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フェスタの冒険 終了の危機

 声に振り返るフェスタ。

 そこに立っていたのは予想通り、茶色の髪で、鳶色の瞳、そばかす顔の、見るからに町娘……といった風貌をした偽王女こと、自称ワイズラット王国第一王女、エリザベス=セラフ=ワイズラット(仮)であった。

 以前と変わりない姿、いいや、以前とは違って皮で出来た胸当てを装備しているので、前よりは冒険者風の姿にはなっているが、紛うことなく偽王女である。


 もっとも、彼女が偽王女だと知っているのはフェスタとジバの二人だけ。

 偽王女とお付きをしていた老年男と中年女の騙っている本人も偽王女であることは分かっているだろうが、本人なのでノーカウントで良いだろう。

 ケインズも、その仲間であった二人も、旅のお供をしているかどうかは分からないが一緒に馬車に乗っていた商人も、彼女たちが偽王女御一行であることは知らない、はずである。


「ああ、お待たせして申し訳ありません。

 そろそろ焼き上がる頃合いと思いますので、何卒ご容赦を」


 偽王女に対し、申し訳なさそうに答えるケインズ。

 口ぶりからしても、偽王女は未だに偽物であるとは露見してはいない様子だ。


「に……王女……さ、ま」

「ん……貴女は?」


 思わず「偽王女」と言いそうになるのを堪えて「王女」とだけ言ってしまい、不自然ながら「さま」を付け足した為におかしな喋り方をしてしまったフェスタを偽王女が訝しげな顔で見返す。

 何かを思い出そうちしているような、それでいてフェスタを値踏みしているような、そんな様子である。


「エリー様、乗合い馬車で一緒になった、冒険者でございます」

「ああ、ああー!

 あの時は大儀でした、以後変わりはありませんの?」


 ケインズの助け舟に、ようやく思い出したという顔をする偽王女。

 どうやら、フェスタのことはすっかり忘れていたようである。

 フェスタが彼女のことを「王女様」と呼ばなければ意識すらされなかったかもしれない。

 いかに焦ったとはいえ、自身ミスを痛感するフェスタである。


「あ、その……はい……」

「そう、それはよろしいわね」

「エリー様、彼女らも迷宮に入っているそうで、十階層まで進んだそうですよ」

「そうなの、私たちよりも時間が掛かっているのね」

「ハッハッハ、我々と比べたら可哀想です。

 姫様が持つ神の御加護は無いのですから」

「そうね、ウフフ……」


 フェスタを置いてきぼりにするように流れる会話に、思わず遠い目をしてしまうフェスタ。

 もう、いっそこのまま存在まで忘れてフェードアウトさせてくれないかな、などと思ったりもするのだがそうは問屋が卸してはくれない。


「そうだわ、貴女、私のパーティーに移籍しなさいな。

 その方が良い修行になってよ?

 そうよ、それが良いわ!

 だって、やっぱり貴女って私の妹のフェスティアに似てるもの、私の側に居るのがいいわ!」


 いきなり、もの凄いところに飛び火してきた。

 そういえば、前回も似たような感じで強引な勧誘を受けたのである。

 前回も思わされたが、この女、フェスタがエリザベスの妹であるフェスティアに似ていると勘付く辺り、妙なところで勘が良い。


「え、ええ!?

 その……私、現在(いま)のパーティーが気に入ってますので」

「でしたら、パーティーごと私の下にいらっしゃいな」

「ええっ?

 私の一存ではですね……その」


 どう断っても食い下がってくる偽王女から、どうやって逃げるべきかを必死で考えるフェスタ。

 記憶の糸を辿ってみるが、前回はーージバが上手く取りなしてくれたのだった。

 不幸なことに、ジバはここには居ない。

 助けて、と思いつつケインズに視線を送ってみる。


「エリー様、彼女のパーティーにも都合がございますし、実力の違う者を無理に連れて歩くのは危険がーー」

「大丈夫ですわ、私を護る加護が、きっとこの娘にも宿りますもの」


 視線に気付いたケインズがフォローを入れてくれるも、偽王女は一歩も引かない。


「そうだわ、善は急げと言いますもの。

 今から私のパーティーに紹介してあげるから、付いてらっしゃい」


 もはや、火の着いたような勢いで話を進めようとする偽王女。

 完全に勢いに飲まれ「ああ、このままでは知らないおうちの子にされてしまう」などと思いながらも逃げる手段が思い付かないフェスタ。

 視界の端では、ケインズが屋台の人から串焼き肉を受け取ろうとしている。

 あの串焼き肉がケインズの手に渡った時が、フェスタが偽王女に連れ去られてしまう時である。


(ああ、ごめんなさい。 ジバさん、アリサさん、ニティカさん。 どうやら私はここまでのようですーー)


 アレプトと戦った時ですら見せなかった弱気を、心の中でフェスタが呟く。

 ああ、剣を修理しようなんて企まなければ、買い食いしようなんて思わなければーーと思っても後の祭りである。

 後悔先に立たずで完全なるアフターフェスティバルである。

 ここで敢えなくフェスタは連れ去られ、フェスタは偽王女のパーティーメンバーにされてしまい、これにてフェスタの冒険は終了、ご愛読ありがとうございましたーーとはならなかった。


「おや? フェスタさん、どうしたんですか、こんな場所で」


 救いの神こと、便利な糸目男、パーティーの知恵袋、ジバがそこには立っていた。


「あ、ああ! ジバさん!」

「おや、そちらはいつぞやのーーお久しぶりです」


 ジバへと駆け寄るフェスタ、フェスタが居た場所にいる人物を見て、ジバがそつない挨拶を交わす。


「あら、貴方はあの時の。

 丁度いいわ、この娘を私のパーティーに入るように言っていたのよ、貴方も同じパーティーなんでしょ?

 一緒に私の下で戦いなさい?」


 偽王女にそう言われ、少し驚きの表情を見せつつも、落ち着いた素振りでジバはケインズにそっと視線を送る。

 ケインズは偽王女の背後で両手を合わせ「すまない」と声を出さずに口を動かす。


「大変光栄なお誘いですが、我々は迷宮探索を打ち切ることに決定したばかりでして。

 こちらのーーフェスタさんの剣が先日迷宮で壊れてしまったこともあってロードレット大陸へ修理に赴くことになっています。

 そちらの足枷にしかなれない有様ですので、今回はご縁が無かったということで、申し訳ありません」


 偽王女に口を挟ませないように、ジバが一気に言い切った。

 これだけで終わらず、さらに追撃を掛ける。


「おお、そういえばーーフェスタさん、買物は終わったんですね?

 失礼、連れを待たせておりますので、これで失礼させていただきます」


 そう言いながら、さっとフェスタの手を取って、宿の方へと向かって歩き始める。

 ジバに付いて、フェスタもペコっと頭を下げてその場から離脱に成功する。


 こうして、フェスタの冒険は終了の危機を脱したのであった。

この連載ペースと人気の無さからして、笑いごとでは無いかもしれない件

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