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Dragon Travel Story  作者: SIOYAKI
第三部第三幕 聖なる教えと桃源郷のお話
229/257

その17

 哀々怨(オオン)厭々々々怨(オオオオン)と。まるでそれは獣の哭く声。嘆き悲しみ恨み憎む音が、雪が降る中に響いている。

 哭いているのは魔物の群れだ。あらゆる全てが許せずに、生者を堕とそうとする人の敵。そんな異形達が生きてる人を目の前に、唯々嘆き続けていた。


(どうして、こんな事になったんにゃ)


 右も左も異形に囲まれて、ミュシャが思うはしかし身の危険などではない。少女は彼らに襲われないと、既に知っていたからだ。

 蒼く輝く真実を視通す叡智の瞳。涙に濡れたそれを使わなくても、襲われない理由は分かる。何故なら彼らはほんの少し前までは、唯の人間だったから。


 天に吠え立てる獣の様な、姿と化した魔物達。全身を覆う獣毛や昆虫の様な複眼は、僅かに残った嘗ての証。

 犬や狐や虫や鳥。種々様々な亜人達は、その全てが魔物に変わった。生き延びていた民などもう居ない。桃源郷はもう何処にもない。


 最初に魔物となったのは、一体誰であったのだろうか。一体どのタイミングであったのだろうか。ミュシャの瞳は、答えを導く。

 一番最初に落ちたのは、桃源郷が壊れる寸前。魔性を孕んだ風の囁きに、一人の子どもが壊された。未熟な心は蹂躙されて、皆の前で魔物になった。


 誰か一人が壊れれば、もう破局は止まらない。崩壊は連鎖的に引き起こされる。同胞が壊れる光景に、多くの者らが引き摺られた。

 最初に小さな子と、仲が良かった子どもやその家族が。次には負傷して身動きの取れなくなっていた人達が、絶望の中で壊れていった。


 そして魔物の数が規定値を上回った時、天使が産声を上げた。その産声で壊れる世界に、如何にか堪えていた者らも歪んで崩れる。

 彼らにとって、彼女らにとって、桃源郷とは最期の希望であったのだ。同胞が次々と堕ちていく中、それさえも無くしてしまえば耐えられよう筈がない。


 果ての景色がこれである。精霊王の下に避難していた亜人の人々は、その全てが悍ましい魔物に変じてしまった。救いは最早、何処にもない。


(助からない。もう、助けられにゃい。桃源郷は、終わったのにゃ……)


 溢れ出す涙を拭わずに、ミュシャは北の終わりを目に焼き付ける。既に終わってしまった彼らは最早、何をしようと救えない。

 自我が既に壊れている。中身は失われてしまったのだ。瘴気の制御など出来はしないし、失った自己を取り戻す術だってありはしない。


 時の針を戻したとしても、穢れた魂は戻せない。出来る事など精々、殺し滅ぼし清める事だけ。

 ミュシャの瞳は無情にも、揺るがぬ真実を突き付ける。龍宮響希に縋っても、もう救えないと分かっていた。


(何で、こんな事になったんにゃ)


 中身の残らぬ残骸は、焼き付いた最期の嘆きを天に吠え続けている。断末魔の声とも子どもの泣き声とも言える声音で、残骸達は獣の如く哭き続ける。

 それが余りに凄惨で、それが余りに切なくて、それが余りに虚しいから、どうしても考えてしまうのだ。何故どうしてと、此処に至ってしまった理由を。


 本当は、問うまでもなく分かっている。考えるまでもなく気付いている。理由など、たった一つしかありはしない。


「マキシム・エレーニン」


 全ては男の企みだ。この悲劇の元凶は、桃源郷の民を余す所なく使い潰す心算であったのだ。だからこそ、此処でミュシャを解放した。そうとも今になって、ミュシャが目を覚ました事も彼の仕込みだった。


 響希の治療も、風の精霊王の力も、確かに彼女を癒してはいた。だがそれだけでは、ミュシャが目覚めるまでにもう少しの時間を必要とした事だろう。だからこそマキシムは、意図して彼らへの妨害を止めたのだ。そしてミュシャは、目を覚ました。


 その真実にミュシャが気付けたのは、魔に変貌した獣人たちを目にした瞬間。この地に新たな神が降臨した事で、その悪辣なる罠の全貌を理解したのだ。


「……アイツは、呼び出した神を固定する為にミュシャの目を利用した。ミュシャが居たからこそ、皆壊されてしまったにゃ」


 マキシムが為した事は二つ。神を降ろし留める為の器作りと、神が降臨しやすい環境を生み出す事。

 前者の為に、第四聖典を利用した。ダグラスの姉妹を破滅させ、作り上げたのは神の受け皿。だがそれだけでは、片手落ちだったのだ。


 中身が無ければ、大きな器に意味などない。だからこそマキシムは、ミュシャと亜人達を使って神が出現しやすい環境を作り上げた。


 神降ろしに必要なのは、神話を再現した上で総意を誤認させる事。人の集合無意識がそれを神と誤認する事で、総意はその誤認を真実に変えようと動き出す。虚構の神は、真なる神へと変貌する。

