楽しい日
コタさんより
リクエストいただきました。
ある一日を色々な方々の視点
うっかりひなみ視点を忘れましたがいかがでしょうか?
リクエストありがとうございました!
視点:イクル
葉でできた桶にお湯を入れて、タオルを石鹸で泡立たせていく。
自分が使うには乙女すぎるが、お風呂が好きなのでこれはもう仕方がないとあきらめた。
ひなみ様の家にあるお風呂は、ひょっとしたら貴族や王族が使っているものよりもいいのでは……と、思ってしまうほどだ。
排水もしっかり管理されているし、何より魔道具のレベルが高すぎる。スイッチを入れればお湯が無限に勢いよくでてくるのは、他ではあまり見られないのではないだろうか。
「気に食わないけど、こればっかりは神とやらに感謝だね……」
本当、気に食わないけど。
泡がついた体をお湯で流し湯船につかる。あぁ、今日も1日が始まったと感じる。
「あれ、ひなみ様。今日はもっとゆっくりだと思ってたけど、早起きだね」
「おはよう、イクル。今日はシアちゃんと遊ぶ約束をしてるんだ」
「あぁ、それで。でもいつの間に連絡取ったのさ?」
ひなみ様は夕飯の時に翌日の予定を話す。昨日はそんなことを言っていなかったはずだ。
様子を伺えば、こげ茶の髪をふわりとさせて、キッチンに向いていたひなみ様がこちらに来た。
「実は昨日の夜に連絡がきたの! これに!」
「あぁ、魔道具に連絡がきたんだ」
だから昨夜、風の様子がおかしかったのか。
まるでドラゴンが上空を通過したかのように風が動いていたのを思い出し、やはりアルフレッド様と確信を得る。
ひなみ様がシンシア様からもらった通信の魔道具は、森と街の距離を繋ぐことはできない。おそらくシンシア様がドラゴンの上から通信を行ったのだろう。
「本当、すごい魔道具だよね〜! 楽しみ!」
「はいはい……」
俺から言わせればひなみ様の方が何倍も凄いんだけどね。
それは言わないで、朝食の準備を手伝うことにした。
◇ ◇ ◇
視点:シンシア・メルディーティ
待っていた友人の姿を見つけて、私は声をあげて喜んだ。はしたないかもしれませんが、ここは大通。誰も気にしてはいないでしょう。
「ひなみさん、こっちですー!」
「あっ! シアちゃん〜!」
大きく手を振れば、ひなみさんが声をあげて返事をしてくれた。
嬉しくなってひなみさんのところまで駆けて、ぎゅっと飛びついた。そんな私の行動に怒ることもせず、ひなみさんも一緒にはしゃいでくれた。
「そういえば、予定は決めてなかったよね。どこか行きたいところある?」
「そうです! 昨日は時間しか決めなかったですからね。私、ひなみさんと一緒に依頼を受けたいです!」
本日の予定を伝えると、ひなみさんが驚きながら慌てている。「弱いから、魔物はちょっお怖いかなぁ……」と、あまり乗り気ではない返事が帰ってくる。もちろん、それは想定済み。そもそも戦闘の依頼ではないのだから。
「違うんです。依頼と言っても、お花屋さんからで……街から少し歩いたところに咲いてる花の採取です。ただ、種類が多いので依頼として出されているんです」
「なるほど! 街の近くなら……平気、かな?」
ひなみさんが、後ろに控えていたイクルさんへと視線を投げる。特に言葉のやりとりはなかったけれど、ひなみさんが「大丈夫だって!」と私に返事をくれた。
それならと、さっそく冒険者ギルドで依頼を受けた。門へ行くまでの間に見つけたお見せで昼食を買い、3人でのんびりと歩く。たまにはこんな冒険も楽しくていいな。いつもはお兄様に追いつくために、必死で魔物を倒していた。
ふふ、ひなみさんといると、殺伐とした心が落ち着きますね。
◇ ◇ ◇
視点:ロロステッド
お花はとってもいい香りがして、僕の心を癒してくれるぽ。
街の外には魔物がいるけれど、弱っちいので瞬殺してやるぽ。
僕はとっても強いんだぽ!
※ただし街周辺の雑魚に限る※
草原でゴロゴロしながら体内に花を取り込んでいれば、不意にひなみんの声が聞こえてきた。ぴょんと跳び上がり視界をあげれば、こちらに歩いてくるひなみんが見えたぽ!
いくるんと、知らない可愛い赤い髪の女の子もいるぽ!
「あれ、ロロ君だ!」
『ひなみん〜!』
「えっ! ひなみん!? なんかそう呼ばれるの懐かしい〜!」
僕が勝手に楽しく名前を読んだのに、特に怒ることはしない! 優しいぽ!
妹をももるんと読んだ時はとても怒られたぽ……。
「あら、スライムさんね? 私はシンシア。ひなみさんの友達よ、よろしくね」
『ロロステッドだぽ! よろしくぽ!』
なんと新しいお友達ができたぽ!
嬉しくて飛び跳ねれば、ひなみんとシアさんが笑ってくれた。僕も一緒に笑ったぽ! でもいくるんは無表情だったぽ。今度ギャグを考えて笑わせてみせるぽ!
ひなみんたちは、花の採取にきたと笑い、僕は少し焦ったぽ。だって、ここら辺の花は僕の体内に入れてしまったぽ……。
「ロロ君って、そんなことができるんだ! すごいねぇ」
『褒められたぽ! でも、僕の栄養になるだけで取り出したりはできないぽ〜』
「いいよ、もう少し歩いて見るから」
うぅん、ひなみは優しいぽ!
◇ ◇ ◇
視点:アルフレッド・メルディーティ
シュトラインとともに空を駆け、ふと眼下にシアとひなみを見つけた。
澄み切った晴天は、外での安全を向上させるからいい。雨が降ったり、夜だったりすると危険がますからな。
「ん……? 魔物に囲まれているな。シアに、ひなみに、イクルに……スライムか」
スラム街の住人だろうとあたりをつけ、助けに入ったほうがいいか考える。魔物の数は3匹とそんなに多くはないのだが。
シアとひなみは両手で花がたくさん入った籠をかかえているし……スライムが戦うには数が多いだろう。
「となると、イクル……か」
確か棍を使うと言っていた呪奴隷。
珍しい武器を使うものだと思っていたから、ここで見られるのであれば丁度いい。
シアたちの前にいる3匹の魔物は、ウルフ。これは、成長し大人になるとハードウルフになる魔物だ。子供がたまに草原まで遊びにくる。それ以外は基本森にいる魔物。
「イクル強い! すごい!」
と、いろいろ考えてはいたのだが。イクルがあっさりと瞬殺した。
ひなみの嬉しそうな声が響き、そうだよなとひとりごちた。
「あんな雑魚じゃ、さすがに力は見れないか。結構……強そうだな」
スラリと細身に見えるが、しっかり鍛えているのだろう。今の一瞬しか見ていないが、体のバランス感覚は相当優れている。
「まぁ、次の機会にとっておくか……」
っと。
さすがにそろそろ戻らないといけないか。ドラゴンといえど、まだ子供のシュトラインは同じ場所を飛ぶのに集中力をかなり要する。
家に帰ったら、シアが今日のことを嬉しそうに報告するだろうな。今から楽しみだ。
「さぁ、シュトライン。城まで飛んでくれるな?」
『キュイー!』
小さくなるシアたちを見て、たまにはゆっくりするのもよさそうだと思った。




