むかしばなし
少年は独りぼっちでした。産まれた時からずっと、今日に至るまで。いいや、今日も彼は独りなのかも。
少年は大人に引き取られました。名前を貰い、服を貰い、食べ物を貰い、立派な家を貰いました。少年は何不自由なく暮らします。
少年が力に気付いたのは、まだ幼い時のことでした。
自分の力に怯え、恐怖し、大人に言います。
「ぼく、へんなちからがあるみたい」
不思議に思った大人は、少年の力を調べました。何が出来るのか、何が出来ないのか。
大人は少年に、力を隠すようにと言いました。それだけ言って、どこかへ消えてしまいました。
大人の行く先は少年にはわかりませんでした。
しかし、毎月お金が送られてきたり、年に数回会うことができたので、少年は気にも留めず一人暮らしを始めました。
少年は自分の両親のことを知りません。記憶にあるのは、ほんの少しの父親との思い出だけでした。母親のことは、何一つ。
「ぼくのおかあさんって、どんなひとなの」
ある日少年は、帰ってきた大人に聞きました。
大人は少年の頭を撫でて、こう言いました。
「お前のお母さんは優しくて、綺麗で、芯のある強い人だったよ」
芯のある強い人、とは何でしょう。
少年にはわかりませんでした。
「おかあさんはどこにいるの」
「ずっと遠くに」
大人が悲しそうな顔をしたので、少年もそれ以上聞けませんでした。
月日が流れ、少年は大きくなりました。
もう自分の両親のことを聞いたって驚かない、そう思えるほど強くなったつもりでした。両親が死んだことは、自然とわかりました。
そこで少年は、大人に尋ねます。
「僕の両親はどうして死んだの」
「お母さんは病気で死んだんだ」
「お父さんは?」
「それは」
大人は言います。
「殺されたんだ」
「誰に殺されたの」
少年の心に殺意というものが芽生え始めました。両親を殺した奴を殺してやる、という明確な殺意でした。
「■■■、という男だよ」
少年は決めました。
大人になったら、今より力をつけて能力を使えるようになったら、必ずその男を殺しに行く、と。