フェスタの冒険 会談
「アレプトさん、いくつか疑問がありまして……聞かせていただいて良いでしょうか?」
「ええ、私に答えられるものでしたら、ええ、構いませんとも」
優雅な所作で口許を拭きながら、アレプトがジバからの願いに答える。
他のメンバーは、フェスタとニティカは満腹感と疲労から、アリサは食事中にずっと呑んでいた酒の影響からか椅子に座ったまま眠ってしまいそうになっている。
「ーーその前に、場所を変えましょうか。
お嬢さん方にはベッドでも用意して差し上げましょう。
ええ、時刻も夜ですしねえ、ええ」
言いながら、アレプトが立ち上がり、同時に玄室の奥から使い魔たちがやって来る。
数人がかりでベッドを抱えている使い魔たちが居るところから見て、この大広間をそのまま寝室へと変えるようである。
それにしても、既に夜になっていたとはジバも気が付いていなかった。
ジバの感覚だと、時刻は外では夕刻に差し掛かった頃かと思っていた。
最下層前で休息を取って、この最下層に入ったのは朝である。
そこからアレプトと食事をして、少し休んでからフェスタとニティカがひたすら戦うのを見学。
その後に休憩を挟んでから再度食事をしての現在である。
時間の感覚が狂ったと思しきはフェスタとニティカの戦いであろうけれども、そこまで時間が過ぎているとは思っていなかった。
戦っていたフェスタとニティカは勿論のこと、見学であったジバとアリサも戦いを集中して見ていた。
無論、フェスタとニティカがアレプトに殺されてしまいそうな展開となったり、パーティーを分断させて戦わせるような罠の類いであった時にすぐに飛び出せるように集中していた、という理由はあった。
しかし、それ以上にジバから見てもアレプトの戦い方は非常に勉強になるものだった。
実力がかけ離れているので、真似をしろ言われても無理ではあるが、それでも参考になる部分は多々あった。
体捌きに、敵の位置誘導、フェスタたちが気付いていたかは分からないが魔力を利用してのフェイントといったものまでアレプトは見せていたのだ。
ジバの横に居たアリサも、文句一つ言わずに食い入るように戦いを見ていた。彼女も何か感じるところがあったのだろう。
このように、ジバも集中して戦いを見ていたのは確かなのだが、そこまでの時間が過ぎていたとは思ってもいなかった。
時間と、その密度は一定である、そんな常識を疑いたくなるような現象である。
「さてさて、何をお聞きになりたいのでしょうかね?」
ジバがアレプトに案内されたのは、大広間の奥の扉から入った書斎のような部屋である。
四人掛けのテーブルセットと、小さいが瀟洒な細工が施された文机、簡易なベッドが置いてあるところを見るに、ここがアレプトの私室なのかもしれない。
「いくつかお伺いしたいことはあるのですが。
そうですね、まずーーどうして今回はあの二人だけで戦うことになったのでしょうか?」
「はて? 『今回は』とは、どういった意味でしょうかねえ?」
ジバの質問に、アレプトがトボけたような仕草を見せる。
「私は以前、別のパーティーでこの迷宮を踏破したことがあります。
その時と比べると、かなり……いや、ほぼ何もかもが違います」
ジバは、逃がさないとばかりに追撃を入れる。
「そうでしたか、いえ、失礼。
私もここに常駐しているわけではありませんからねえ、貴方が来られた時は代役だったのやもしれません。
代役ですと、こうしておもてなしをして差し上げられませんからねえ」
「代役……ですか?」
「ええ、私自身がここに居れない時は、代役の人形が置いてありますからねえ。
それなりの実力が無いと倒せませんから、十分に試練となっているとは思っているのですが、ええ。
まさか、ここに何度も訪れる人がいらっしゃるとは、想定外でした」
この言葉で、ジバが以前戦ったアレプトと今回のアレプトの実力がかけ離れたものであった理由には納得がいった。
だが、質問の答えにはなっていない。
「ふむ、今回が本当の試練の迷宮の主人の対応として、何故フェスタさんとニティカさんのみが試練に挑むことに?」
再度、質問を投げかける。
「それは単純な理由ですねえ。
ニティカさんは踏破の証を立てないといけない、フェスタさんは勇者となろうとしている。
理由はそれだけです、ええ、ええ」
つまりは、ジバとアリサには試練に挑む理由が無かったから戦わなかった、ということであろうか。
腑に落ちない部分はあるとはいえ、納得できない理由では無かった。
不必要な試練を与えることは無い、という訳である。
ジバの質問は続く。