フェスタの冒険 行動方針
差し当たってのパーティーの目的、というか行動指針と言うべきか。
誰もが言葉にして明示してはいなかったが、フェスタたち一行の喫緊の目的というか目標は『パーティーの戦力強化』だった。
その為の手っ取り早い実戦経験の場所として『試練の迷宮』に挑んでいたわけだ。
そして、試練の迷宮を踏破してみた結果はと言えば、これは大成功と言って差し支え無い成果を上げたといえるのではなかろうか。
迷宮に入るまでもなく一流の冒険者であったジバはともかくとして、フェスタやニティカ、アリサも冒険者としては上位と呼べるだけの戦力があることは疑いない。
遠回しにではあるが、戦力の底上げの提案をしたジバから見ても、今回の成果は申し分の無いものであった。
それでは、パーティーの次なる行動は如何にあるべきだろうか。
そんなのは決まっている、そもそもこのパーティーの目的は何であったか。
このパーティーは、勇者候補であるフェスタを中心に集められた『魔王討伐のパーティー』なのだから。
しかし、パーティーとしての意思統一というのは必要なものである。
ということで、フェスタたちは宿の一室で今後の行動を決める会議を開いていた。
「そんで、次はどこへ向かうんだい?」
手甲の手入れをしながら、アリサが誰に、というわけでもなく問い掛ける。
これまでの会話で、ネフィス神殿の教皇との謁見を終えたらエフィネスを出発しようという話は纏まっていた。
しかし、出発した後の行き先や目標に関しては何も決まっておらず、それが故のアリサの問い掛けなのである。
「うーん、私はフェスタさんの武器の修理が良いのではないかと思うのですがね」
と、全員分のお茶を入れながらジバが答える。
このパーティー、女性比率はかなり高いのに、一番女子力が高いのは明らかジバである。
女子力で順位を決めるなら、次いでニティカ、フェスタ、アリサの順にランキングが並ぶ。
これまで神殿の手伝いとして炊事洗濯掃除もやっていたので一通りのことはこなせるニティカ、王宮での教育で礼儀作法やお茶やお花の初歩程度ならなんとか知っているレベルのフェスタ、既に女を捨てている感があるアリサ、という感じである。
みんな、誰も疑問など一つも抱かずにジバからお茶を受け取っている辺りに女子力の低さが現れてしまう。
「私はアレプトさんから貰った村ちゃんがあるから、剣の修理は後回しにしてもらって良いんですけどねー。
それよりはホーク大陸に上陸する方法を探すのが先決じゃないかと思うんですよ」
お茶を飲みつつ、テーブルに置かれたお菓子を片手にフェスタが自分の意見を述べる。
ちなみに、『村ちゃん』とはフェスタがアレプトから貰ったカタナの銘の愛称である。
ジバが鑑定した結果、カタナに『村正』という銘が付いていることが分かり、それを聞いたフェスタが『村ちゃん』と愛称で呼ぶようになった。
さらに、テーブルに置いてあるお菓子も宿の備え付けなんて気の利いたものがこの世界の宿にあるはずもなく、ジバが気を効かせて置いたものである辺りが非常に残念な話である。
「うーん、私はフェスタ様の装備を整えておく方が安全を確保できると思いますから、ここはジバさんの意見に賛成ーーです」
フェスタの口許に付いたお菓子のカスをハンカチで拭いながら、ニティカが言う。
相変わらずのフェスタ愛全開のニティカではあるが、実はアレプト戦前に勃発したフェスタとニティカの意識のすれ違いの件は何も語られていないし、二人の接し方もアレプト戦前と何ら変わっていない。
ただ、以前よりフェスタはニティカに遠慮をしなくなったし、ニティカはフェスタに対して少しだけ反対意見を出すようになった。
ジバとアリサも、その辺りを見つつ『口出しはせずに成り行きを見守ろう』というスタンスを取っている。
一通りの意見が出揃ったところで、一同の視線がアリサに向く。
現在のところ二対一、アリサの意見次第では同点となる。
現時点で味方のいないフェスタが縋るような視線をアリサに送る。
そして、アリサの選択の結果はーー
「アタシは、みんなに任せるよ、やりたいってことも無いし」
ーー棄権であった。
こうして、多数決というある意味民主的な方法によってパーティーの次の行動が決まった。
まずは、フェスタの剣を修理、である。
明日の教皇との謁見の前に、本日中に町の鍛冶屋で剣を修理可能かどうか見て貰おうということで話は纏まったのであった。