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フェスタの冒険 王手

 アレプトが構えを取る。

 今回は最後だからなのだろうか、戦闘前のアドバイスが無い。

 最後だからこそ丁寧なアドバイスがあっても良さそうなものだが、どうやらそうでは無いらしい。


 アレプトの行動に従い、フェスタとニティカも戦う姿勢を見せる。

 最初とは違い、二人とも余計な考えは頭の中から完全に追い出されている。

 良い意味で、純粋に戦うことに集中している。


 敢えて、フェスタとニティカは作戦を確認し合ったりはしていない。

 どのような作戦で挑むのかを対戦相手に隠す、それは当然の事だ。

 互いに視線を合わせると、どちらからというでもなくお互いが軽く頷いた。

 フェスタも、ニティカも、何故か相手の考えていることが分かったような気がした。

 いや、『気がした』という不確かなものではない。

 何故かわからないが、相手の考えていることが分かっていると『確信していた』のだ。


 ーー最後ならば、ここまでに学んだ全てをぶつけるだけ。


 これはフェスタの心の声だったか、ニティカの心の声なのか。

 もしかすると、二人が同じことを心の中で思ったのかもしれない。


 異体同心ーーそう呼べるほど、二人の心は美しささえ感じほどに重なり合っていた。


「では、始めましょう!」


 アレプトが、これまでに無い逼迫の気合いをその身から放ち、それが戦闘開始の合図となった。


(一気に!)


 まず駆け出したのはフェスタであるーーが、同時にニティカも支援魔法を発動させてから走り出す。

 フェスタとニティカ、思うところは一緒であった。

 気力は充実しているが、体力は限界に近い。

 いや、既に限界を迎えている身体を精神力で強引に動かしている状態なのを理解していた。

 全力を出し切れる時間は残り僅か、ならば出し惜しみをせずに出せる力を一気に使ってみせる。


 それが、最終戦に当たってフェスタとニティカが出した結論であった。


 対するアレプトは、お決まりの構えで待ち構える。

 腰を落とし、右手を前に、左手を頭上に。

 これまで、フェスタたちが数十回挑んで破れなかった鉄壁の構えである。

 今までとの違いがあるとすれば、アレプトから放たれる強烈なまでの闘気とーー完全なまでの隙の無さだ。


 向かって行くフェスタは、素早く駆けながらも『剣の極み』を発動していない。

 使えないのではなく、使っていない。

 それでも、アレプトに隙が無いのが理解できた。


 フェスタも、ニティカも理解していた。

 このアレプトによって用意された盤面は、全て最善手を打たないと即詰まされる、ということを。


 それ故に、フェスタは『剣の極み』を使わない。

 離れた位置から指示を出すニティカの声を聴く為に。

 それが分かっているから、ニティカは走り出す。

 フェスタが有効な一撃をアレプトに入れる、そのサポートをする為に最善な場所へと飛び込むが為に。


 剣の届く間合いに入ったフェスタが、神速とも呼べる動きでアレプトに剣撃を放つ。

 並みの相手ならば、この一撃で勝負が着きそうな防御不可避な攻撃。

 それをアレプトは容易く構えた右手で迎撃してみせる。

 重さよりも速さに偏った一撃はアレプトによって弾かれるが、そこはフェスタの想定内である。

 弾かれた剣はアレプトに掴まれることはなく、一撃を放ったフェスタも身体のバランスを崩すことなく剣を放った勢いを利用してアレプトに側面へと回り込む。

 しかし、それをも読んでいたように、アレプトは剣を防いだ右手をそのままフェスタに伸ばそうとしてくるーーが、その右手は敢えなく跳ね飛ばされた。


「せえいっ!」


 自身の攻撃を阻止され、やや驚くアレプトの視界には棍棒(メイス)を振り抜いたニティカが映る。

 フェスタへ指示を出す為に移動していた、そう思っていたニティカがアレプトに直接攻撃をして来たのが想定外だったのだ。

 支援(サポート)のみと、何度も戦ったが故に生まれたアレプトの固定観念、その裏をかかれた形だ。


 だが、それで終わるアレプトではない。

 残る左手でフェスタを迎撃に向かうーーが、剣を弾いた時にアレプトの左側に回っていたフェスタが、先ほどの一瞬の隙にアレプトの右側にまで回り込んでいた。

 しかし、予想は外れたが想定外とまではいかない。

 フェスタの位置を認めると同時に、裏拳を放つ要領で身体を半回転させる。

 アレプトから見れば、フェスタの剣を止めてしまえば、それ以外にはこの二人には自分にダメージを与える攻撃の術はない、という確信があった。

 先ほどは、ニティカに右手を跳ね飛ばされたが、あれは予想外の攻撃かつカウンター気味になり勢いで跳ね飛ばされたのだ。ダメージを受ける類いの攻撃力をニティカは持っていない。

 ならば、近接戦で警戒するのはフェスタだけで構わない。

 ニティカがアレプトの態勢を崩す目的の攻撃を加えてこようとする事だけは警戒しつつも、自身の攻撃リソースのほぼ全てをフェスタに向ける。


 左手で放つ裏拳でフェスタの持つ剣を叩き落とし、回転の勢いのまま右手でフェスタを掴み、地面に叩きつける。

 アレプトの脳裏には、戦闘終了までの青写真が既に描き出されていた。


「今です! フェスタ!」


 ニティカが叫んだのは、アレプトの左拳がフェスタの剣と触れるとほぼ同時だった。

 心の内で、アレプトは『遅い!』と勝利の宣言をしている。

 アレプトの中では、フェスタとニティカは既に王手を掛けられた段階だった。

 どのような策を用意していたかまではアレプトにも読めなかったが、次の瞬間にはフェスタの武器は無力化され、さらには次の次の瞬間にフェスタはアレプトによって倒される。


 この二人、遂まで自分には仇成せ無かったが、よくここまで喰らい付いた。

 褒美として試練は超えたと認めてやろうではないか。

 最後に、動けぬ程度に痛め付けられて貰うことにはなるがーー。


 刹那の後、アレプトの拳がフェスタの剣を弾き、戦いは遂に詰み(チェックメイト)となるーーと思われた。

 確かに、剣は弾き飛ばされた、広間の、誰も居ない場所へと飛んで行く。

 しかし、その場に立つはずの剣の主ーーフェスタが立っていない。


「ばっ……!」


 驚くアレプトがフェスタの姿を見付けるより早く。

 フェスタはずっと背中に着けていた盾を持ってアレプトの眼前に飛んでいた。

 視界は『剣の極み』によって映し出された、アレプトの顔面へと向かう黒く太い線を見ている。

 その線に身体ごと盾を乗せるように、落下の勢いも足してアレプトの顔面に盾を叩き付けた。


 ゴリっという重い音を立て、盾がアレプトの顔面にめり込む。

 フェスタの手は、アレプトにダメージを与えた手応えを感じている。

 そしてーーフェスタが地面に降り立つと同時に、アレプトが片膝を地面に着いた。


「ーーお見事!」


 そのアレプトの一言で、遂に最下層での戦いは終わりを告げたのであった。

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