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Dragon Travel Story  作者: SIOYAKI
第二部第六幕 猫と剣と子どもと灰被り姫のお話
175/257

一時閉幕


 彼は今も奮闘している。多くが腐敗し切った王国の城の中で、それでも失われていない輝きがあると知っていた。

 だから、己一人ではないから、それで必死に頑張れた。今は亡き王への忠義で、この国を確かに残していこうと彼は本気で考えて――いる気になってただけだった。


「はぁ、これで、少しは救われる民も増えるだろうか?」


 手元にある書類を見詰める。それは今も飢えた民へと、食料の援助を行う為の指示書の一つ。

 これを然るべき場所へと回せば、どれだけの飢えた民が救えるだろうか。皮算用などする気はないが、それでも気持ちは明るくなる。


 そうとも、また多くを救えた。そう安堵して、力が抜けた。その瞬間に、湧き上がった痛みにヨアヒムはその身を屈めて嗚咽を吐いた。


「が――っ! げふっ、がふっ!?」


 喀血が書類を濡らす。大量の赤が文字を濡らして、けれど読めない程ではないことに心の底から安堵する。

 これで使えなくなってしまえば、また作り直さねばならなくなる。そうするには時間が掛かって、それだけ多くの民に犠牲が出てしまう。


 そう彼は考えるから、無事で済んで良かったと安堵し呼吸を整える。だから彼はまだ気付けない。血に濡れて台無しになっていた方が、まだ救いがあったと言う事実に。


「はぁ、はぁ……。姫様を通じて漸く権限の一部を取り戻せたが、俺に残された時間はもう短いのだな」


 意識が遠のく時間が増えた。身体の痛みや喀血の頻度も増えた。以前の様には魔法が使えず、盲いた瞳は今も変わらぬ硝子玉。文字の一つを書くにも苦労する様だ。

 そうして男は、閉じていた瞼を開く。常に閉ざされていた瞼の裏には、怪しく輝く黄金の瞳。昏く暗く黒い悪しき輝きは、魔の血が流れるだけでは説明が付かぬ程に濃厚な瘴気を纏う。その事実に、彼はまだ気付けない。いいや、気付く事を拒んでいる。


「だが、大丈夫だ。クリフが居る。まだ未熟であろうが、勇者と言う光もある。未来はきっと明るいと、俺はそう信じて逝ける」


 だから、今も夢を見る。今も夢を見ていられる。自分は守っているのだと。己の主が残した国を、己の友へと繋いでいけているのだと。そんな甘い夢を見ていて――だが、その夢も終わる。今日この日に終わってしまう。