 役を演じる者の内に、そうして概念神は宿るのだ。それこそが神降ろしの仕組みであり、しかし再現と言う点では此度の状況は不足が過ぎる。怪物と化したオードリーと天使の一致性は、誤認する程に大きな物ではなかっただろう。


 だからマキシムは、其処に趣向を凝らしたのだ。無数の亜人達を魔物に貶める事で、人の総意がこの地を認識しやすくなる様にしたのである。


(例え悪意の断片とは言え、魔物は総意と繋がっている。黄金の瞳が見た物は、世界中の人々の深層意識に刻まれる)


 魔物と化した亜人達の役割は、端的に言えば探査機だ。或いは撮影機材と言うべきか。どちらにせよ、その求める所は即ち一つ。

 瘴気は人類総意に沈殿した悪意であり、故に魔物とは人類総意と繋がっている。だからこそ探査機と作り変えられた彼らは、万民の深層意識に訴えかける機構と化した。


 ほんの僅かな一致でも、そうだと捉えてしまう様に。あれは神であるのだと、全ての民が想像してしまう様に。誰もの心に、この光景を刻み付ける事で不足を補った。


(そしてミュシャの瞳が、それを補強してしまう。ウジャトの目がマキシムの意図を視抜いたことで、ここは神が生まれやすい場なのだと言う前提を人類総意に刻んでしまった!)


