その11
◇
幼い頃の記憶を、今になって思い出す。
物心付いた時、初めて目にしたのは塵の山。
ゴミゴミゴミゴミ。ゴミの中に塗れる様に、自分達は捨てられていた。
宗教国家シィクリード聖王国。その首都、聖都グロリアス。
生まれ育った場所が、そう呼ばれている事を知ったのは随分と後の事だった。
何時だって、餓えていた。
食べる物なんて真面にない。塵を漁って、それでもなければ盗みを働く。
聖都からそう遠くないスラム街。
スラム街と言うのも生温い塵山の中で、冬の寒さに震えていた。
ひもじい思いに耐えながら、同じ境遇の家族たちと身を寄せ合って生きていた。
ただ、獣の耳があったから。ただ、異形の手足があったから。
それだけで差別され、捨てられた。迫害の果てに押し込められたのは、塵山の塵の中。
聖都と呼ばれる輝かしい場所は、亜人にとっては地獄だった。
亜人の子供にとって、其処は生きる事すら厳しい生き地獄だったのだ。
それでも生きた。当たり前の幸福なんて望んでいない。ただ、一杯のスープを飲んでみたかった。
それでも生きた。同じような境遇の仲間達が居たから、貴族たちの狩りにあっても、聖職者たちが浄化に来ても、必死に手を取り合って生き続けた。
――やあ、君達。僕と一緒に来ないか?
そんな地獄の中で、差し伸べられた手があった。
穏やかに微笑む魔法使いが、亜人の子供達へと手を差し伸べた。
どの道、行く当てもなかった。
このままでは、当たり前の様に死ぬしか道はなかった。
だから希望を夢見て、その差し出された手を取った。
その先は、地獄だった。
――亜人種はやはり、魔法との相性が良い。素材として、これ以上のモノはないよねぇ。
嗤う魔法使いが、皆を殺した。
不思議な力で、不思議な技で、沢山、沢山、沢山、沢山。
文字を教えられた。魔法を覚えるのに必要だから。
魔法を教え込まれた。唯の亜人よりも、魔法使いの方が良い素材になるから。
――ああ、けどこれだけあれば十分かな。もう要らないや。
そして、十分だと判断されて捨てられた。
もっと効率の良い方法が見つかったからと、身体の大部分を削り取られて捨てられた。
また、ゴミの中。
ゴミの山の中で、ゴミに埋もれた家族の亡骸を見る。
自分だけが、生き延びていた。
変えようと、決意した。
もうこれ以上、こんな事は十分だと思った。
自分なら、出来ると思った。
魔法と言う力と、文字を読み書きする能力。
それだけあれば、きっと出来るんだって、信じたかった。
けどやっぱり、世界は醜く残酷だった。
元より差別される種族。
身体に障害を負った状態では、誰も受け入れてはくれなかった。
魔法の力で誰かの役に立っても、必要なくなれば捨てられる。
何度も信じて、何度も活躍したって、全てが終われば切り捨てられた。
二十年が経つ頃には、涙が枯れた。
四十年が経つ頃には、未来を諦めた。
六十年が経つ頃には、世を儚んで俗世を離れた。
草臥れた老人は、嘗ての家族の墓に囲まれて過ごす。
全てを諦めて、それでもと研究だけは続けて、世界最高峰の魔法使いは草臥れていた。
魔王の復活すら、どうでも良いと見切りを付ける。
世界に満ちた絶望すら、興味を引く事はなかったのだ。
そんな彼に、遅過ぎた出会いがあった。
もう少し早ければ、そう願ってしまう出会いがあった。
――なあ、爺さんがこの国で一番凄い魔法使いか!
破天荒な少年だった。
差別され続けた亜人に対して、当たり前に触れる事の出来た少年だった。
世界を救う事を義務付けられて、それでも快活に笑う。
そんな太陽みたいな少年が、勇者キョウと呼ばれた子供だった。
――頼むぜ、爺さん。爺さんの助けがさ、必要なんだ!
