表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

産後democracy

作者: 羽生河四ノ

もう十一月も二十日を過ぎていて、それに愕然として書きました。

 夫と出会い結婚してから八年、子供を産んでから五年が経った。

 私はその時、リビングの床で積み木で遊んでいた我が子の事を見ていた。ダイニングのテーブルのところから。子供にばれないように覗き込んで見ていた。

 我が子は床に座って、手に三角の黄色い積み木を持っていた。そして黙ったまま動かなかった。

 子供には時々、そのように停止する瞬間がある。私はそれを思考停止動作停止時間と呼んでいる。無の極致状態でもいい。とにかくそういう瞬間が子供の世界には存在する。私自身子供の頃そうだったから、わかる。あれは別におかしいものじゃない。


 自身の子供の頃も、

 「あうー、あうー、ままー、ままー、まm・・・」

 停止。


 そういう時、私の母は私に対して無闇に干渉してこなかった。母は私を含めて五人も子供を産んで育てて来た育児セミプロだったので、私のような下から二番目の子供の時など、もう慣れたものだったのだろう。ちょちょいのちょいだったのだろう。夫の子供を授かったとき私は母に「あんたは当時私がはまっていたパッチワークの合間に育てた」って言われたし。

 それでも、私は五体満足で生きているし、夫と結婚したし、子供だって産めた。それに母は一番下の私の弟なんて更に放っていたし。弟が家の縁側から落ちて火が付いたように泣き出しても、母は動じなかった。逆になまはげのお面を被って弟が泣き止むまで「わりいこはいねえが~!」ってやって跳んだりはねたりうねったりしていた。偽物の包丁も振り回していた。それを傍で見ていた私も弟同様に泣き出したが、私が泣いたら弟は泣き止んだ。弟が泣き止むと母もなまはげの舞を終了した。そしたら私も泣く理由が無くなったので泣きやんだ。母の育児は不思議で、あと何かと癖があったと思う。きっと母はその位のもんでいいと思っていたんだろう。そして私も実際そのくらいのもんでいいのだろうと思っている。

 『親がなくても子は育つ』

 結局の所、その子供がどう育つのか?それは誰にも分からない事だ。

 「あんた、お人形と会話している時とか、急に止まることがあったのよ。最初は餅でも詰まらせているんだと思って焦ったわねえ、でも、違ったの、停止してたの、ビデオみたいに、あっはははははは!」


 まあ私も母までとは行かないが、育児に関しては大体そうしている。多少放牧チックにしている。それでも育つ。大人として親として母として、我が子が本当に危ない事とかをしそうになったら教えてあげているけど、その時は多少怒ったりもするけど。

 でも親にとって重要な事は、子供のもつ世界を多少危ない部分を矯正しつつも、ある程度の所まで広げてあげる事だと私は思っている。

 ある程度まで広げられることが出来たら、子供はもう自分で世界を広げられるし、そこから先に無理に親がついてあれこれ言ったりするのは無粋だ。

 それだからきっと親として子供にできる事、教えてあげる事は本当はそんなに多く無い。

 子供は日々ものすごい速度で世界を吸収しているのだから。

 親は子供にとって旅立つ目印になるブイ、そして迷った時に帰ってこられる為の灯台のようなもんだ。とおこがましいけど私はそう思っている。というか私はあの子にとってそんな存在になりたい。私にとって私の母がそうであったように。

 子供の人生は親のものではないし、親のおもちゃでもない。

 親が干渉しすぎるのはいけない事だ。

 そう思う。



 ただ、

 しかし、



 「・・・」

 現在、私は我が子の事をキッチンの影からこっそりと眺めている。超詮索している。超干渉している。超心配している。超無粋な事をしている。

 「・・・」

 我が子は相変わらずリビングの床に座って手に積み木を持ったまま固まっていた。なおも停止時間の真っ只中であるようだった。

 「・・・おぱあ!」

 あ、目覚めた。再生。我が子は停止時間が解けると、毎回水底から水面に上がってきて顔を出したときに上げるような声を上げる。そして再生すると、また間髪入れずに今までのように無邪気に積み木で遊び始めた。

 「ちょあーちょあー」

 積み木を積み立てては崩すを繰り返している。

 「・・・」

 で、

 今、何故私が我が子に対してそんな事をしているのか?影からこっそりとストーカーがその対象を眺めるみたいに眺めているのかといえば、簡単な話、


 うちの子供の停止時間は他所で見るそれとは何かが違う気がしたからだ。肌感、私の肌感だけど。


 子供の停止時間というのは言ってみたら脳が情報を整理する為の小休止。つまり大人であれば昼寝、あるいは就寝の時に近い。しかし、子供、特に小さい子供の場合、その二項目だけでは賄えない部分、瞬間というのが生じる。その理由は子供というのはいつも何をするにも全力で望んでいるからだ。彼らは手を抜くと言う事を知らない。彼らはいつもほうき星のように絶えずエネルギーを発しながら行動している。それだからどこかでサブタンク的に緊急措置を設ける必要がある。

 それが件の停止時間となるのだ。

 彼らのの回復力はすさまじい、たとえ少しの時間であっても、すぐにまた十分に回復して世界に飛び出していくことが出来る。きっと子供たちにとってそれほどこの世界は輝いているのだろう。煌いているのだろう。私のもあのような頃があった。誰にとってもあのような頃があったはずだ。