 心威保持者とは、集合無意識から外れ掛けた者。総体ではなく個我として外れようとし、しかし総意から繋ぎ止められている者達だ。

 その性質上、彼らは総意の影響を受けにくく、逆に総意へは影響を与えやすい。叡智の瞳が見抜いた真実は、総意にとっても真実となってしまうのだ。


 だからマキシムはこの状況で、ミュシャを解放したのである。彼女に己の思惑を暴かせる事で、最後の引き金を引かせる為に。

 踊らされた猫人は見抜いてしまった。気付いてしまえば、もう目は逸らせない。ミュシャの所為で、水の大天使はこの世に顕現したとも言えるであろう。


「……ごめん、にゃ」


 哀々怨。厭々々々怨。哭き続ける獣達に向かって、最早届かぬ謝罪を呟く。涙と共に頭を下げたのは、唯の自己満足でしかない。


 ミュシャにとっては、知らぬ者らだ。同じ亜人と言う接点しかなくて、眠り続けていたから人柄だって知りはしない。

 けれどだからと、知らぬ存ぜぬでは通せない。彼らの命を穢した策を、最後に成立させたのが己となれば他人事では居られない。


 それでもやはり、これは自己満足でしかないのだろう。涙も謝罪も、何一つとして届きはしないのだから。そしてそれ以外の行為など、彼女は一切しないのだから。


「謝るにゃ。涙も流すにゃ。けど、ミュシャはそれだけにゃ。贖罪や償いなんて、一つもしにゃい。そんな時間は、ミュシャにはないから――」


 状況は最悪だ。現状は最低だった。天に君臨する大天使を前にして、彼の悪竜王すらも敗北した。

 打ち破られて切り捨てられて、大地に墜ちた悪なる竜。残骸さえも留めぬ程に、追い詰められた愛しい人。


「好きな人が居るにゃ。その人が危機に陥っているにゃ。他でもない、ミュシャの所為で。だからミュシャは、響希を助けようと思うのにゃ」


 溢れる涙を流したまま、俯くミュシャは感じている。少女が感じているのは、愛しい彼の微かな鼓動。

 肉体を滅ぼされ、魂さえも磨り潰された。それでも未だ、彼は如何にか生きている。聖剣が繋いだ絆を介して、ミュシャにはそれが分かっていた。


 しかし死してはいないが、それだけだ。消耗は余りに激しいのだろう。大天使が生存に気付けない程に、その鼓動は小さく儚い。弱った悪竜は、既に虫の息なのだ。

 このままでは早晩に、彼は真実滅ぼされてしまうであろう。天使が生に気付けば其処で終わり。そうでなくとも、生きていられる程の力が残っていない。


 飢えて餓死する様にゆっくりと、か細く儚く終わってしまう。そんな未来が視えていて、だがミュシャはそれが嫌なのだ。

 大切なのだ。大好きなのだ。もう二度と失わない為にと、求めた瞳が強く輝く。手の甲で溢れる涙を拭って、ミュシャは確かに前を見た。


「だから、ごめんにゃ。それだけにゃ。それだけしかしなくて、本当にごめんにゃ」


 だから、涙も謝罪もこれで終わりだ。彼の危機を前にして、今はもう他に出来る事などない。

 己の全てを賭けてでも、覆さねばと気炎を燃やす。天高く飛翔する神を見上げて、ミュシャはその瞳に宿した力を行使した。


――外功想行・以って我は心威を示す――


 真実を視抜く瞳。知りたい事を知る能力。ウジャトの瞳を求めた芯とは、彼を救いたいと願った想いだ。

 故に出来ない筈がない。故に視えないなんて理屈はない。今この時こそが、求めた力を振るうに相応しい時だから。


――月の象徴たる瞳。書庫の守護者が癒せしは、空と太陽を統べる者――


 視界に写した天使は、余りにその存在が強大だ。ミュシャが保持する干渉力では、遠く遠く届きはしない。

 しかし彼女の瞳が視通すのは、敵対者そのものではない。彼が彼女が今居る世界が、辿る未来を予知し予測するのである。


 故に敵手の抵抗力では防げない。この眼が視通す行為を止めようとするならば、必要となるのは抵抗力ではなく干渉力だ。

 ミュシャが行う世界への干渉を、より大きな力で阻む必要があるのだ。だがしかし、今の天使に自我はない。本能だけの怪物だから、視られる行為を防ごうとも思えない。


――我が瞳に宿りし神よ。右目たるネクベトの子が、左目たる御身に乞う――


 ならば、この力は通る。だがしかし、妨害されないからと言って未来を視抜くのが簡単な訳ではない。

 ミュシャの瞳で勝利の糸口を探すと言う行為は、膨大な量の未来からたった一つの可能性を掬い上げると言う事でもある。


 唯の人間一人の一生ですら、可能性は十の二十八億乗と存在するのだ。ならば強大な概念神となれば、当然あり得る結果はそれより多い。

 そして何より、未来の予測には多くの事象や多くの人々が関わって来る。この北に存在する生きとし生ける全ての者。それらが辿る可能性を全て視るなど、人に出来る域にはない。


――Haroeris(ハロエリス). Horus-(ホルス・)Behdeti(ベフデティ). Ra-(ラー・)Harakhte(ホルアクティ).――


 それでも、為さねばならない。ミュシャには視る事以外に術がないから、己の限界を超えてでも視通してみせるしかないのだ。

 守りたいから、助けたいから、救いたいから。ミュシャは己の心威を最大限に行使する。両の目を輝かせるだけでは足りぬから、背に浮かび上がるは巨大な瞳だ。


――心威・解放――


「全てを見通せ――天空王の瞳(ウジャト)ッッッ!!」


 何もない虚空に浮かぶのは、蒼い光が形作ったホルスの目。壁画に記される様な左目が、あらゆる未来を予測する。

 膨大な量の情報が、瞳を介して流れ込む。それは最早、痛みさえも伴う程に。脳が破裂してしまうのではないかと言う情報量に、ミュシャは悲鳴を上げていた。


「あ、う、ぐぅぅぅぅっ!? あああああああああああああああああっっっ!!」


 アリス・キテラの時とは違う。ミュシャの心威は、彼女の嘘と相性が良かった。塗り固められた虚構を暴く事は、今思えばとても簡単な事だった。

 存在の強大さと内包する可能性の量は変わらねど、あの時は隠された真実を見付け出せば良かっただけだ。これ程に大量の情報を、処理しなければならなかった訳ではない。


 サンドリオンの時とも違う。やっている事は同じだが、彼女は唯の人間だった。その生涯の中で出来る事など、永劫に生き続ける概念神とは天地の差である。

 そしてあの時には時間があった。一晩と言う時を掛けて、少しずつ見抜いていけば良かったから出来たのだ。けれど今は時間がない。一分一秒すら惜しいから、限界だろうと止まれなかった。


(目が、痛い。まるで脳みそが、熱で溶けてしまったようで。今にも、意識が消し飛びそうにゃ)


 脳が溶けてしまうと感じる程の高熱。全身に流れる血液は、沸騰してしまっているかのよう。情報を見過ぎた眼球は、そのまま砕けてしまいそう。

 それでも探し続けた猫人の、瞳からは血が溢れ出す。鼻からも耳からも口からも、止めどなく流血しながら少女は探す。己の全てを此処に費やし、願いに届かせようと彼女は足掻いた。


「でも、知りたい。知らなきゃ、ならない。だから、ミュシャは――――っっ!!」


 視えた未来の、九割九分九厘以上は破滅の結末。億でも兆でも足りない未来で、愛しい人は殺され続ける。だからミュシャは、異なる未来を探し続ける。

 血涙を流しても尚、力の行使を止めない猫人。彼女の脳が溶け切る前に、その瞳が先に砕けた。水晶体か網膜か、壊れたのはどの部位か。どうあれ結果は唯一つ、視界が白に染まっていく。


 何も見えなくなっていく。何も掴めないまま、ホルスの目が崩れていく。ゆっくりと狭まる世界の中で、それでも少女には見付け出したい未来があったから。


「今こそ、全てを視通せぇぇぇぇぇぇぇ――――っっっ!!」


 蝋燭の火が最後に大きく燃え上がる様に、限界を超えて力を発する。視界を失うその直前に、ミュシャは可能性を掴んでいた。


(嗚呼、掴んだ。そう、か。これが、今に出来ること)