【タス、ケテ……】


「……何だ、この声は?」


 執務室の中に響く、甲高い鈴の様な声。その声を知っている。その持ち主を分かっている。だから気付きたくなどない。

 そんな男の望みが叶う筈もなく、ずるりずるりと這い摺りながらにそれは近付く。海の水に濡れた残骸が、ゆっくりと近付いて来る。


 気付けば、執務室の明かりが消えていた。変えたばかりの魔道具が、照らし出せなくなったのは何故か。決まっている、男がもう気付き始めているから。


【イタイ、ノ。イタイ、ノガ、ナオラナイノ】


「……頭が、酷く痛い。俺は、この声を知っている?」


 彼女が来る。彼女が来た。助けてと、助けてと、頼れる家族を頼って来た。彼ならきっと、助けてくれると這って来た。

 そうとも、彼女は頑張ったのだ。その核を浄化され、身体を保つのが難しい程に消耗して、それでも執念一つで海を渡って見せた。


 此処まで来れば助かるからと。彼ならきっと助けてくれるからと。まるで襤褸屑の様な残骸が、地を這いながらにやって来た。

 執務室の床が、塩水に濡れていく。扉の隙間から入り込んで来た人外に、敵意の色は欠片もない。彼女は愛する家族の顔を見上げて、縋る様に言葉を掛けた。


【ネェ、オキテ? ダキシメテ、イタイノ、トンデケッテ】


「――っっっ!? アリス・キテラだと!? 一体、何処から王城の中に!?」


 常の半分程度の大きさにまで、体積を減らした虚言の大魔女。生き汚く足掻く姿に、ヨアヒムは動揺する。

 一体どうして、此処にやって来たというのか。警戒しながら構えを取った男に対し、アリス・キテラは言葉を紡ぐ。彼女はたった一つの言葉で、今の彼を壊し尽くした。


【サルヴァ・ルドラ】


「あ――っ」


 それは、名前だった。その名を呼ばれて、自覚する。余りの痛みに頭を振って腕を振るって、机の上から幾つもの紙束が床へと落ちる。

 混乱しながらも、それが大事な物だと自覚はしていた。故に開いた目で先の書類を見てしまい、彼はその事実に気付いてしまった。もう目は逸らせない。


 それは肥沃な大地を持つ領地から、飢えて苦しむ民の下へと食料を届ける事を指示する命令書。この一枚だけを見たならば、誰もが素晴らしい人道支援だと思うだろう。

 だが、同時に落ちた他の書類を合わせてみると意味合いが一変する。そちらは発見された賊の討伐指示書であって、それ単独ならば納得できる対処案。だが二つ合わせた時初めて、その悪辣さが見えてくる。


 賊を討伐する指示書にある騎士の数では、予想される盗賊の殲滅は不可能だ。だがその領地が動員出来る兵数を鑑みれば、仕方がない事と言えるだろう。故に賊はまず間違いなく生き残り、死に物狂いで逃げるであろう。

 その逃げる先には、肥妖な大地を持つ領地。そしてその領地を守る筈の兵は、内の幾らかが欠けている。食料支援を行う者らの護衛として、少なくはない数が動員されてしまっているから。追い詰められて死兵と化した賊の生き残りを、撃退出来るだけの力が残らない。


 最悪のタイミングでの噛み合わせ。だがそんな結果は、この二枚の書類だけではない。他にも零れた書類の山は、一つ一つは民を救うための物だが、複数合わせれば国を腐らせる形へ変わってしまう物だった。


 望んだ訳ではなかった。求めた筈がなかった。自分は唯々救いたくて、守りたくて、残していたくて――――ああ、だが一つ気付けば分かってしまう。もう己は騙せない。十年前からずっと変わらず、ヨアヒムはこんな事ばかりを続けていた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」


 守りたかった。それは本当だ。彼はこの今に至る瞬間まで、本気でそう思い込んでいた。

 残したかった。それは本当だ。彼はこの今に至る瞬間まで、本気でそう思い込んでいた。


 だが違う。だが違ったのだ。彼の身体が壊れていたのは魔女の呪いなどでなく、人間としての彼が死に別の存在として生まれ変わろうとしていたから。意識が飛んでいたのは、その間に別のモノとして動いていたから。

 そうとも、まるで違ったのだ。あの日、大魔女が聖王国を狙った理由。それはアカ・マナフと言う長兄を失ったから、代わりと成れる魔王を求めてのこと。産まれたばかりで未だ目覚めていなかった弟を、目覚めさせる為に来ただけなのだ。


「そうだ。何を、俺は忘れていた」


 あの日、アリス・キテラを撃退出来た訳ではなかった。彼女は目的を遂げたから、去って行っただけだったのだ。

 そうとも、三将軍が筆頭と呼ばれた無双の英雄。その内に眠り続けていた魔王の欠片を目覚めさせる事こそが、アリス・キテラの目的だった。


 その欠片が目覚めて、馴染むまでに五年。そうして、ヨアヒムは動き始めた。魔王として、あらゆる全てを滅ぼす為に。


「そうだ。あの日、俺は王を弑逆した。行き場の無かった俺を受け入れてくれて、忠義を誓ったあの人を。その娘を、俺はこの手に掛けた」


 信頼していた忠臣の乱心に、死の間際まで聖王は何も理解出来ないまま終わりを迎えた。その姿に滑稽だと、彼は涙を流していた。

 王の死を前に、第一の姫は逃げようとした。勇者に恋し、彼と添い遂げることを願っていた。そんな第一王女を、枯れ枝を折る様に砕いた。涙を流し続けたまま、当たり前の様に壊して殺した。


