フェスタの冒険 メン募 (当方勇者候補)
冒険者登録を終えたフェスタが次に向かったのは、三階にある仲間募集の登録カウンターである。
冒険者登録をしたカウンターのお姉さんに念のため場所を聞くと、三階へ向かう階段の場所と階段を登ってから三〇二番カウンターへと向かう順路を教えてくれたので、ここまでは迷わずに着くことが出来た。
仲間募集カウンターには、ゴツい身体つきをした厳つい男性が立っていた。
男性は名札を胸に付けており、そこには『ゴメス』と書かれてある。
それを見たフェスタが『ああ……ゴメスって感じだなあ』と心の中で感想を漏らしたので、それを参考にして顔は想像して頂きたい。
まあ、あご髭を生やした、肌の浅黒い、眉毛が太く、眼光が鋭い、顎辺りの筋肉が妙に発達している中年の男性を思い浮かべて貰えればほぼ正しい絵面ができあがるだろう。
「よう、仲間を探してんのかい? どんな仲間をお望みだ?」
と、ゴメスはフェスタが何かを話す前にカウンターに立ったフェスタに話しかけてきた。
その行動にフェスタは『ああ、こういう感じもゴメスだなあ……』と思いつつも答えを返す。
「あのですね。私、初めて冒険の旅に出ることになりましてですね」
「初心者ってわけか、助けてくれるベテラン希望か?」
「あ、はい。そういうのもできたら希望したいんですけど」
「まあ、新人と組みたがるベテランは少ねえからな。なかなか見つからねえと思うぜ?」
ゴメスは見た目に似合わず、話し上手の聞き上手なようでフェスタの思う以上に会話がスルスルと進む。
フェスタとしては知識はあれど、やはり知識と経験は別物だと思っている、一人はベテランの仲間が欲しいと思っていたのでゴメスの言葉には厳しい表情になってしまう。
「そんな顔をすんなって。場合によっちゃあすぐに見つかることだってあるんだからよ」
「場合によってはですか……」
先行きの難しさに、フェスタの形の整った眉がハの字に歪む、それをゴメスがフォローしてみせるがそれでもフェスタの顔は曇ったままだ。
内心でフェスタは『やっぱりお父様をちゃんと説得できてから出発すべきでしたかねえ……』などと考えていた。
父王さえ納得させていれば、城内の近衛兵や宮廷魔術師をメンバーとして旅に出れただろうし、そうなれば仲間には自身は王女であるという秘密をわざわざ隠す必要も無かったはずである。
勢いで旅に出たことを、まだ初日だというのに後悔しそうになっているフェスタである。
「そう、お嬢様ちゃんの旅の理由によっちゃあベテランも組んでくれるかもしれんぜ?」
「旅の理由ですか……」
旅の理由、それはフェスタの中でハッキリとしている。
『魔王を討伐して、世界を平和にする』それがフェスタの旅の理由である。
しかし、それを明らかにして良いものか、フェスタにはやや迷いがあった。
「どうした? 言い難い旅の理由とかか?」
考え込んでしまうフェスタに、ゴメスが助け舟を出すように返事を促す。
どんな理由でも構わないから言ってみろ、と言いたげな顔だ。
「いえ、その……何ていいましょうか……その……魔王を倒したいんです!」
悩んだ末に、フェスタは正直に話してしまうことにした。
仲間を募集する上で隠し通せるわけでもないし、ここでフェスタが勇者候補ということがバレるにしても王女であるということまではバレないだろうと考えた結果だ。
フェスタの答えに、ゴメスは鋭い眼を見開いて丸くしている。
「ほう……ひょっとして、お嬢ちゃんは『勇者候補』かい?」
ゴメスの問いに「はい」と小さく返事をするフェスタ。
「ちょっと、冒険者カードを見せてもらって良いかい?」
ゴメスに作りたてホヤホヤの冒険者カードを渡す、とゴメスは一瞬カードを見てすぐに視線をフェスタに戻しながら聞いてきた。
「お嬢ちゃん、受付で自分が『勇者候補』だって伝えたかい?」
フェスタは小さく首を横に振る。
自分が勇者候補ということは登録カウンターでは聞かれてもいないし言ってもいなかった。
「ちっ、ミレイめ……またこういう抜けを出しやがって」
と言いながらカウンター内の魔道具をカチャカチャいじりだす。
ゴツい身体でノートパソコンのような小さな魔道具をいじっている姿はとてもアンバランスである。
例えるならゴリラはスマホをいじっているような、そんな感じである。
フェスタは『何かマズかったかな』と不安になりながらゴメスを見つめる。
「ああ……お嬢ちゃん、何か勇者候補の証明みたいなの持ってねえかな。紹介状とか証明書とか、何か賢王の所縁の品とかよ」
そうゴメスに言われ、フェスタは困ってしまった。
自分が賢王の子孫というのは絶対と言い切れる。だって、王女なのだから。
しかし、それを証明してくれる紹介状やら証明書となると持ち合わせていない。
賢王の所縁のある品というのも怪しい。宝物庫から持ち出してきた、この剣や胸当て鎧が賢王に何か関連する品の可能性もあるが確証は持てない。
しかし、言ってしまったものは仕方ない。イチかバチか、この鎧が所縁の品です、と言ってみよう。もし違うなら恥を忍んで王城(実家)に一度戻って、証明書を書いてもらって出直して来よう、とハラを決めた。