 これは如何なる幸運か。いや、少女の執念が齎した必然と言うべきか。視力を無くした少女はどうあれ、確かに最後にそれを視た。

 疲労と満足感の余りに、このまま意識が飛びそうになる。だが、歯を噛み締めて如何にか耐える。まだゴールの位置が分かっただけで、スタートラインにすら立ってはいないのだから。


(なら、眠っている余裕はない。掴んだ糸がどんなに細く脆くとも、手を離す訳にはいかない。限界を超えてでも今に縋り付いて、ミュシャ達は皆で未来を目指す)


 目指す未来は程遠い。垣間見た可能性は、奇跡に奇跡を重ねた結果。綱渡りと言うにも生温い、薄氷の上を進んで行かねば至れぬ場所。

 それでも、迷いはない。望む未来がその先にしかないのなら、躊躇っている理由はないのだ。だから血涙を拭って顔を上げ、少女は虚空に言葉を投げた。


「その為に、力を貸すにゃ!」


 龍宮響希だけでは勝てない。ミュシャだけでは救えない。エレノアだけでも助けられない。三人が力を合わせても、しかし未来に届かない。

 だからこそ、もう一人。彼女の助けが此処に要る。処刑人では間に合わず、天罰者は既に倒れて、翡翠の瞳は黒幕だ。だから此処で助けとなるのは、彼女しか居ないのだ。


「居ないとは言わせにゃい! 聞こえてないとは言わせにゃい! 死んでいるとは言わせにゃいっ!」


 桃源郷を砕かれて、彼女も多大な被害を受けたのだろう。それでも確かに、生きていると確信している。あの女は、今も滅んではいない。

 何故ならば、此処にミュシャが居るからだ。ミュシャや亜人達が生きているのは、彼女が救ったからに他ならない。彼女以外に、救える者など居なかった。


 今のミュシャは既に視えないが、それでも先に気付いていた。周囲に散らばる羽毛の山が、人を容易く壊してしまう物なのだと。

 降り注いだ死の雨から、少女達を守ったのは翠の風。流れに逆らわずに受け流す事で、彼女が羽を届かせなかった。だからミュシャは、今も此処に生きている。


 そして恐らく、エレノアも同じであろう。倒れた彼女達は、あの女性に守られた。その事実こそが示している。彼女は今も健在なのだと。


「お前の子どものやらかしにぃっ! 少しでも罪悪感を抱いているにゃらぁっ! ミュシャを手伝え――――風の精霊王! ヘレナ・シルフィードォォォッッッ!!」


 少女達を救ったのは、彼女なりの贖罪だったのだろうか。それとも何もかもを救いたいと願う気質が故に、望んで為した事であろうか。

 理由がどうあれ、結果が変わる事はない。シルフィードは今も、ミュシャ達を救える程の力を有している。そして彼女だけが、この状況を変え得るのだ。


「……悲しいわ。どうしようもなく寂しいの」


 蓮の花弁が空に舞い、翡翠の光と共に女はその姿を見せる。翠の瞳と長い髪、蓮の半身を持つ精霊王。

 だがその髪の輝きはくすんでいて、半身の花は枯れかけている。今にも消え去りそうな程、彼女は既に消耗していた。


「あの子が犯した過ちは、あの子なりにヘレナを想ってくれた事。だからヘレナは怒れない。唯々どうしようもなく切ないだけ」


 そんなヘレナは、しかし今となっても変わらない。ヘレナ・シルフィードは誰も否定しない。誰であろうと否定できない。

 それが例え愛しい子らに、破滅を齎した相手であろうと。その心中を想ってしまうが故に、彼女は怒ることさえ出来ないのだ。


 彼女は誰もを敵とはしない。誰とも戦おうとはせずに、共に滅びようと悲しく寂しく微笑むだけ。

 今も常と変わらない。ヘレナは誰も否定しない。涙に潤んだ瞳で彼女は、微笑みながら優しく告げた。


「だからもう眠ろう。辛い事も苦しい事も、全部此処で終わりしようよ。優しい眠りの中へと堕ちて、皆で一緒に滅びるの」


 そして、淡い光が溢れ出す。風が包み込もうとしたのは、苦しみ続ける亜人だった魔物達。彼らの嘆きを、此処で終わらせようと。

 亜人だった彼らに降り注ぐ、最期の救いと呼ぶべき光。それをミュシャは、視えなくなった視界ではなく聴覚と触覚で感じ取る。その直後に顔を青褪めさせて、大地の力を行使した。


