フェスタの冒険 お迎え
足音は明確にトイレの方に近付いて来ている。
果ての見えない、トイレ前生活は終わりを見せてくれそうだ、とフェスタの中に希望の光が灯る。
まあ、迷ったといっても所詮はたかがギルド内のことではあるし、なかなか人が来なかったといってもせいぜい一時間程度のことである。正直、フェスタの反応が大袈裟だったということは否定できない。
それが証拠に、誰か人が来たというだけでフェスタの思考は通常時の能天気に近いものに戻りつつあった。
(やっと、やっと人がきたよー! ここで一生を終えるんじゃないかって気が気でなかったよー! 話をしやすい女の人がくれば良いなあ、親切に案内なんかしてくれる人だったらもっといいなあー!)
両手を頬を覆い、ワクワクな表情となっているフェスタである。
先ほどまでの悲壮な表情はどこへやら、『泣いたカラスがもう笑った』状態だ。
ちなみに、まだ立ち上がってはおらず、座りっぱなしのままだ。
通り掛かりの人に道を聞こうとは思っているはずなのに、立ち上がるのを忘れている。
どこかが抜けた子、それがフェスタの通常クオリティだ。
などとやっている間に、下を向いたままのフェスタの視界の中に靴があった。
靴というか、人の足があった。
足の主人は、黒いローブを着ている。
「いつまで待っても来ないと思えば……こんな場所にいましたか」
男の声、だが野太いとかいうものではなく少し高めのバリトンボイスといった感じの華やかさを感じる声質だ。
その声でトリップから戻ってきたフェスタが顔を上げると、目の前にはフェスタの目線に合うようにしゃがんでくれたのだろうか、黒いローブを着た目の細い男がいた。
「ええと、その……私、道に迷ったまして……」
やや呆けた調子でフェスタが男にそう言うと、男は「フフッ」と小さな笑い声を漏らす。
口元は笑顔の形となっているが、目元には変化が無い。細い目というより糸目と呼ぶのが相応しい感じだ。
「ええと、フェスタさん、で宜しいですか?」
尋ねてくる男に向けて首を縦に振ることで肯定の意思を示す。
「ああ、やっぱり。私、魔法装備鑑定課のジバと申します。ゴメスさんから連絡がきてからなかなか来ないので、ひょっとしたら道に迷っているのかなと思いまして。見つかって良かった」
ジバと名乗った男はそう言いながら立ち上がり、フェスタに手を差し出す。
「こんなところで立ち……座り話も何ですので、私の部屋の参りましょうか?」
フェスタがその手をおずおずと握ると、スっと力が伝わってフェスタが立ち上がるのを手伝ってくれる。
「あ、ありがとう……ございます」
少し頬を赤く染めながらも、フェスタはジバにお礼を言う。
ジバは「どういたしまして」と言いながらフェスタの手をそっと離す。
見た目より紳士的でスマートな印象を与える男である。
「さ、では行きましょうか」
振り返り、歩き始めるジバ。
置いて行かれてはまた迷い子になってしまう、と慌てて後を追うフェスタ。
ジバが所属する魔法装備鑑定課の部屋はトイレのあった場所から歩いてすぐのところにあった。