彼は己の力を借りに来た。
優れた魔法使いの力が必要なのだと語った。
当然の如く拒絶した。
何度も何度も拒絶して、それなのにその子供は何度だって訪れた。
――俺はさ、凄ぇしつこいんだぜ。ダチだって、溜息交じりに諦めるんだからさ。
本当に、しつこい子供だった。
何度も手を貸す気はないと言って、時には強制転移させたのに、その度に必ず戻って来た。
面倒になって投げ掛けた無理難題すら、仲間達と協力して、苦難の果てに乗り越えていった。
何時しか断る事すら億劫になり、仕方がないと手を貸した。
――凄ぇな、爺さん。俺、こんな魔法見た事ないぜ!
年相応に目を輝かせる勇者。
彼の仲間達もまた、こんな自分に当たり前に対応した。
彼に対抗心を燃やしていた若い騎士が居た。
彼は長く生きただけの老人を、賢者殿と呼んで慕った。
勇者に勝つ術を教わって、何度負けても諦めずに挑み続けていた。
後に人類最高の騎士。最南端の騎士。
そう称される事になる彼は、若き頃の自分を思わせる直向きな青年だった。
勇者に恋した教会の聖女が居た。
教えの上では迫害の対象である穢れた自分すら、少女は仲間と受け入れていた。
亜人達の境遇を悲しく想い、何も変えられない己の力不足を嘆いていた。
それでも手の届く範囲においては何とかしようと足掻く、そんな確かな優しさを持っていた。
最初は拒絶して、諦めて付いて行った彼らとの旅路。
だがその中で、確かに美しいものを見た。
世に絶望していた老人は、確かに勇者の背に光を見つけた。
――なあ、爺さん。これは、俺らが守ったんだぜ。
ある街を襲った大侵攻。
魔王軍の総攻撃を前に、老人は力の全てを使い果たした。
それでも届かぬ刃を届かせる為に、老賢者は人を捨てて魔に成り果てた。
己が怪物と成り果てる前に眠らせてくれと願って、老賢者はその命を捨てたのだ。
――綺麗だろ。この景色。これはさ、爺さんが、守ったんだぜ。
涙ながらに語る彼に、不器用に笑う。
何時しか孫の様に思っていた、口の悪い少年に微笑み掛ける。
「嗚呼、綺麗だなぁ」
その景色よりも尚、涙を零す彼の優しさの方が綺麗だと想った。
己の為だけに流された涙が、何よりも美しいと思えたのだ。
だからそれを守って、眠りに付けるのは幸せだと感じた。
勇者の戦いの果てを見届ける事は出来なくても、それでも満たされていたのだ。
だが、やはり世界は醜くて、救いなんて何処にもなかった。
完全な魔物となって心が死ぬ前に、自らの意志で眠りに就いた老人。
それを叩き起こした愚者が居た。
ただ権力闘争の駒として、その眠りを覚ました愚者が居た。
目が覚めた時、勇者は居なかった。
目が覚めた時、守った景色は焦土と化していた。
あの日守った景色が、領土争いで燃えていた。
家族の墓は暴かれ、己の心は悪意に染まり、そして世界には美しいモノなんて残ってなかった。
老人はもう、耐えられなかった。
◇
蒼き輝きが、ゆっくりと消え失せる。
黒き閃光とぶつかりあった蒼銀は、全ての穢れを確かに浄化していた。
だが、それだけだった。
黒き破壊は消し去られた。
あの美しい色をした少年は、確かに背に負った者を守り抜いた。
けれど蒼銀は、黒を消し切れなかった。
極光を消し去っても、巨大な躯の化外には刃が届かなかったのだ。
「また、生き延びてしまったか」
躯の王が寂しげに語る。
巨大な骨が、まるで泣いている様に震えていた。
眼前には、崩れ落ちた少年の姿。