「そうだ。あの日、涙に暮れるエリーゼを甘い言葉で誑かした。愛を注ぎ情を育み、そして周囲に裏切りを強要した。あの頭脳を利用する為、俺だけに依存する様に、主の子を抱いて犯して壊し尽くした」


 父と姉を亡くして、泣いていた幼子に甘い言葉を掛けた。彼女が己だけを信じる様に、彼女が大切にしていた物を、彼女を大切にしていた者を、一つ一つと壊して行った。

 全ては国の頂点を、己に依存させる為。彼女が病めば、とても素敵になるのだと直感していた。だから依存し切った彼女を閨で抱いたその後で手酷く振り解き、エレノアを救うと言う名目を掲げて跳び出した。


「そうだ。俺がロスを殺した。そうだとも、病んでいたとは言え、奴は英雄だったのだ。だから俺以外の誰にも殺せず、俺ならばあっさりと殺し切れた。俺を友と呼んだあの男を、俺を兄の様に慕ったその妻を、俺を第三の父と呼んだあの娘を、その団欒を俺が破壊し蹂躙した」


 救うと嘯いて動いた理由は、己が動かねばオリヴィエ・ロスが殺せなかったから。ダリウス程度の小物では、あの英雄の首を取れる筈がなかったのだ。

 だから、ヨアヒムは全てを裏切った。親友だった男をその手に掛け、その生首の前で妻を辱め、己が娘の様に思っていた子を追い立てる様に指示を出した。


 エリーゼには、お前よりエレノアを選ぶのだと囁いて。彼はロス家の全てを壊し尽くしたのだ。不秩序の果てに何もかもを壊し尽くさんと言う、第四の魔王を宿したが故の衝動に従って。


「そうだ。地方貴族の次男坊。政治の才こそあったが、それだけの男を。俺が裏から、支援した。金をくれてやり、対抗馬を殺害し、奴に指示を出し続けた」


 ダリウス・ローガンが表舞台に出て来たのも、彼が裏で手を引いていたから。顔を隠して声を変えて、度々接触した。彼の悪行の大半は、ヨアヒムが指示した行動だ。

 己は政治に無能だと、そんな素振りを見せながら。彼は動き続けていたのだ。何もかもが人の手で壊れてしまう様に、人間達を狂わせて最悪を呼び込み続けていたのだ。


 そうとも、十年前はこれ程に酷くはなかった。たった十年で、栄光ある王国は最低最悪の地獄に変わった。ヨアヒム・マルセイユが、変えてしまった。


「何故忘れていた。ああ、そうだ。俺は忘れたかった。忘れたままで居たかった。壊したくなんて、なかったから――――嗚呼、何と醜く愚かな屍人だ。俺は今、嗤っている」


 忘れたかった。こんな事実、忘れたかった。友を手に掛け、恩人を殺し、その娘達を狂わせた。そんな事実、覚えて居たくはなかったのだ。

 だから微睡の中で眠っていて、そんな自分が許せないから自傷を続けて、それでも逃れられずにあらゆる全てを壊し続けた。此処に居るのは、そんな怪物。下らぬ屍人の残骸だ。


「くく、くくく、くははははははははははははは。何だこれは? 何なのだこれは? 涙が止まらない。溢れる笑みが止まらない。俺は何に嘆き、何に嗤っているのか、それすら今は分からない」


 涙が溢れる。涙が零れる。黄金の瞳から溢れる雫は、赤く染まった憎悪の血涙。己自身を許せぬ痛みに、流れる涙は止まらない。


 一つに気付けば、全てを思い出してしまう。連鎖的に思い出すのは、生きていた時分の記憶。この世界に来たその時には、既に死んでいたのだと言う事実。

 そうとも、彼は死人だ。彼は亡霊だ。あの世界全土を包んだ大戦の中で、空から墜落して死した男。その残骸を利用して、作り出された魔王の器。蠢く屍人の群体だ。


「ああ、けれど、一つだけ断言出来ることがある。あの日――シディ・アブデル・ラーマンの砂漠で、俺は終わっておくべきだった。もう一度空を飛びたいと、その願望が俺を壊した。死体が道理を捨てて動いても、三流の恐怖劇にしかならぬと言うのに」


