ひなみファンクラブ
視点:アルフレッド
「これが噂の回復薬なのか…!」
「なんと神々しい…!」
「私達よりもずっと幼い少女が作っていると言う噂の…!」
ざわざわと周りに騎士が集まってきて、俺の隣にある台に乗った回復薬を囲んだ。
今日は城にある騎士団の訓練指導を行う予定だったが、どうせならとひなみの回復薬を景品にした。
訓練指導とは言っても、俺は魔術師である為剣の技や体術を見ることは出来ない。ここでの俺の役割は、戦闘時の魔術師に関しての動き、それから魔法を使う魔物への対処法があげられる。まぁ、基本的には対魔法の訓練となる。
勇者パーティーに在籍する俺は、主に魔法での殲滅を役割としている。防御や支援は治癒術師に任せ、攻撃のみを行う。冒険者のパーティーであれば、魔術師も多少の支援魔法を使うが、このパーティーは治癒術師が優秀なので全て任せている。
「さて。どうやら、皆もこれが何かは気付いている様だな」
「「はいっ!!」」
ひとつ声を掛ければ、騎士全員が敬礼をした。さすが、よく統率されている。
数週間前、試しにと怪我をした騎士に与えたところ爆発的にこの回復薬の噂が騎士団を駆け巡った。味に、効果に、それを考えれば至極当然であると言える。
その噂はまるで回復薬を崇めたて祀る様だった。そして製作者が“ひなみ”という名前である…という所にまで行き着いたらしかった。
「本日の訓練では、模擬戦を行おうと思う。最終勝者には、この回復薬を与えよう」
「「「うおおぉぉぉ!!」」」
普段は紳士である騎士達から、思っていた以上の声があがり、ひなみの凄さを再度実感する。そして、その次にはさらに予想していなかった言葉が俺の耳へと届けられた。
「これは必ずやファンクラブリーダーの私が手に入れねば…!」
「何を言っている! 手に入れるのは私だ!」
「ファンクラブの“迷惑になるといけないから店に行ってはならない”という掟のせいでまだ怪我をした奴しか飲んで無いと言うのに! 負けんぞ!!」
最後の台詞は早口だっが、どうやら色々掟が定められているひなみファンクラブがある…というのは分かった。
あの小さな店に、ここのでかい騎士達が行ったら大変なことになるな…と、頭の片隅で思いつつも。
後ろの低い位置で結っていたストレートの赤い髪を、高い位置で結びポニーテールにする。今日は模擬戦だからと、戦闘をしない予定で着ていたジャケットを脱いで近くの椅子へ掛ける。「え、アルフレッド様…?」と、騎士達から不安めいた声が聞こえてくる。
「どうやら皆、いつも以上にやる気の様だからな。本日は口頭指導のみの予定だったが、俺も参加しようと思う」
「「ええええぇぇぇ!?」」
「アルフレッド様に勝てる訳ないですよ!」
「飛び入り参加なんて、ずるいですよ!」
さっきまでの敬礼をしていた態度はどうしたと、ため息が漏れる。まったくもって精神統一が足りない者ばかりか。
「騎士であるのならば、己が欲するものくらい己の力で手に入れて見せよ!!」
腰に下げていた剣を地面に突き刺し、声をあげ、騎士達へ喝を入れる。
世界から全てがなくなったかのように辺りは静まり返り、騎士達は皆目を大きく開け、そして力強く頷いた。
「そう、それで良い。お前達は国に仕える騎士であろう。決して誇りは忘れるな!」
「「はいっ!!!」」
「良し! それでは模擬戦を始める。並んだ順に2人、前へ」
そして俺の声に、2人の騎士が前へ出て己が愛剣を構える。
息をひとつ吸い込み、冷静な瞳で相手を見やる。
「では、始めっ!!」
ガキンッッ!!
