一章
ヘンな夢を日常見た。
なんか、ファンタジー系の。剣持って戦っていた気がする。敵は…よくゲームに出てくるアイツ。
そして、微妙な頭痛がする。辛いなら学校を休むという選択肢があるが、そんなにひどくはない。だからこそ、とても気になる頭痛。
なんだろう。とても大切なことを忘れている気がする。本当に、とてつもなく大切なこと。
髪をかき回し、記憶の断片を探るが答えは見つからなかった。
諦めて時計を見ると、もう10時。目の前の保育園では外遊びが始まっている。 そうか、確か今日は月曜日。親は俺を起こすのを諦めて出社したのだろう。家の中が静まり返っていた。
あまり出る気にならないベットからもそもそと降りると、おぼつかない足で一階のリビングへ行く。テレビでも見ようとしたが、先客がいた。
「あら湊。おはよう」
こちらを見ずに姉の奏がテレビの前でラーメンを啜る。髪の毛はボサボサで寝間着のまんま。それなりの大学のそこそこな成績でまぁまぁ容姿もいい女子大学生の日常なんてこんなもんだろうが、それでも登校する時の雰囲気とは似つかない。女ってほんと怖いなと思う。
「……おはよう。朝飯は?」
「冷めたご飯と納豆か、カップラーメン」
朝からカップラーメンなんて、考えただけでも胸焼けがする。迷わずラップのかけてあったご飯茶碗を手にした。冷蔵庫の中から納豆を出す。
「うわ、あんた納豆食うの?朝からよく食えるわねぇ」
「それはねーちゃんの胃と頭がおかしいんだよ」
俺だって納豆を食いたいわけじゃない。しょうがないだろと呟きながらパックを破った。
「ねぇ見て。この間の強盗事件、犯人捕まったって」
「朝からワイドショー見てんの?」
「見た目優しそうなのにねー。人間って怖いわー」
あんたの化粧の方が怖いわと突っ込みたくなるのを寸前で抑え、納豆の液とカラシを垂らす。何回か軽く混ぜご飯の上にぶっかけた。
「そーいえば、あんた今日新学期でしょ?寝坊していいの?」
「しらねぇよ。学校から電話あった?」
「優しいお姉様が『頭が痛いみたいで』って言っといてやったわ。お母さんのフリして」
「フリする必要ないだろ」
「あら、高校の先生なんて欠席の連絡を若い女の声で受けたら真っ先に怪しむのよ。『コイツ援助交際してんじゃないか』って」
「するかよ!!」
確かに頭が痛いのは事実だか、姉と話していると更に頭痛がひどくなる気がしてきた。
「………まぁいいわ。今日は寝とく」
「勉強しなさい」
「わかったわかった勉強もする」
適当に返事をして納豆ご飯を流し込む。
「ごちそーさま」
「ん、皿は洗っといてやるわ」
「サンキュ」
流し台に置いて、そそくさと二階に上がろうとした、その時。
「………ねぇ湊」
姉に声をかけられた。鬱陶しくてイラつきながら振り返る。
「なんだよ」
今日初めて姉と目が合った。
「頭、どしたの?」
顔は驚きと戸惑いで満ち、右手で俺の頭ら辺を指している。
それに誘われて、頭にゆっくりと左手を持っていった。
髪の毛はある。どこも禿げてはいない。
「どうしたのって、何か変なことが……」
そう自分で言って、窓を凝視した。
いつもと変わらないリビング。