蒼き光は消え去って、彼はこうして意識を失った。
結局、美しいモノは醜いモノに塗り潰されてしまうのであろう。
「儂は、醜いのう」
救いの光は此処に消え去る。蒼銀の輝きは、もう光らない。
そして醜く歪んだ老賢者には、最早破滅の未来しか存在していない。
「嗚呼、世界は何処まで残酷なのだろうか」
悲しさが、胸に過ぎ去る。
その無情に涙が零れ落ちる。
己の悪行は正されず、美しい善意は此処に消え去った。
「まあ、良いわ」
されど、それを悲しいと思ったのは嘗ての老賢者。
既に悪意で歪んだアンデットキングには、最早嘗ての残照しか残らない。
全ての葛藤も、全ての悲しみも、何もなかったかの様に怪物は嗤う。
既に怪物はもう引き返せない。
何処までも終わってしまった老人が、嗤いながらネコビトを滅ぼしたのは変えられない事実なのだから。
「さて、滅ぼそうかのう」
全ての元凶を、此処で滅ぼそう。
瘴気を生み出したのは人間で、瘴気の塊こそが魔王。
人間の意識総体。
集合無意識に溜まった穢れが、魔王となった。
故にこそ、全ての元凶は人間なのだ。
故にこそ、完全に魔王を消し去る為には、人間が滅びる以外に術はない。
だから、滅ぼそう。
彼らが生み出した悪意で、因果応報の痛みを与えよう。
魔物に堕ちた己が、遍く全てを滅ぼし穢し貶めよう。
「魔王の躯を使えば、人は滅ぼせる。人類と言う癌が消え去れば、世界には綺麗な物が戻る」
他ならぬ悪竜王が言った。
あの不完全な術式でも、その膨大な量の瘴気があれば発動できる。
ならば明日の朝日が昇る前に、人間は滅び去る。
この幻想世界の環境を、人の生きられない地獄へと変えるのだ。
人類と言う存在が全て滅びれば、きっと美しいモノだけが残る。
人間と言う害悪さえ無くなれば、きっと美しいモノは返って来る。
「きっと、きっと、きっと」
嗚呼、けれど思ってしまう。
己が美しいと思ったのは、その人間の輝きではなかったのかと。
だが、もう止まれない。
遥か昔にブレーキは壊れて、止めてくれる人はもういないから。
「だから――さあ、滅ぼそう」
そんな老人の絶望が――その破滅を呼んだ。
その破滅はまるで老人にとっての最期の救いとなるかの様に、今此処に顕現した。
その異変は、最初に音と言う形で現れた。
「……なんじゃ、これは」
巨大な躯が戸惑いを見せる。
何処からともなく聞こえて来る音に、何故だか恐怖を感じていた。
「歌?」
それは、歌だった。
優れた技巧。透き通った声。素晴らしい音程。
全てが高次元で纏まった歌声は、心を動かし感動させる。
「~~~♪」
「何じゃ、何なのじゃ、この歌は!?」
だが、その感動が正の方向とは限らない。
心を動かすその音が、必ずしも誰かを癒すとは限らない。
それは童謡。子供に聞かせる童歌。
素晴らしい歌なのに、何故だか背筋を凍らせる。
唯、耳にしているだけで、気が狂ってしまいそうなそれは魔王の呪歌。
これより死に逝く不死者の王に、三つ首の大邪竜が送る葬送曲。
「~~~♪」
「馬鹿、な……」
死体が歌っていた。
黒き閃光に焼かれた残骸が、ケタケタと嗤いながら歌っていた。
「~~~♪」
「何だそれはっ!? 何なんだ貴様はっ!?」
ゆっくりと起き上がる焼死体。
真っ黒に焼かれた残骸が、その手を大きく横に広げる。
影に亀裂が走る。
まるで逆さまの三日月の様に、その口が裂けた。
「キヒ」
壊れた笑い声。狂った笑みが張り付いている。
鐘が割れる様な声で嗤いながら、怪物はゆっくりとその姿を変えていった。
