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フェスタの冒険 会いたくない人

「久しぶり、君たちもやっぱり迷宮に挑んでいたのかい?」


 声を掛けてきたのは、タルカに向かう馬車で一緒になった冒険者、ケインズであった。

 馬車の護衛をしていた、三人組の冒険者の剣士で、フェスタたちとは一緒に馬車を襲ってきた盗賊とも戦ったこともある。

 確か彼らは、タルカに到着した後に馬車に乗り合わせていた偽王女と一緒にーー。

 と、そこまで思い出したところで、フェスタはこのケインズも『できれば会いたくない人』のリストに入っていたことを思い出す。


 そう、偽王女である。

 フェスタの姉である、エリザベス=セラフ=ワイズラットを名乗る若い女。

 押しが異常に強く、フェスタが苦手としている人物の一人である。

 そう言えば、彼女らも『試練の迷宮』に挑むと言っていたことを改めて思い出した。


「あ、け、ケインズさん……でしたよね?

 皆さんお元気でしたか?」


 屋台の人から串焼き肉を受け取りながら、ケインズに当たり障りのない返事をフェスタがする。

 笑顔が引き攣るのは、さほど不自然ではないだろう。

 同じ馬車に乗り合わせた顔見知りではあるが、親しい間柄ではない。

 ましてや、フェスタは冒険者といえども成人すらしていない、幼い少女なのだ。

 一人でいるところに、顔見知り程度が話しかけてきたら警戒だってするだろう。

 もっとも、フェスタが警戒しているのはケインズ本人ではなく、ケインズに同行している可能性が非常に高い偽王女なのだが……それはケインズには知る由もない。

 ケインズはフェスタの警戒の色を悪意にが捉えず、変わらぬ調子で応えた。


「ああ、俺たちのパーティーメンバーも、王女様も、順調に迷宮を探索してるぜ」

「あ、やっぱり……さ、さすがですね!」


 フェスタの『やっぱり偽王女も一緒なんだ』という意味を込めた「あ、やっぱり」の部分は小声であったためケインズには聴こえておらず、とりあえずは無難な会話の態は成している。

 迷宮探索が順調と話す剣士風の男に、それを「さすが」と褒め称える冒険者風の少女、不自然なところは全くない。

 何故か少女が両手に串焼き肉を持ちながら冷や汗を流していなければ、ではあるが。


 上手い契機があれば、フェスタとてこの場を早々に離脱したいと思っているのだが、そこは年齢の若い者の悲しさと言おうか、経験の少なさが祟りタイミングを上手く掴めないのである。

 どのぐらいタイミングを掴めていないかといえば、話している最中にケインズが串焼き肉の屋台の人に「三本くれ」と言うのを見るがままになってしまい、そこで「じゃあ、私はこの辺で」とでも言って去ってしまえば良かったのに、何故か立ち話続行のような感じになってしまって立ち去るタイミングを逃してしまっているレベルの下手クソさである。


「うん、君らも迷宮に潜ってるんだろ?

 どの辺りで回ってるんだい?」


 続くケインズの質問に、フェスタの『やっちまった感』が深まる。

 フェスタとて、ジバほど口が達者なわけではないが、失言しない程度の自信はある。

 ケインズたちが一緒に居る王女が偽王女であるとか、自分たちは既に迷宮を踏破してしまったとか、口を滑らせてしまうようなことはない、そういう自信ならばある。


「あ、私たちは……その、まだ十階層にもいけてませんね、はい」


 語尾に近付くにつれて、声が小さくなっていくフェスタ。

 方便とはいえ、嘘を吐くのが苦手なので罪悪感から声が小さくなるのだが、ケインズの受け止め方は好意的だ。


「いやいや、君みたいな小さい子がいるパーティーで十階層なら凄いもんだよ。

 俺たちはようやく二十階層ってところなんだ、やっぱりなかなか顔を合わせないもんだな」


 フェスタの声が小さくなるのを、十階層辺りまでしか進めていない恥ずかしさからだと好意的に解釈するケインズである。

 偽王女とパーティーを組んでいる人間でなければ好青年なのだが、残念でならない。

 そう、こういう『◯◯でなければ』という言い回しは、『◯◯』の部分が致命的な時に使われるのだ。

 「酒癖さえ悪くなければ」というならば、その人は酒癖が致命的に悪く。

 「女癖さえ良ければ」と言われるならば、致命的に女癖が悪い。

 この法則に従うように、フェスタにとってはケインズという人物は『偽王女に付き従っている』のが致命的な欠点となっているにである。


 とはいえ、会話のラリーはそこそこ続く。

 互いのパーティーの近況や、ケインズの十階層から二十階層の間の情報提供(アドバイス)

 フェスタもケインズも、両者ともにコミュ障ではないように会話はそこそこ弾んでしまい、その度にフェスタの『やっちまった感』は深まっていく。


 時間にすれば長いものではない。

 フェスタが串焼き肉を受け取り、ケインズが頼んだ串焼き肉三本が焼き上がるまでの、極めて短い時間である。

 そう、フェスタがケインズと話していた時間というのはそんな程度のもの、短くて三分、長くて五分程度のものであったはずなのに。

 フェスタの最悪の予想は的中し、その時『やっちまった感』は最高潮(マックス)に達したのである。


「ちょっと、ケインズ。

 貴方、いつまで時間がかかりますの?」


 ついつい話し込んでしまっていたフェスタの背後からーー。


 偽王女 が あらわれた !

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