 でも、

 ただ、



 我が子の場合、それをしている間に、何か違ぇ事をしているんじゃないか?という気がする。肌感。私の肌感で。

 そしてより具体的に言うのであれば、


 わが子は停止時間の間に会話している。誰かと。


 以前から、その兆候みたいなのはあった。


 ある日私が晩御飯の準備をしているとき、突然何かが私の足を掴んだ。見ると子供、我が子だった。さっきまでリビングで「おしょおおーおしょおおおー」と言ってお絵かきをして遊んでいた我が子だった。

 「ねえ、おかあさん」

 「何、我が子」

 私は包丁を一旦、まな板の上においてから答えた。

 「みんしゅしゅぎって、英語ではでもくらしーっていうの?」

 我が子はそう言った。

 確かにそう言った。


 他にもある。

 私が夜、就寝前我が子に絵本を読んでいた時、うとうとしていた我が子の目が突然カってなって見開いた。

 「どうした?」

 私は我が子の身を案じて聞いた。病院の夜間受付の事と、その風景も想像した。でも、

 「おかあさん、精子は一回の射精で一億から四億くらい存在するんだね」

 我が子はそう言った。そしてそのまま寝入った。


 他にもある。まだまだある。

 しかし、私が昼間とか我が子に対して「どこで何を見た聞いた?」と尋ねても、息子は「えへへ・・・」はにかんで、まるで痴呆のようになってはぐらかすばかりで埒があかない。


 であるから、今日私は黙って影から我が子を覗いていていたわけだ。


 我が子は私の顔を見つけると、にへらとして笑って「まーまー」と言って走り寄ってくるばかりで、一向にあの怪奇現象の正体を私に教えてくれないし、探らせないようにしている。だから・・・、


 ・・・、


 怪奇現象・・・。


 私は今、怪奇現象だと言った。心の中で。無意識だったけどそういう言葉の選択していた。

 そうなんだろうか?

 これは怪奇現象なんだろうか?

 子供は、子供の頃はそういうのを良く見ると聞くけど・・・でも私は子供の頃そんなもの見たこと無かったし、そんなんよりも母親のなまはげのダンスのほうが怖かったし、すごい怖かったし、トラウマだし。

 でも、今わが子の身に起こっているこの一連の出来事は、怪奇現象なんだろうか・・・?


 いや、


 いやいや、


 いやいやいや、


 でもさあ、


 怪奇現象の類がさあ、


 デモクラシーとか精子の数とかをわが子におしえるべが?


 もっとあるんでねが?


 いや、これは、私は決して今、怪奇現象を推奨しようとか、そう言う事ではないんだけど、でもさあ、もっとあるだろう?

 怪奇現象の類だったら、普通は「かわいいねえ、一緒に向こうに行こうか?」とか、そういうのじゃねえの?


 なんでデモクラシーとか、精子の数とかそう言う事を教えねばいげねなや?



 ・・・、


 そんな風にあいかわらず私の目は我が子を覗き見ているけど、私の頭はすっかり違うことを考えている時、

 「ままー」

 という声がした。

 「ん?」

 見ると、さっきまでリビングで積み木で遊んでいた我が子は既にそこにはおらず、いつの間にやら私の足元にいた。

わあ!

それを見た瞬間、内心で私は激しく動揺した。

 「ど、どうしたの我が子?」

 キョドった。

 「あのねー、心配しなくてもだいじょうぶだよー?」

 我が子は私のことを見上げて言った。そ、そんなに私は心配そうな顔をしていたのか?子供に対してなんて酷い親なんだ私は。ショックだった。

 「な、何が?」

 それでも冷静に接するのが、親の務めというもの。そう自分に言い聞かせた。

 「別にお化けとしゃべっているわけじゃないし、みんなとしゃべっているんだ」

 我が子は言った。

 「み、みんな?」

 みんなって何?それってお化けっていうことじゃないの?っていうか私はお化けなんて言ってねえけどさ。

 「うん、僕はままとぱぱのおかげで、この世に生を受けた。それはとても感謝しているんだ。ありがとう。でも、それはたまたま、僕が最初に受精しただけの話だから、僕は生まれるとき、みんなも一緒に行こうよって言ったんだ」

 我が子は何やら難しいことを言った。五歳にしては難しいことだと思う。実際私にはよく意味がわからなかった。でもだからと言って、子供の話すことだからと言って、侮ってはいけない。この子は今、間違いなく重要なことを話している。私にはそれがわかった。肌感。肌感でわかった。

 「僕が生まれるとき、みんなで生きようって決めたんだ」

 「みんな・・・」


 「うん、僕が出来た時のパパの精子の数だけ、ここにはいるんだ、みんないるんだ」


 「・・・」


 「みんなで決めたんだ。僕はこれからもみんなで生きていきたいんだ。デモクラシーってそういうことなんでしょ?」


 私は、その瞬間、不意に今この家に、我が家に一億以上の我が子がいる光景を想像した。


 でも、そんなの上手く想像なんてできなかった。

産後クライシスと大正デモクラシーって似ているなーって思ったので書きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは・・・・・・・ある意味で怖いホラーですね。しかしこのお母さん、少し男前(!?)でドライな雰囲気、いまいち緊張感に欠けるとこが好きです。自問自答の心の声に、何故に方言が混ざってるんだろ…
2019/11/14 21:34 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