 そうとも、あの日に死んでおくべきだった。今となっては、素直に想う。けれど邪神の言葉は甘過ぎた。もう一度空を飛べるのだと、縋ってしまった結果がこれだ。

 友を裏切り、恩を裏切り、愛する人々を手に掛けて、何もかもを狂わせた。眠るべきだった英霊は、そうして怪物と成り果てた。人の残骸は動きを止めて、魔王として新生する。


「ならば良い。もう終わろう。この胸の痛みは、死人が現世に縋り付いているが故に。大人しく死ねば、きっと消えてくれるだろう。果てに死後の遺体がどう成ろうと、もう知った事ではない」


 もしもこの時、その手の中に何かがあればまた立ち上がれただろう。けれどこの今、彼の掌中には何も残っていなかった。

 だから、もう疲れてしまった。自分で全てを壊し尽くしてしまったから、それに気付いた男は抗う事を止め、彼は魔王と成ったのだ。


「おやすみ。――そして、おはようだ」


 瞳を閉じて、再び開く。広がる世界は、盲目だった頃とは違う。流れ続ける血涙は、今も止まる事はない。

 黄金の瞳に、長い黒髪。血の涙を流しながら、燃える炎の様な喜悦を浮かべて嗤い続ける。これこそが、男の常態と成るのだろう。第四魔王は流れる血涙を指で拭って、舌で舐めると甘露とばかりに笑みを深めた。


【タス、ケテ、イタイノ】


「ああ、そう言えば居たな。忘れていたよ、アリス」


 目覚めたばかりの景色の中、彼は全てを見下し嗤う。それは当然、己に向かって来る愚かな姉の残骸も例外ではない。

 そうとも、下らないと見下している。見苦しいと蔑んでいる。許せはしないと憎悪している。そんな男の感情に気付かず、這い摺るアリスは彼の足下に縋り付いた。


【イタイノ。イタイノ。キエナイノ】


「……汚物が、俺に触れるな」


【Gィ――ッ!?】


 だから、彼は踏み付けた。蹴り飛ばして蹴り上げて、右手で掴んで壁に叩き付ける。本来の魔女の強度ならば壁が砕けて終わるだろうが、今の魔女ではそうはならない。

 魔女の頭蓋が砕けて零れる。魔女の首が握られ潰され圧し折れる。その脊髄ごと引き抜いて、生首を執務室の壁や床に叩き付ける。魔女の血で、室内はあっという間に染まっていった。


「これは感謝の証だ。十五年前、俺を目覚めされてくれたこと。感謝しか感じぬよ。ああそうだとも、感謝している感謝している感謝している。お前さえ居なければ、俺は目を覚さずに居られたのだ! だからこれは憤怒ではない。だからお前に、感謝しているともさァ!!」


【A、gi、ィ、ァ……】


 万感の感謝を込めて、アリス・キテラを壊していく。本来ならば治る傷も、治せぬ程に消耗しているから治らない。

 縋った相手に壊されて、魔女は助けを求め続けている。だが、一体誰に求めれば良いと言うのか。魔女が縋れる相手は最早、この男以外に居ない。


「まだ、息があるか。だが、治らない。傷を嘘に出来るだけの、瘴気を生み出せずにいるのだな。このままでは、お前は死ぬ」


 壊して、壊して、壊して、壊して――そうして、八つ当たりを終えた男は嗤いながらに語る。このままでは死ぬぞと、其処まで追い詰めた男が告げる。


「だがしかし、それでは困るな。流石の俺も、一人では悪竜王に届かない。英雄と呼ばれる器の差が故、貴様やアカ・マナフよりは持つだろう。だが対等には僅かに足りん。故に、お前には生きて貰わなくてはなぁ」