「やめるにゃっ! 彼らを浄化する事を、ミュシャは絶対許さにゃいっ!!」


 大地の精霊に呼び掛けて、何処に居るかも分からぬ風の精霊王へと攻撃させる。隆起し飛び散る土の弾丸は、精霊王には掠りもしない。

 傷一つ与える事も出来ない。けれどその剣幕は、ヘレナの手を止めさせるには十分過ぎる物。何故に止めるのかと悲しい声で、ヘレナはミュシャに問い掛けた。


「ああ、どうして? もう生きても救いなんてないのに。痛いだけなのに。どうして貴女は、そう言うの?」


「必要だからにゃ。神を降ろすこの環境こそが、ミュシャが見付けた勝利に至れる可能性」


 もう死ぬ以外に救いはないから、せめて優しい終わりを与えよう。そう語るヘレナに対し、ミュシャも内心では賛同している。

 他に救いはない。亜人達の為を想うなら、ヘレナを止めない事こそ救いだ。けれどそれでは、龍宮響希が助からない。だからミュシャは、その行為を妨害するのだ。


「その為に、亜人達を今、救う事は許さない。身勝手な悪行なのだとしても、此処では彼らを救わせない!」


 それはきっと、余りにも身勝手な言葉であろう。悪辣だと言われても、否定は出来ない行為である。

 だって彼らは、もう苦しむしか出来ないのだ。ミュシャの行為は、そんな苦しみを長引かせるだけの酷い事。


 そんな事は分かっている。けれどそれしか道がないのだ。それしか見付けられなかったから、ミュシャは傲慢に言葉を紡ぐ。私達の為に苦しめと。


「恨むなら恨めにゃ。憎むなら憎めにゃ。本当に、ごめんなさいにゃ。けどミュシャは謝るだけで、決してこの意志を変えはしにゃい! それがミュシャ達が明日に行く為、必要となる事だから!!」


 これは断じて、正義じゃない。これは決して、善ではない。自分達が良ければ良いと、語る悪意と何一つとして変わりはしない。

 それが分かって、だから謝罪は自己満足。謝るだけ謝って、けれど何も変えようとはしないのだから性質が悪い。そんな事、ミュシャは確かに知っている。


 けれど、もうこれしかないのだ。だから、背負って進むとしよう。自分達が助かる為に、苦しめた人が居たのだと言う事を忘れない。

 彼らは悪逆なる竜の一行だ。心の在り方が如何であれ、為した行為は変わらない。紛れもなく悪党で、その事実を刻んで死ぬまで生きていく。


 そう決めた、もう何も映っていない瞳。猫人の目は焦点すらも合ってはいない物だけど、とても強いと感じる力を有していた。


「……泣きたいなら、泣いて良いのに。辛いなら、止めて良いのに。嫌がる事を、貴女に強要する人なんて居ないんだよ?」


 ヘレナには分かる。本当はミュシャも、救ってあげたいと思っていると。彼女は思う。本当は誰だって、誰も傷付けたくはないのだと。

 けれど状況や環境が、それを許してはくれないのだ。だから世に悲劇は尽きない。だから現実はとても残酷なのだ。だからヘレナは、この現実がとても嫌いだった。


「ヘレナは痛いのが嫌い。ヘレナは苦しいのも嫌い。頑張っても報われないのは、どうしようもなく虚しいの。それはヘレナだけじゃなくて、きっと誰もが想うこと」


 風は最初から知っていた。精霊王に成る前から、彼女は未来に気付いていた。果てには破滅しかないのだと、ヘレナだけが知っていた。

 この世界は呪われている。主神は誰より何より悪辣だった。だからヘレナは死にたくなった。首を括って死ねたのならば、もっとずっと楽だったろうに。


 絶望病と、当時の人が呼んだ症状。ヘレナ・シルフィードは、紛れもなくその発症者。彼女は希望も期待も抱けずに、けれど死ねない程には優しくあった。

 自死が怖い訳ではない。唯自分が死んでも、意味がないと気付いていた。神は幾らでも、罠や呪詛や代替を用意していた。生きていても死んでいても、結局何も変わらない。


 だからヘレナは、そんな辛い現実から目を逸らして戦う事を止めた。優しい幻想の中で、皆と一緒に居ようと願った。誰も苦しまないまま終わろうと、それが救いだと思ったのだ。


「なのにどうして、貴女は今も抗うの? なのにどうして、貴女達は諦めないの? 何時だってそう。綺麗な瞳を持つ人は、どうしてこうも辛い道を選ぶのかしら。それがヘレナには分からない」