合図と共に、騎士達の剣が火花を散らした。そして数度撃ち合いを行って、距離を取る。恐らくこの間に多少の作戦を練るつもりなのだろうが、それは甘い。何せ魔物は待ってはくれないのだから。
「輝く炎よ、我の力を糧としその光を顕現させよ…灼熱の嵐!」
妹のシアが得意とする炎の魔法を、今だ見あっている騎士達へ放つ。
さぁ、魔物は待ってくれないのだから、ここからが本番だ。
「ちょ、アルフレッド様!?」
「実戦では何が起こるか分からないんだ、柔軟に対応出来るように、戦いながら思考を常に巡らせろ!」
「「…ッ! はい、アルフレッド様っ!!」」
騎士達の返事を合図に、俺はさらに魔法を放って行く。この程度でへこたれてしまっては、騎士団として恥ずかしいからな。この国を護れるよう、剣も、心も、強くあれと思う。
しばらくして、2人ともに俺の魔法で倒れた。結果は勝者無しという、悲惨な結果。
次の2人にはもう少し手加減して魔法を放とう。
「っし、俺の優勝だああぁぁ!!」
それから約2時間後、勝者の声が訓練場の空に響き渡った。
勝利を掴んだのは、騎士団に所属して3年目の青年であった。ちなみに俺は、魔法を放ちまくり魔力が切れたので結局参加をしなかった。魔力回復薬を飲んで参加する予定だったが、騎士全員に止められた。
台に置いてある真紅の回復薬を手に取り、優勝した騎士へ手渡す。
「最高級と言っても良い回復薬だ。大切にな」
「はいっ! ありがとうございます、アルフレッド様!!」
今にも泣き出しそうな顔をした騎士が、愛おしそうに回復薬を手で包み込む。
ひなみの作った回復薬は凄い人気だなと思いつつもも、その態度には若干引くものがある。
「アルフレッド様〜!」
「ん…?」
騎士達とちょっとした話をしながらその場に居れば、若干黄色い声が耳に入った。
「冒険者ギルドに出していた急ぎの採取依頼、達成出来たから持ってきたわよ」
「あぁ、助かる」
くねくねと身体を動かしながら話すこの冒険者は、見た目は男だが言動は女性のものであった。稀にいる特殊な人間、というものだろうか。
そして、騎士が持っている回復薬を見て、そちらへと小走りに向かった。
「あら、買ってくれたのね。ありがとう!」
彼? は、そう言って自分の鞄から同じ回復薬を取り出して騎士へ見せた。
「えっ?」
「同じ回復薬だぞ?」
「買ってくれて?」
「ありがとう??」
騎士達が怪訝な顔を見せ、一瞬で青ざめた。
しかし彼はそんなことを気にもせず、俺の元へ戻ってきて「さすがは騎士団、良い男だらけね!」と報告をしてくれた。
「私も、ここの常連なの。ひなみの箱庭、良いわよね! 買ってくれてるみたいだったから、代わりにお礼も伝えちゃった! 後で可愛い店主さんに教えてあげないとね」
「…あぁ、そうしてやってくれ。きっと喜ぶだろう」
若干誤解をしている騎士達は気にせず、彼に再度礼を言う。
「こっちこそ、美味しい依頼をありがとうございます。さて、私は仲間が待ってるから帰るわね!」
「あぁ、また何かあったらよろしく頼む」
「もっちろんよ〜!」
そして彼は最後に、騎士達へ大きく手を振り叫んだ。
「私はヒナ・ミルレッドよ! また会いましょうね〜!!」
「「!!!?」」
挨拶をしてそのまま去って行ったが、この場に残されたのは誤解をしたままの騎士達だった。
怪盗キッドさんより
リクエストいただきました。
ひなみのポーションを初めて飲んだ騎士達の反応やアルフレットの仲間の反応が見てみたいです!
です!
すみません、飲ませるの忘れました…!
ごめんなさいごめんなさい阿呆ですすみません………ずーん…今度どこかで書きます!
リクエストありがとうございました!