フェスタの冒険 昼食
ここで余談とはなるが、フェスタの父ことパレドが旅銀として持たせた麻袋の中身について触れておこう。
宿屋の部屋の中で麻袋の中身をフェスタが確認したところ、中には大量の大金貨と白金貨が詰まっていた。どおりでズシっと重いわけである。
さらに余談となるがワイズラット王国の貨幣についても軽く説明しておこう。
まず、最低価値の貨幣として銅貨が存在する。銅貨にも二種類あって、小銅貨と単に銅貨と呼ばれるものがある。
小銅貨が十枚で銅貨一枚分と同価値となる。
次に銀貨がある。銀貨は一種類のみで、銅貨が百枚で銀貨と同価値となっている。
その次に金貨がある。金貨には二種類があり、単に金貨と呼ばれるものと大金貨と呼ばれるものがある。
銀貨は五十枚で金貨一枚と同価値となり、金貨が十枚と大金貨が同じ価値になる。
最後に白金貨がある。大金貨が五枚で白金貨一枚と同価値となる。
単純な比較は出来ないが、日本円に換算してみると。
まず、小銅貨が一枚で日本円の一円と同じくらいの価値となる。
そこから順次に換算していくと、銅貨が十円、銀貨が千円、金貨が五万円、大金貨が五十万円となる。
白金貨に至っては一枚で日本円にして二百五十万円の価値があるのだ。
以上を踏まえた上で、フェスタの父パレドが旅銀としてフェスタに渡した内容は大金貨が八十枚と白金貨が十枚というものであった。
全部合わせると日本円にして約六五〇〇万円である。
フェスタは王女であり、生粋のお嬢様ではあるがお金に関して無知というわけではなきお忍びで行動した経験やブラウマンから教わった知識から大体のお金の価値というものを認識している。
おかげで部屋の中で麻袋の中身をぶち撒けた時とその数を数えた時、両方ともに開いた口が塞がらなかった。
ここだけの話、パレドは『他の者にも旅銀を渡している』とフェスタに言っていたのだが、実際のところ他の者に渡しているのは一人につき金貨十枚だけである。
大金貨でも白金貨でもなく、普通の金貨を十枚である。
しかも、市民から出た勇者候補にも、フェスタの兄たちにも金貨十枚しか渡していない。
これは神託が降った際に議会で決められた金額であり、パレドがケチったわけではない。
つまり、末娘にだけはとことん甘い父王が自分ですぐ動かせるだけの、ありったけのポケットマネーをほぼ全て麻袋に詰め込んでフェスタに持たせたのであった。
そんなフェスタを辛うじて正気に戻してくれたのは階下から漂う昼食の美味しそうな匂いであり、現在フェスタは食堂に降りてきて昼食を摂っている最中であった。
昼食の内容はタマネギとニンジン、ジャガイモに鶏肉が入ったシチューと黒パンである。
これで値段は銀貨一枚なのだが、おかわりは自由になっているのでコストパフォーマンスでいえばお値段相応といったーところだろう。
フェスタ自身はこれまで余り食べることの出来なかった温かいシチューというものに感激しつつ、非常に満足の行く昼食となった。
カウンターにいる主人に出発することを告げるとフェスタの予測通り追加料金は発生しなかった。
それどころか、朝食分として前払いしていた銀貨一枚が戻ってきたのである。
まあ、昼食を食べるに当たって一度銀貨一枚を即金で払っており、それが戻ってきただけなので実際のところは宿泊と食事を一食分で銀貨八枚というのは変わっていないのだが、それでもフェスタは何やら得をした気分になった、実に朝三暮四な少女である。
腹も満たされ、何だか得した気分になって、気持ちも満ち足りたところでようやく、ついに冒険者らしく、冒険者ギルドへ向かうことにするフェスタなのであった。