 精霊王に成ってからずっと、ヘレナは弱者の味方であった。傷付きもう歩けない人達の、最期の救いと在り続けた。

 けれどヘレナは、弱者の味方にしか成れなかった。誰もを救いたいと想っているのに、強い意志を持つ人達は皆ヘレナの救いを遠ざける。


 ヘレナは誰も否定しない。ヘレナには誰も否定できない。だから疑問に思うだけ。どうして貴女達は、諦めないで進めるのだろうかと。


「そんにゃ御託はどうでも良い! 下らない拘りなんかに、答えている暇はにゃい!!」


 そんな精霊王の問い掛けを、ミュシャは御託と切って捨てる。彼女の歪な救済なんて、正直言ってどうでも良いのだ。


「ミュシャは戦う! 最期まで彼と共に居る為に、必要ならば何でもするにゃ! だから、手を貸せ! シルフィード!!」


 重要なのは、この女が手を貸してくれるか否か。必要なのは、彼女の心ではなく力だけ。

 だから本当は、適当に話を合わせた方が良いのだろう。頼み事をするのだから、口先だけでも合わせるのが妥当であろう。


 けれどミュシャはヘレナを真っ向から否定して、力だけを貸せと語る。そうでもなければ、間に合わないと感じていたから。

 問答をしている余裕はないのだ。それに何より、口先だけの言葉でヘレナは動かない。彼女に歪んだ救済をさせない道は、全否定以外に何もない。


「お前にしか出来ないにゃ! 消え行く響希の灯を、此処に繋ぎ止める為! ミュシャ達を繋ぐ聖剣の力を、お前の加護で高めろにゃっっ!!」


 長々とした前口上はもう要らない。ミュシャは要件だけを口にする。聖剣の結んだ繋がりを補強しろと。

 出来ない筈がない。彼女ならば出来るのだ。何故なら星の聖剣は、初代ロスと四大の精霊王が共に作った物なのだから。


「正気、なの? それがどういう結末を齎すか、貴女は分かって言っている?」


 聖剣の作成者であるが故、ヘレナは即座に理解する。その言葉が意味する事と、果てに至るであろう結末を。

 心と心を繋げる聖剣。その絆は既に最大限に結ばれていて、これ以上深くすれば仕切りがなくなる。溶けて混ざってしまうのだ。


 自己が消滅する位ならマシだろう。悪なる竜の瘴気が流れ込んで来て、この少女も魔物と化すかもしれない。

 死んでしまうか、死ねなくもなるのか。ヘレナであっても、先が見えない。碌でもないと言う結末しか分からない。


「分かってる。答えは視てる。それでも、ミュシャは言うのにゃ。ミュシャとエレノアが繋いだ響希との絆を、お前の力で補強しろと!」


 それでもと、ミュシャは口にする。最悪の未来を予測していながら、彼女はそれを選び取る。他には何も、道がないから。

 可能性はこれ一つ。それ程にあの大天使は強大で、それ程に龍宮響希は追い詰められている。だからミュシャは決めたのだ。己達が、竜の贄に成り果てようと。


「貴女達は邪竜の贄となる。彼に引き摺られていく。死んでしまうのか、死ねなくなるのか。碌な事にはならないよ」


「だからどうした! もう全部捧げても惜しくない程、とっくの昔に惚れ(イカレ)てる。それはエレノアだって変わらない。にゃら、今までと何も変わらない!」


 恋とはある種の狂気である。想いが強く募ってしまえば、理性でなんて止められない。失うかもしれないの時に、他の事柄なんて考えられない。

 溶けて消えるのだとしても、其処に問題なんてない。汚染されて魔に変じるのだとしても、其処に問題なんてない。どちらにせよ、ずっと一緒に居られるのだから。


「何があろうと、ミュシャ達はずっと響希の傍に居る! 端から離れる意志がないにゃら、離れられなくなっても結果は同じ! 果てに何が待ち受けようと、三人一緒なら怖くはないにゃ!!」


 故に恐怖なんてない。それはきっと、恋敵でもある親友だって同じな筈だ。ミュシャは確信を以って、そう断言する事が出来る。

 二つの命を贄とする。魂の繋がりを介して生命力を注ぎ込み、悪竜を再び立ち上がらせる。そうする事で漸く彼らは、逆襲劇のスタートラインに立てるのだ。


「……そう。それが貴女の選択なんだね。クロエの子」


 己の救いを否定され、しかしヘレナは怒りもしない。彼女は誰も否定しないから、そういう想いもあるよねと寿ぐだけ。

 ミュシャの想いを尊重するなら、まだ皆の事は救えない。彼女が必要だと言うから、手を貸す事に否はない。だけど少しだけ、ヘレナはこうも思うのだ。


「とても似ている。本当にクロエにそっくり。だから、ヘレナは怖いと思うわ。貴女のこと。だって貴女達は強過ぎる」


 強過ぎる意志は、とても怖い物である。世の本質は、悲しいけれど弱肉強食。強い想いは、弱い想いを喰らってしまう。

 折れない心が、他の誰かの夢や願いを踏み躙っていくのだろう。在りし日のクロエが彼女を想い止めようとする人々を振り切って、絶望に挑み続けた様に。


「誉め言葉にゃね。クロエ様と似ているのは、猫人部族にとっては誇る事にゃよ」


 だからヘレナは、クロエの事が少し苦手だ。それはきっと、クロエによく似たこの猫人も変わらない。

 少しだけ、苦手だと感じるくらいに強い子ども。その目を見詰めて寂しげに微笑むヘレナに、ミュシャも同じく言葉を返した。


「それに怖がっているのはお互い様にゃ。誰も彼もが大好きだからと、自分の子どもを叱れもしにゃい。そんなお前がミュシャは怖い。精霊王様方の中で唯一、悍ましいと感じる女にゃ」