 空将と呼ばれる器は、間違いなく五大魔王で最強の器だ。六武の王に次ぐ人間と言う最高峰の器は、魔王など宿さなくても魔王を討てる可能性を秘めている。

 最強の竜を宿せるから至高の器とされる神籬よりも、単純な戦闘力としては遥かに上だ。其処に魔王の力が加われば、悪竜王にも匹敵する程の怪物と成るだろう。


 だがしかし、それでは匹敵するだけなのだ。超えるにはまだ僅かに足りない。故に、数が居る。アリス・キテラは必要だった。


「安心しろ、アリス。俺がお前を助けてやる」


 首から下は途中で折れた背骨だけ。頭には大きな穴が開いて、脳漿が零れ落ちている。そんな魔女の姿に、鬱憤晴らしは十分だろうと結論付ける。

 漸くに冷静さを取り戻したサルヴァ・ルドラは魔女の顔を持ち上げて、その赤いリップに口付ける程の近さで甘く囁く。多くの婦女を誑かした、伊達男の笑みで嘯いた。


「人の臓腑や魔物の残骸を、首だけとなったお前に繋いでやろう。お前を生かすため、悍ましい見目に変えてやろう。何、人型を保てなくなる程度だ。元より狂っていたのだから、お前に美麗な容姿などは不要であろう」


【a、u】


「愛してやるさ。可愛がってやる。抱きしめてやる。そうしてやれる程、無様でみすぼらしい姿にしてやるさ」


 そうとも、これはもっと壊してやらなくてはならない。そうすれば、愛せる様になるだろう。笑みを深めて、彼は嗤う。

 足りないなら、外部から継ぎ足し代用する。見た目を整えてやる気がないのは、単に趣味の問題だ。彼は誰かの苦しみこそを、甘露と嗤う怪物なのだ。


「あぁ、そして俺は果たすのだ。嘗ての俺が愛した者らに、至高の幕を与えてやろう」


 彼はもう、空将と謳われた英雄ではない。だが彼には今も、その残骸が残っている。彼が愛した記憶はまだあり、だからこそサルヴァ・ルドラは嗤う。愛しい者らを、壊してやれると。


「エリーゼ。クリフ。そして、エレノア」


 彼は愛していた。主の忘れ形見であるエリーゼ姫を、古き友であるクリフォードを、友の娘であり己も娘の様に思っていたエレノアを、心の底から愛していた。

 だから彼は壊すのだ。サルヴァ・ルドラと成り果てて、この今に望むのは愛しい者らに最悪の末路を与えること。そうとも、絶望の慟哭こそが愛する彼らに相応しい。


「お前達に相応しい終焉を、絶望の慟哭の中でくれてやる。そう想像しただけで、涙が溢れて止まらぬのだ。嘗ての俺が嘆いていて、だから俺は愉しいのだ。お前達に真実を告げてやった時、一体どんな甘美な顔をしてくれるのだろうかと」


 愛する人が、己から全てを奪っていた。信じていた友が親しい友を殺していた。父と慕っていた人が、何もかもを壊していた。

 それらを告げられた時に、彼らがどんな顔をするのか。そう考えた時に感じる興奮は止めどなく、故にこそ彼の目的は定まった。世界を滅ぼすその過程で、為すべき児戯は今決まる。


「待っていろ。お前達はこの俺が――――第四魔王、ハンス・ヨアヒム・マルセイユ=サルヴァ・ルドラが壊し尽くす! くくく、くはは、ははははははははははははははははは――――っっっ!!」


 嘗ての英雄。最悪の魔王。人の強さと、人の醜悪さを合わせ持つ魔王。王城の中で目覚めた悪意は、その瞬間を待っている。

 何もかもを壊し尽くしてしまうその時を、全てを犯し穢し染め上げてしまうその時を、何もかもが終わる時こそを――――破壊の魔王は望んでいた。







人の醜悪さを持つ魔王サルヴァ・ルドラ。アリスちゃん(第二形態)を伴って、エレちゃんに粘着し始める模様。

二大ヒロインの片割れが魔王にストーカーされてるんだから、もう一人も因縁山盛りにしないと駄目ですよね! あと魔王って名乗るなら、第二形態で人外化も基本ですよね!!



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