「キヒ、キヒャヒャ」
そう。それは当然の結末だ。
蒼銀の輝きは希望の光。
それが失われれば、後には怪物しか残らない。
「キャーキャッキャッキャッ!」
黄金の瞳が嗤っている。
全身を包んだ黒い鱗。
腰まで届く髪は、灰の様に白い。
両手は三つ首に肥大化して、その尾は全身よりも大きい。
絶望の化身が、其処に生まれ落ちた。
「何なのだ、貴様はぁぁぁぁっ!!」
その存在から感じる、圧倒的な不吉の気配。
立ち上る瘴気が空を塗り替えていく様に恐怖を抱いて、屍人の王が咆哮する。
究極の魔法。それは躯の王を生み出す魔法。
その口から放たれる破滅の一撃は、躯の巨人が健在ならば何度だって放てる。
大陸一つを消し去る魔法すら、無詠唱で幾らでも使える。
故にこそ、闇の頂点に君臨しているその究極魔法は――
「……今、何かした?」
「馬鹿、な」
何一つとして破壊の爪痕を残せずに、悪なる竜に食われて消えた。
あり得ないと驚愕に目を見開く死人の王。
その髑髏の怪物は、次の一瞬には地に伏せていた。
「ぎぃぃぃっ!?」
何が起きたのか分からない。
疑問と苦痛を感じる死人の視界に、映り込んだのは竜の足。
「ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇ? 今、何した心算なの?」
踏んだ。
踏んだ。踏んだ。踏んだ。
踏んだ。踏んだ。踏んだ。踏んだ。
嗤う竜が何時の間にか、本当に一瞬の間に死人の王を踏み付けている。
その百メートルを超える巨体を踏み躙りながら、ケタケタと歪に嗤っている。
「教えてよ。教えてよ。教えてよ。あ、でも――どうでも良いや」
ぐしゃりと、巨大な躯が潰れる。
クルクルと変わる躁鬱に、クルクルと砕かれて潰れていく。
もうどうしようもない程に、全てがクルクル狂っていた。
「アハハハハ、ハハハハハハハハッ!」
嗤う。嗤う。嗤い狂う。
これぞ真なる闇の王。狂気に満ちた三つ首の大邪竜。
魔王とは絶望の化身。
蒼銀の光を奪ってしまえば、其処に救いは存在しない。
「おぉぉぉぉぉっ!?」
砕かれる躯から逃げ出して、屍の王が吠える。
何故に死ねないのか、それすら忘れ果てた残骸が力を発揮する。
「燃えろ! 吹き飛べ! 腐れ! 滅べぇっ!!」
至高の魔法使いが発動するは、無詠唱による上級魔法。
詠唱破棄して放たれる力は、本来のそれより多少は落ちるが、それでも戦場を一変させ得る破壊の力。
だが、それも届かない。
「ハハハ、ハハハハハハハハッ!」
地獄の業火が燃え上がる。――その炎は黒き鱗を焦がす事さえ出来ていない。
不浄を孕んだ竜巻が巻き起こる。――まるでそよ風を感じる様に、何処か心地良さそうに竜は目を閉じる。
砂漠の王の腐らせる毒素に迫る程の腐毒が、何もかもを染め上げんと沸き上がる。――だがそれすらも、この怪物には意味がない。
「キャーキャキャキャキャッ! ……邪魔」
滅びの極光は、蠅を払う様な仕草で掻き消された。
世界最高の魔法使いが、この怪物を前に何も出来ずに恐怖に身体を震わせる。
「ねぇ、次は何するの? ねぇ、次は何して遊ぶの?」
「……怪、物、め」
ぐしゃり、ぐしゃりと骨を踏み躙る。
その汚物に塗れた法衣が残骸となって、踏み躙る悪竜は嗤っている。
最早少年の見せた輝きなどは何処にもなく、其処にあるのは悪意の暴竜。
その巨大な爪が、三つ首の顎門が、全てを砕こうと伸ばされた。
