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マニュアルの補足

「どうです? すごいでしょ⁉︎」


 色んな意味での驚きでポカンとしてしまった茉莉に、フェスタが喜色満面といったドヤ顔を浮かべながら聞いてくる。

 一刻も早く感想を聞かせて欲しいといった風情である。

 ドヤ顔に何種類かのバリエーションがあるな、と思い『やっぱりドヤ顔をする度にデコピン一発ずつくらいは食らわせておくべきか』と頭の隅で思いつつも、とりあえずはフェスタを片手を上げて制する。


「ちょっと待って、色々と考えが追いつかない」


 そう言いつつ片手で額の辺りを押さえながら自分を落ちつせる。

 なるほど、確かに日常生活を送りながらも使えるマニュアルである、それは認めるに(やぶさ)かではない。

 だが、マニュアルと言いつつも提示される情報量が少ないのではないだろうか?

 いくらなんでも商品名と現状が表示される程度で見知らぬ場所において生活するためのサポートが可能な説明書になるとは、とてもではないが思えない。


「う、うん。すごいのは認めるんだけど、ちょっと情報量が少なくないかな?」


 茉莉の言葉にフェスタはウムウムと頷いてみせる。


「その辺りはご安心を。今はお試しですので情報量を『低い』に設定してあります」

「ああ、そうなんだ。じゃあそれを高いとかに設定したらもっと詳細な情報が出てくるってことかな?」

「はい、その通りですがあまり情報量『高い』はオススメできません。

 何せ道端の石ころ一つを質問しても読むだけで一時間はかかるような情報量が表示されたりしちゃいますし……」


 さらっと、厄介な感じの情報を流されたような気がする茉莉であるが、とりあえずこの場は流すことにする。

 情報量の少なさについての疑問は多少なり解決した、となれば次なる疑問は先ほどフェスタについて質問した際に出てきた新たな疑問についての数々だ。


「なるほどね。

 ところで、今あなたについて質問したら勇者以外に『異次元』とか『領主』とか『神々の使徒』とかの全く聞かされてないキーワードが一杯出て来たんだけど……その辺りもきっちりと説明してもらえるかな?」


 極めて穏やかな口調であり、微笑みながらではあるがーー茉莉の眼は全く笑っていない。

 むしろ、口調や表情とは裏腹にまとうオーラは『聞いてねえぞテメエ、さっさと白状しろや』というものを滲ませるどころか全身に押し出している。


 フェスタは小さく「ひぃっ」という悲鳴を上げながらあからさまな「ヤベェ」という顔をしている。

 向かい合って座っているはずなのに、いざとなれば何としてでも逃げてやろうという気が透けて見えそうな体勢である。

 斜め上を見ながら冷や汗を流してみたり、顔色を真っ青にしながら首を左右に振ってみたり、俯いて顔を真っ赤にしてみたり。

 ごく僅かな時間であるのにフェスタの様子の変化が著しく忙しい。


 いつの間にか正座の姿勢となり自分の膝に指でのの字を書きながら口は何も話していないのにモゴモゴと動かされいる。

 まるで親に叱られている最中の子供のような姿だ。

 このままではラチが空かない、と茉莉は極めて冷静にフェスタへ語りかける。


「……怒らないから、ちゃんと話してくれるかな?」


 茉莉の言葉に、フェスタが顔を上げて視線を茉莉に合わせてくる。

 それでもまだ話し難いのか、口をモゴモゴと動かしたり、への字に結んでみたりと踏ん切りの付かない様子のフェスタであったがーーついに決心を固めたのか、一度キリっと形の良い唇を結んだ直後、ついに重い口を開いた。


「茉莉さん……乙女のプライバシーを覗き見するのは感心しませんよ?」


 小首を傾げながらそんな事を抜かすフェスタの額に、茉莉の渾身のデコピンが炸裂したのはその直後であった。

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