フェスタの冒険 カタナ
地上に戻り、一行はまず宿に戻った。
浄化魔法を使用していたとはいえ、それでも風呂などに入りたいのは人情であるし、それ以上に利用していた宿に約一ヶ月は戻っていなかったのだ、置いて来た荷物やネフィス神殿の教皇への目通りまでの滞在期間中の宿泊の交渉などもある。
試練の迷宮を踏破したから、といってすぐに教皇に謁見して踏破の証見せればニティカの改宗の許可と巫女としての旅への帯同が許可されて、いざ次の目的地へと出発、とはいかない。
やるべき事は済まさないといけないし、次の目的が決まって旅に出るにも準備が必要となる。
なかなかもどかしい事ではあるが、現実はいつでもどこでも世知辛いものなのである。
「はあー、良いお湯でしたあ!」
街中の公衆浴場から帰って来たフェスタが、爽やかな笑顔で部屋へと戻って来る。
後ろからはアリサとニティカも一緒だ。
宿には風呂が付いておらず、身体を拭くためのお湯を桶に入れてくれる有料サービスがあるのだが、女性陣の出来れば湯船に浸かりたいという要望に応えて、ジバだけが宿に残って身体をお湯で綺麗にした後に雑用をこなし、女性陣は公衆浴場へと出向き、久々の入浴を楽しんできた、という訳だ。
え?読者サービス?無いっすよ。
「お帰りなさい、荷物の整理は終わらせておきましたよ。
神殿への言付けも終わっています。
返事が来るまでは休養日にしましょうか?」
デキる男ことジバが、戻って来た面々に報告と相談をする。
どんな時でもホウレンソウこと『報告、連絡、相談』は大事なのだ。
勿論のこと、ジバの提案は満場一致で受け入れられた。
そもそも、神殿への拝謁が決まらなければパーティーとして動きようもないし、時間潰しになるレベルアップはこの一ヶ月で飽きるほどやることになった。
ならば、パーティーに必要なのは適度なリフレッシュであることは議論の余地はないことであった。
「後はーーそうだ、忘れないうちに。
フェスタさん、アレプトさんからの預かり物です」
そう言いながら、ジバは一振りの剣をフェスタに渡す。
渡されたのは、フェスタが見慣れぬ形をした、黒い鞘に収まった剣である。
フェスタが普段扱っている剣に比べると、鞘に入っている時点でかなりの反りが付いている。
「これ……曲刀ですか?」
聞きながらも、フェスタにも手の中にある剣が曲刀とは違う事が解る。
この剣は、フェスタの知っている曲刀と比べると細い、というか膨らみが無い。
見たことが無い剣である。
「いえ、抜いてみてください」
ジバにそう言われ、フェスタが鞘から剣を抜き出す。
「うわあ………」
「ほお……」
「すごいな……」
女性陣から三者三様の感嘆の言葉が溜息共に漏れる。
その剣の刀身が、美術品のように美しかったのだ。
通常の剣とは違い、片刃の刃には波のような模様が浮き出ている。
刀身は細いのに、簡単には折れなさそうな強靭さを感じさせる。
何かを切るという目的を純化させ、具現化すればこのような形になるのではないか、そう思わせる。
「それは、『カタナ』といいます。
私も実物を見るのは初めてですが、ラツィオ共和国の中にある少数民族の伝統武器と聞いたことがあります。
いや、噂には聞いたことがありますがーー見事なものですね」
ジバが興奮気味に解説をしてくれる。
「こ、これ、振ってみても良いですか?」
皆が頷きながら、フェスタから少し離れた場所で見守る。
一度、深呼吸をしてから、フェスタがカタナを正眼に構える。
そこから、カタナを頭上まで持ち上げてからーー一気に振り下ろす。
ビュッ、という鋭い音が響き、空間を切り裂いたようにカタナが通った跡に一瞬だけ光の筋が残った。
「ふわあ……すっごい振りやすいです、コレ」
余程に良い振り味だったのか、頰を紅潮させながらフェスタがその感想を述べる。
そのままでは危ないと思ったのか、フェスタがカタナを鞘に納め、カチンという小さな音が鳴った。
その後、夕食を取りに町へ出向いた一行。
部屋に戻ると、神殿の使いが待っており、教皇との謁見は明後日の朝に、ということが伝えられたのだった。