フェスタの冒険 スゴ腕の魔術師
「では、鑑定させて頂きましょうか」
そう言いながらジバがフェスタの身に着けているl胸当て鎧に手を触れる。
いきなり触られたフェスタもさすがに焦る。顔を真っ赤にして、手をバタバタ動かし、
(え? 何でいきなり触られてるの? 叫ぶべき?)
と、躊躇している間にジバがフェスタ(の鎧)に触れている手を離した。
「ふむ、間違いありません。素晴らしい鎧ですね」
胸の前で両腕をクロスさせるように身を守る態勢になっているフェスタのことをまるで構いもせずに、ジバがそう述べる。
いきなりの展開に着いて行けずに言葉の出ないフェスタの様子を気にしていないように「嘗て賢王様の身に付けていらっしゃったものですね」と補足するように言葉を繋げる。
「えと、えっと……今のでわかったんですか?」
適当に持ってきたはずの鎧が本当に賢王に所縁の品であったことに対するものとほんの僅かに触れただけで鎧の鑑定が終わったということに対するもの、両方に対する驚きで恥ずかしさなど吹っ飛んでしまったようになっているフェスタであった。
「はい、解析の魔法ですよ。もっとも僕は対象に触らないと使えませんが」
解析とは対象の情報を分析して読み取る魔法である。
なかなかに高位の魔法で使い手も少なく、使いこなせるだけで市井に於いて目利きの仕事だけでも食っていけるようになるような魔法なので習得を望む者は多いのだが、習得には本人のセンスが多分に関係しており多くの者が断念しているような魔法である。
そんな魔法を、触らないと使用できないという制限付きであっても使いこなせる、このジバという男は見た目以上魔法の使い手であるようだ。
「な、なるほど」
既に、胸に触られていたということを忘れてしまったかのように感心してみせているフェスタ。
乙女の恥じらいというものを一応は持っていたようだが、残念ながらその持続力はかなり短いらしい。
「ところでーー」
と、いきなりジバが切り出してくる。
「ーー魔王討伐の旅をしているとお聞きしました。お仲間を探している、と」
ゴメスから聞いたのだろうか、ジバがフェスタにそう聞いてくる。
理由は分からないがジバは何やら張り詰めたような真剣な空気を纏っている、とフェスタは感じた。
特に誤魔化したりする必要は感じないので「はい、その通りです」とだけ短く答える。
「理由をお尋ねしても?」
更なる上乗せの質問をジバが細い目を見開きながらそう聞いてくる。
鋭い瞳で見据えられたフェスタは、少したじろぎながらも今度はジバに問い返した。
「ジバさんは……どうして私の理由が気になるんですか?」
フェスタからすれば当然の疑問である。
何せ今は魔王の猛攻が各地を襲っているようなご時世であり、それを倒す為にフェスタのように賢王の血を引いた勇者候補たちが各地から旅に出て、こうしている今も数多の場所で魔王軍の魔物と戦っているのだ。
そんな勇者候補たちの中には数はさほど多くはないとはいえ、フェスタのような少女もいるという噂もフェスタは聞いている。
その辺りを鑑みれば、フェスタが魔王を討伐せんがために戦うことも取り立てて不思議でも特別なこともないはずだ。
「そうですね……ひとまず、好奇心からと申しておきましょう」
フェスタからの逆質問にジバはそう答えてきた。
あからさまなほど言外に『それ以外にも理由はあるのだが』という言葉を加えるような答え方である。
フェスタからしてみれば、この男に自分の戦う理由を説明しなければならないような理由も、特段気にされるような覚えもない。
ないのだがーー何故かフェスタは、この男から伝わってくる真剣さが気になってしまい、理由を正直に話してみせる気になってしまった。
「それは、世界の平和を取り戻したいからです。その力が万が一にでも私にあるというのなら、怖いと引き篭もるのではなく少しでも戦いたいと思ったからです」
そう答えたフェスタを見ながら、ジバが満足げに一つ頷いた。