 ミュシャにとっては、この女の方が恐ろしい。四大の精霊王は全て尊いと感じる少女にとっても、ヘレナ・シルフィードだけは例外だ。


 人の愛情とは、総体的な物である。何かと何かを比べて、よりどちらが大事と言う形でしか人は己の愛情を証明する事が出来ない。

 なのに誰も彼もを大好きだと、語る女は結局誰も愛していない。何も嫌えないと言う事は、何も好めないと言う事だから。何も拒まない彼女は、何もかもを拒んでいるのだ。


「けど、そんな貴女も寿ぎましょう。だってヘレナは、皆の事が大好きだから。貴女の事も大好きよ。その想いも、否定しないの出来ないの」


「けど、そんな貴女を崇めましょう。だってミュシャは、精霊に連なる血筋であるから。そして貴女の助けが必要だから、望むのならば如何なる対価も捧げるにゃ」


 それでも、ヘレナはミュシャを愛するだろう。路傍の石と等価に愛して、彼女の為に死力を尽くす。果てに消えると分かっても、それでも動くのがこの女。

 それでも、ミュシャはヘレナを崇めよう。そういう部族に産まれたからと、理由はそれだけなんかじゃない。人は必要だからこそ、大いなるモノに願いを捧げ祈るのだから。


「要らないわ。対価なんて。大好きな子を助けたいと想うのは、誰だって当然の事でしょう。そうだよ。ヘレナは世界中の皆を助けてあげたいの」


「要らないにゃ。貴女の愛は、毒と同じにゃ。それに誰もを愛する貴女にとって、愛すると言う行為は特別な事じゃない。愛せるのならば誰でも良いから、路傍の石に向ける感情と変わらにゃい。そんな愛情、ミュシャは欠片も欲しくない」


