでは一番強いものだからですよ」
そう言いながらフェスタに笑顔を見せる。
なぜジバはそこまで自分を評価しているのか、買いかぶりではないかとフェスタは思う。
フェスタと同じくらい。いや、フェスタよりも強い決意を持って魔王討伐の旅をしている者は絶対にいるだろうと、ならばジバが共に旅をすべきなのは自分ではなく、その強い決意を持った誰か誰かはないか、と。
「私よりも、あなたが付いて行くに相応しい人がいるのではありませんか?」
「その相応しいを決めるのは私です。そして、貴女は私が付いて行くに相応しいと私が判断しています」
フェスタの疑問をぶつけても、ジバは折れずにフェスタを口説いてくる。
その様子はまるで『フェスタがいずれ魔王を倒すことを確信している』ように見えた。
「もう少しだけ、今日だけ……考えてさせてください」
ジバを仲間にすることを決断するための、あと何か一つだけパズルのピースが足りないような気がしてフェスタはジバにそう願った。
こもフェスタからの願いに今回はジバが折れた。
「分かりました。それでは明日、良い答えをお聞かせ願えるようお待ちしています」