「おぉぉぉぉぉっ!!」
魔法は通じない。究極のそれさえ、傷すら付かない。
ならば打つ手は唯一つ。ローブの老人は這いずる様に逃げながら、少女が地面に落とした精霊の矛をその手に取る。
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!」
瞬間、じゅうと焼き焦げる骨の腕。
精霊の矛に浄化されながら、それでも不死者はそれを振るった。
キンと言う音がして、矛が弾かれ罅割れる。
悪なる竜は、何一つとして変化が見られない。
「アハハハハハハッ!」
届かない。最強の竜王に、そんな武器など意味がない。
その腕を犠牲にしてまで振るった矛は、竜の外皮を傷付ける事も出来ない。
弾かれて出来た亀裂が広がり、大地の矛は砕け散った。
「馬鹿、な。精霊の武具、だぞ。無傷だと、……がっ!?」
両手を失って呆然とする屍を、その巨大な足で踏み躙る。
その無様を嗤いながら、その愚かさを嗤いながら、その身体を踏み躙る。
「君さぁ、馬鹿じゃないの?」
張り付いた悪意が告げる。
踏み躙られて、砕けていく塵芥に告げる。
それは一つの、絶望的な真実。
「瘴気は精霊の力で消せる。光は闇を払える。だけど、さ」
確かに、精霊の力は悪竜に届く。
故にこそ、聖なる剣は悪なる竜を封じ続けていた。
だが。
「幾ら火を水で消せると言っても、森林火災をコップ一杯の水で消す事なんて出来ないだろ?」
「……っ、貴様はっ」
精霊の矛など、竜にとっては一杯の水にすら届かない。
否、老賢者の持つ知識の全てが、盃一杯を満たす事さえ出来ていない。
「詰まりはそういう事だよ。君の全霊は、コップ一杯の水にも届かない」
「おのれ、おのれぇ、おのれぇぇぇっ!!」
「アハハ、ハハハハハハッ!」
これぞ、悪なる魔竜王。
五大魔王の中でも、最も強いとされる存在。
四大の魔王を同時に敵に回して、必ず勝利するとされる絶対悪。
真に目覚めた今、悪竜王は止まらない。
悪なる竜に対しては、如何なる力も意味はない。
人一人を即死させる力も、その絶対量を崩せない。
その悪を浄化させる力も、圧倒的に量が足りていない。
如何なる力も、傷付ける事能わず。
如何なる守りも、この爪を前にすれば意味がないのだ。
「儂の死は、貴様か!? 善ではなく、正義ですらなく、儂は貴様に討たれるのかぁぁぁぁっ!?」
「どうでも良いよ。そんなもの」
「がぁぁぁぁっ!?」
踏んだ。踏んだ。踏んだ。踏んだ。
磨り潰す様に踏み躙って、悪なる竜は歪な笑みを浮かべる。
「あーあ、もう壊れるかな?」
それはまるで、玩具に飽きた子供がそれを捨てる様に――
「それじゃぁ、バイバイ」
無垢なる悪意が嗤いながら、草臥れた老賢者を踏み潰した。
ぐちゃりと音を立てて、断末魔すら残す事はなく、老賢者は此処で終わった。
「アハハ」
悪は、此処に潰える。
善に討たれる事を望んだ老人は、より深き悪に喰われた。
「ハハハハハハッ!」
それは因果応報と言うには、余りにも残酷な結末。
それでも美しいモノを壊さずに終われた事、或いはそれが老人の最期の救い。
悪に堕ちた愚かな老人は、こうして何も出来ずに終わる。
絶対的な悪の魔王に飲まれて、その生命は幕を下ろした。
「キャーキャキャキャキャッ!!」
嗤い声が響く。
地獄の様な世界で、鐘を割る様な嗤い声が響いている。
声は止まない。
悪なる竜は止まらない。
もうその胸に、蒼き輝きは残っていないから――
主人公がラスボス。