 風の王と土の子は、決して分かり合えないだろう。けれど同じ場所を見て、手を取り合うだけなら出来るから。

 ヘレナ・シルフィードは少女の道を寿ぎ見守る。未来を求める少女の追い風となって、彼女達の道を切り開いてみせるのだ。


「心を繋ごう。絆を紡ごう。もう一度の再誕を、竜への贄を今此処に」


 淡い翠の光が溢れて、ヘレナの身体が薄れていく。限界を超えた力の行使は、暫しの休眠を女に強いる事となろう。

 桃源郷を壊されて、元より長くは起きて居られなかったのだ。ならば誰かの為にと消え去る行為は彼女にとって、唯眠るよりもよほど良い幕引きと言えた。


「宿命を忘れた果てに一族を失い、一人ぼっちとなってしまったクロエの子。貴女の強さは、ヘレナが此処に認めましょう」


 翡翠の風が、相容れない少女の頬を軽く撫でる。優しく寂しく微笑むヘレナは、ミュシャの瞳に映らない。

 それでも触れる風の感触から、ミュシャは彼女の位置を感じ取る。そうして向き合うと、感謝を込めて頭を下げた。


 そんな少女の姿に、ヘレナは更に笑みを深める。怖いと想う少女でも、救われて欲しいと願うのは紛れもない真実だった。


「父の一人に全てを奪われた嘆きと怒りの中で、しかし夢を見付け出したマティスの系譜。貴女の強さは、ヘレナが此処に認めましょう」


 翡翠の風が、遠く意識を失くしていた少女の頬を軽く撫でる。優しく寂しく微笑むヘレナの声を耳にして、エレノアの身体が動いた。

 初代聖剣王マティス。その系譜であるエレノアは、この世界でも重要な位置に居る人物だ。故にこれから先の未来で彼女は、多くの悲劇と向き合わねばならないだろう。


 だからせめて、最期に救いがあらんことを。苦しんだ果てに僅かでも、幸福な事がある様に。ヘレナは祈り、微笑んだ。


「愛する者や親しい者らを喪って、唯一人幻想の世に迷い込んだ悲しい神籬。何時か再誕する竜よ。貴方が紡いだ絆は永久に砕けぬと、ヘレナが此処に認めましょう」


 翡翠の風が、砕かれた悪竜王の魂を包み込む。優しく寂しく微笑むヘレナは、龍宮響希の心を抱き締め囁いた。

 神の器である神籬。どんな神でも内包出来る特別な存在として生まれてしまったが故に、邪神に魅入られてしまった悲しい子ども。


 彼にも救いがあれば良い。その心に触れながら、想うは紛れもなく本心だ。絆を紡ぎ合わせながら、ヘレナは皆の幸福だけを願っている。


「頑張り続ける子供達。辛くなったら、ヘレナは何時でも受け容れるけど――――今はまだ、頑張るのでしょう? なら、頑張って前に進みなさい」


 ずっと抱き締めていたい。ずっと甘やかしてあげたい。ずっとずっと、頑張ったねと愛し続けていてあげたい。

 けれど彼らは進むと言う。けれど彼らは、まだ頑張ると語るのだ。ならその意志を尊重しよう。抱き締めてあげるのは、もう立てなくなった時で良い。


「ヘレナは此処まで、今日で一先ず終わります」


 己が想う幸福なんて、独りよがりと知っている。だから誰も否定せず、誰もを肯定して後押しする。

 その為ならば、一時の消滅だって恐ろしくはない。痛いのは嫌だけど、己の痛みで誰かが助かるのならば選んでしまう。


 それがヘレナ・シルフィード。風の精霊王と呼ばれる女は人格破綻者で、何時だって誰かの味方であった女である。


「貴女達はこれから、明日に向かって進んで行く」


 風の精霊王が消える。彼女は深き眠りに就く、その最後まで誰かの事を心の底から案じたまま。


「願わくば、誰もが笑って終われる幕引きを。ヘレナは心の底から、願っているよ」


 微笑む精霊王が遺した言葉は、きっと皆に届いたのだろう。既に彼女が消え去った北の大地で、一つの奇跡が結実する。

 繋がれたのは、人の絆。聖なる剣の力を介して、結ばれていた繋がりがより強く深く変わっていく。人と人を分けていた仕切りは消えて、彼らの心は一つとなった。


 故に、ドクンドクンと鼓動が鳴る。辛うじて生きていた彼の下へと、ミュシャとエレノアの命が注ぎ込まれていく。

 竜がもう一度、産声を上げた。微塵に滅ぼされたその身体が、瘴気と共に復元していく。悪なる竜は、天使を前にまた立ち上がった。


「繋がった。感じるにゃ。二人の心を。二人も、ミュシャの全てを感じてるにゃよね」


 それを繋いだ心を介して、ミュシャは我が事の様に体感する。まるで目の前に天使が居る様な感覚と、向き合う彼の身体が己の物とも思えてくる錯覚。余りにも、彼我の距離は近かった。

 故にだろうか、潰れていた視界に光が戻って来る。湧き上がる瘴気が壊れた眼球と焼き切れた脳を修復し、少女の肉体を汚染していた。開いた瞳はまるで点滅する様に、黄金色に染まり掛けていた。


 けれどやはり、恐ろしいと言う情はない。己の肉体の変貌に、嫌悪も不快も感じはしない。同じモノになっているのだと、唯それだけが分かっていたから。


(ったく、勝手に人の意見を代弁しやがって。だが、まぁそうだな。……私も、響希と駄猫と、皆で居たいわ)


 心を介して、エレノアの声が聞こえる。聞こえて来たのは、声だけではなく心に抱いた想いも同じく。

 勝手に代弁した事を怒っていながら、繋いだ事には何一つとして怒りを抱いてはいない。本音は彼女も、同じであったから。


 ずっと一緒に居たいのだ。大好きな人達と、ずっと一緒に。だから人から外れる結末も、恐ろしいとは思わない。


(うん。暖かい。二人を近くに、感じるよ。不思議な気持ちだ。身体が三つあるのに、心は一つしかないと思えるくらいに重なっている)


 立ち上がった響希も微笑む。これより三人、一心同体。命を共有したのだと、彼にはもう分かっていたから。

 響希が死ねば、二人の少女も共に死のう。少女達が滅ぼされれば、響希も引き摺られて滅びよう。今の彼らは、そうした形を成している。


 嫌だとは思わない。心の底すら隠せぬ関係に、不快だとも思わない。それ程に、皆の事が大切だから。


「なら、言葉にはしなくても良いにゃよね。必要な事は、もう伝わっている筈だから」


(ああ、そうだな。やるべき事は、分かってる。出来るかどうか、自信はねぇけど)


(ううん、出来るよ。やってみせる。ミュシャとエレンが共に居るなら、僕たちに敗北なんてない)


 三者は揃って、空を見上げる。天高く君臨する大天使は、悪竜王の復活に気付いて今にも動き出そうとしている。

 まだ足りない。まだ勝てない。乗り越えるべき障害は、今も山程に存在している。それでもしかし、スタートラインには立てたのだ。


 ならばこれより、逆襲劇は幕を開ける。一人で勝てない敵であろうと、皆で挑めば勝てると信じられる。故に怖れも慄きも、この戦場には似合わない。


「さぁ、逆転開始にゃ! あの天使は、此処で倒す!!」


 覚悟を決めて、前に行くだけ。再び蒼い瞳を開いたミュシャは、右手を掲げて強く宣言するのであった。






 因みにヘレナさん。獣人桃源郷が壊れた時点で、人類全てを夢堕ちさせる救済計画を発動しようか悩んでいた模様。

 此処でミュシャが全否定した上で強引にでも休眠状態に追い込んでいなければ、同調したマキシムが大天使を蹂躙してからの人類夢堕ち世界滅亡エンドになってました。


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