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フェスタの冒険 地上に

 翌朝、全員が起きた時刻は早かった。


 食事後に早々眠ったフェスタとニティカ、アリサはともかくとして、夜半を過ぎてアレプトと話をしていたジバも誰より早くから起きていた。

 昨夜、アレプトから聞いた話を、自身の裡で整理する為に色々と整理する時間が必要だったのだーージバが寝ていない可能性は極めて高いが、それは彼のみが知っている話だ。

 アレプトから『内密に』と言われた訳ではないものの、フェスタたちパーティーメンバーにアレプトから聞いた話をそのまますぐに伝えるのは拙いという感覚がジバには有った。

 特に神と悪魔に関する下りは、現役の巫女であるニティカにそのまま伝えてしまうには衝撃の大き過ぎる話ではないかと懸念された。

 ジバの中で、話せる事と話せない事を整理した上で、必要な時があれば必要に応じて聞かせてみる。

 一晩悩んだ末、ジバの着地点としてはそういう所に収まったのだった。


「ーーええ、お帰りの際はそちらの指輪をお使いになるとすぐですとも、ええ」


 出立の準備を終えたパーティー、特にニティカに対してアレプトが語っている。

 一日に一度だけだが、今までに行ったことがある場所のどこにでも一瞬で移動できる、『転移の指輪』の話である。

 使い方は非常に簡単で、装着して、行きたい場所をイメージしながら、指輪に願うだけで良いらしい。

 一度使うと指輪に嵌められた青い宝玉が白くなってしまい、再び青くなるまでは使用できない。

 再度、宝玉が青くなるまでに掛かる時間がおおよそ一日掛かるので使用回数は一日に一度、ということだそうだ。

 長らく魔法道具(マジックアイテム)鑑定課で働き、幾多の道具を見てきたジバでさえお目にかかったことが無いほど希少(レア)な一品である。


 そもそも、この世界に転移術というものの存在は知られていても有名(メジャー)なものではない。

 短距離の転移でさえ、複雑な魔法陣と起動するための膨大な儀式、術式を発動させ安定させるために老練な魔術師が多数必要となってしまう大魔術なのだ。

 アレプトが言うような『便利な道具』と呼ぶには、この転移の指輪の能力(ちから)は些か逸脱したものなのである。

 そう考えると、昨夜ジバがアレプトに頼んだ『道具よりも武器になるものを願いたい』という発言は軽挙だったのではないか、とジバは内心で少し反省してしまう。


「そうそう、ジバさん。

 昨夜のお約束のモノ、忘れないうちにお渡ししておきましょうかねえ」


 と、いきなりアレプトがジバに包みを渡して来た。

 人の腕よりも少し長いぐらいの大きさの包みだ。

 重さは手にズシリとくる程度には重い。


「え、これは……?」

「はい、お約束の『戦力となる物』ですとも、ええ。

 指輪はニティカさんに、こちらはフェスタさんにご褒美、ということにしておきましょう、ええ。

 地上に戻って落ち着いたらお渡ししてあげてください。

 しばらくはフェスタさんの剣も『替え』が必要でしょうしねえ」


 どうやら、昨夜の話はアレプトにとって軽い口約束ではなかったらしい。

 まさか悪魔がーーいや、神がダメ元の約束を守ってくれるとは思わず、ジバは驚いてしまった。


 そして、アレプトが述べた『フェスタの剣』である。

 今朝の出発準備の際に分かったことであるが、フェスタの剣はアレプトに殴られた時に大きな(ひび)が入ってしまっていた。

 幸い、刃には大きな刃こぼれも損傷も無かったので、無理をすれば使える程度の損傷なのだが、パーティーの決断としては地上に出たら替えの剣を購入して、修理するまで現在の剣は保管しようという話でまとまっていたのである。


 そんな折に、期待していなかったところからアレプトからの武器のプレゼントである。

 包みの中にどのような武具が入っているのか今は分からないが、有り難いことはこの上ない。


「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、是非とも魔王討伐にお役に立てていただければ何よりですとも、ええ」


 腰を深く曲げ礼を言うジバに、アレプトは飄々とした風に礼を受け流す。

 その流れから、ジバ以外のメンバーもアレプトへと口々に礼を述べる。


「戦い方の指導、ありがとうございました!」

「この指輪、大切に使わさせていただきます」

「良い酒、ごちそうさん! また飲ませてな!」


 一同に対し、アレプトは「ええ、ええ」と柔かな様子で受け答えする。

 そして、いよいよ試練の迷宮から離脱する時が訪れたーー。


「お名残惜しいですが、皆さんも大事な旅の途中、ええ、仕方ありませんとも。

 旅のご無事を遠き地中からお祈り致しましょう。

 近くにお立ち寄りの際は是非顔見せを、いつでも歓迎差し上げますよ、ええ」


 ジバだけには分かる神の祝福にも似た別れの言葉を一同で聞きつつ、ニティカが転移の指輪を静かに起動させる。

 周りの景色が一瞬揺らぎーー歪みが元に戻ったと思った時、一同は既に地上へと立っていた。

 見覚えのある景色、試練の迷宮、その入口である。

 ニティカの薬指に嵌った指輪の宝玉が白くなっている事が、この指輪の力による転移であることを証明していた。


 かくして、フェスタたち一行は『試練の迷宮』を無事に踏破することに成功した。

 この先の予定すら決まってはいないが、全員に何がしかの手応えと達成感を与えたのであった。

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