フェスタの冒険 指輪
「こちらが、試練の迷宮を踏破された証ーーとしましょうかねえ」
アレプトがそう言いながら手渡したのは、指輪である。
サイズはアリサならば小指用、ニティカで薬指、フェスタならば人差し指用といったところか。
材質は白みがかった金色で、小さな石が収まるそうな台座が三つ彫られていて、その真ん中部分には青色の宝玉のような石が一つだけ埋め込まれている。
「ええ、こちらをネフィス神殿で見せれば、踏破を認められるでしょう、ええ」
現在の場所は試練の迷宮の最下層、そのボス部屋とも呼べる大広間。
つまりは、フェスタとニティカがアレプトと戦っていた場所である。
戦いが終わり、しばし休憩を挟んだ後、最初にこの玄室に入った時と同様のテーブルセットが設えられていた。
無論、ここが迷宮の中とは思えぬほど豪勢な料理も同様に用意されている。
アレプトはフェスタの一撃が綺麗に決まったあの後、フェスタたちに試練の迷宮突破を認めたことを通告した。
そして、この場で待っていて欲しいと言い残し玄室の奥へと消えたと思うと使い魔と思しき小悪魔が現れてあっという間にテーブルセッティングをしていったのであった。
それから料理が順次運び込まれ、食事準備が完全に整った頃アレプトが戻って来て、場面は冒頭の部分へと至ったのである。
「これは……?」
指輪をアレプトから受け取ったニティカが質問をする。
指輪であることも分かっているし、迷宮踏破の証であることも聞いているので分かってはいる。
ニティカが聞きたいのは、これが『どういった指輪なのか?』という事である。
指輪は、一目見ただけで何らかの魔法道具である事が分かる。
目を凝らしたり、感じ取ったりする以前に指輪から魔力が溢れているのが見えてしまっていた。
ニティカも、この期に及んでアレプトを疑ったりしている訳ではない。
だが、迂闊に身に付けて、これが『呪いの指輪』だったなんて事になれば笑い話では済まない。
これが、受け取ったのがジバであれば即座に鑑定を掛けてどんな指輪なのかが分かったであろう。
だが、こうして指輪を受け取ったのはニティカで、迷宮を踏破した証が必要なのもニティカであり、アレプトが直接ニティカに指輪を渡したのは極めて自然な流れである。
無論、後からジバに鑑定してもらう、という選択肢も有ると言えばあるのだが、それよりは元々の所有者であるアレプトに問うのが一番手っ取り早い。
「こちらは『転移の指輪』です。
非常に便利ですよ、一日に一度だけですが、これまでに行ったことがある場所にならどこへでも一瞬で行けます。
お仲間も五、六人ならば一緒に転移できますしねえ、荷物も一緒に運べます。
きっとお役に立つと思いますよ、ええ」
赤い眼を弓なりの形しながら、機嫌良さそうにアレプトが教えてくれる。
どうやらこの悪魔公は、人に物を教えながら話すのが大好きなようだ。
元から話好きなようだが、人に何かを講釈するときはさらに饒舌となる傾向があるらしい。
ニティカに説明しつつ、アレプトが席に着き「さあ、食べましょうか」と皆に食事の開始を促す。
その言葉に、アリサは『待ってました』と言わんばかりに酒瓶を手に取り、葡萄酒を自分のグラスに注ぎ出す。
フェスタやジバも、二度目ともなれば疑う必要も無いか、と食事を始め、皆から少し遅れるように食前の祈りを済ませたニティカも食事を取り始める。
何だかんだと、休憩無しでぶっ続けで戦っていた為にお腹が空いていたのであった。
食事は静粛なままに進んだ。ずっと見学の立場だったジバとアリサはともかく、ずっと戦っていたフェスタとニティカは消耗しきったエネルギーを補給すべく、話すのも惜しいとでも言いたげなペースで食べ物を口に次から次へと放り込み、アリサは滅多に飲めない美味い酒を堪能するように表情はご機嫌だが基本的無口になっている。
ジバとアレプトも、そんな面々に合わせるように粛々と食事を続けていた。
そんな静かな食事もあらかた終わった頃、頃合いを見計らったようにジバが口を開いたのだった。