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 1 兄、妹の行く末を憂う

初めての投稿になります。

歴史転生モノが読みたくてこのサイトに来たのですが、悪役令嬢モノにも良作が多くはまってしまいまして、自分も書いてみたいと思いましたが女性主人公は自分には難しい、なら兄を主役にしよう、という流れで始めてみました。

どうぞよろしくお願いいたします。

 これは死んだな、と思った。

 仕事帰りに青信号の交差点を直進したところ、真横から凄まじい衝撃に襲われた。

 多分トラックだったのだろう。

 運転していた軽自動車は潰されて回転しながらとび、そのまま電柱にめり込んでいた。

 エアバッグは作動していたが、気休めにもなっていないことは真っ赤な視界からも明らかだ。

 幸いなことに痛みは感じない。

 ドライブレコーダーがあるので向こうの過失については証明してくれるだろう、と益体もないことを考える。いや、家族への保険金がしっかり払われるから意味はあるか。

 家族。

 いまわのきわに考えるのは、やはり妹のことだった。

 人柄が悪いわけではないのだが、どうにも要領が悪いのか高校でいじめられているという妹。

 週末には実家に帰って、相手をしてやる予定だったのになぁ……。

 薄れゆく意識のなか、それだけが気がかりだった。



 という前世の記憶を思い出したのは、妹の婚約話を父から聞かされたのがきっかけだ。

「ミシュリーヌとエドワーズ王子との婚約が成った。マルセル、おまえはゆくゆくは王子の義兄だ」

 父、アルダートン公爵は満面の笑みで言う。

「ああ心配するな、お前の相手も引く手数多でな、しっかりと厳選しておるから――」

 それからの父の言葉は俺の耳を素通りしていった。


 ミシュリーヌ・アルダートンとエドワーズ王子。

 そして、マルセル・アルダートン。


 これって前世で妹がはまってた乙女ゲーの『光のコンチェルト』の世界じゃないか!


 俺はどうにか平静を装うと、自室に戻った。

 ベッドに寝転がると、様々な知識や記憶が湯水のように溢れてくる。

 現状を整理しよう。

 『光のコンチェルト』はもはやお約束である中世ヨーロッパ風という、世界史をまともに学んだ者ならばそのあまりのアバウトさに頭を抱える世界観がベースである。

 キャラ名が英独仏語ごちゃまぜな時点で、制作側もある程度開き直っているのかもしれない。

 ヨーロッパ風なのに言語が日本語だったり髪の色がバラエティ豊かなのはまあそういう様式だとして、中世風なのに学園物。

 なおかつ魔法要素ありのファンタジー物。

 前世の妹の話で聞いていた時はなんという欲張りセットだと思ったものだ。

 まあ、部分的に近代っぽいのは魔法技術のおかげと解釈すれば一応整合性はとれるのかもしれない。

 学園についても、貴族の子弟を中心に魔力がある者が通っているという話だし。


 おっと、世界観はさておき内容をできる限り思い出そう。

 そもそも、妹があまりにすすめてくるから自分も何ルートかやってみたのだが、正直わりと片手間にプレイしたので詳しいところは曖昧なのだ。押し付けられた設定資料集も気になるところをパラパラと眺めて終わりだったし。

 とりあえず、平民にも関わらず魔法――しかも非常に希少な聖属性に目覚めた主人公が学園に入学する所からゲームは始まる。

 当初主人公は平民ということで周囲からは白眼視されて針のムシロ状態。

 ここから攻略者達とイベントをこなして好感度を~といかないのがこのゲームの特徴らしい。

 この『光のコンチェルト』は通好みとされているそうで、まずは女性キャラの好感度を上げないといけないそうなのだ。

 各攻略対象についている令嬢と、級友、学園職員と、乙女ゲームなのに異様に女性キャラが多い。

 この女性陣を味方に引き入れないと、攻略対象とのイベントが発生しなかったり、発生しても上手くいかなかったりする仕様なのだ。

 妹が熱く語っているのを聞いて、妙にリアルだと思ったものだ。

 ……妹はあまり友達がいなかったので、友情も育めるこのゲームにハマったのかもしれない。


 おっと、湿っぽくなるのはやめよう。

 さて、この『光コン』、敵役の令嬢も味方にできる。

 どういうことかと言えば、通常は当然その令嬢の相方である攻略対象を狙うときは敵となる。

 しかし、他の攻略対象を狙う際には進め方によっては味方になってもらえるのだ。

 なので一度あるキャラのエンドを見たあとで他のキャラを狙うと、前回のプレイで敵だったキャラが味方となり意外な一面が見られるという仕様である。

 さらに、令嬢との友情度を限界まで高めると、彼女達を味方にした上で相方を攻略できるシナリオまで存在する。

 この情報だけを聞くと寝取りじゃねえかということなのだが、実は令嬢と相方は家同士が決めただけでお互いはそれ程、とか令嬢は他の男に身分違いの恋をしていて等の理由付けがしっかりしており、納得できる流れになっているそうだ。

 そんな微妙な関係のライバル令嬢と攻略対象のペアが複数あり、進め方によっては二人の間を取り持つ仲人プレイも可能というのだから凄い。

 シナリオに相当こだわったつくりになっているのだ。

 

 そんな中、どのルートでも変わらない立ち位置のキャラがいる。

 

 我が妹、ミシュリーヌ・アルダートンである。

 

 他の令嬢達がライバル令嬢と呼ばれるのに対し、ミシェリーヌだけは悪役令嬢と呼ばれる。

 これはどのルートであろうと一貫して主人公に敵対することに由来する。

 どうしてこうなったかといえば、『光コン』の珍しさを自覚していた開発会社が、チュートリアル的に作ったルートとキャラだかららしい。

 まずはテンプレ的な悪役を、味方を作って攻略し、このゲームの感覚をつかんでくださいというわけだ。

 そのような宿命の元に生まれたキャラなので、ミシェリーヌの最後は酷い。

 苛烈な貴族至上主義にして差別主義であり、子爵や男爵ですら下級風情と見下す。

 当然平民など塵芥同然と考える。

 エドワーズ王子ルートでは当然、あらゆる手を使って主人公を攻撃する。

 最終的には実家の公爵家の力を使って主人公を亡き者にしようとし、家は没落本人は処刑という有様である。

 他のキャラのルートでもぶれない悪役として活躍し、没落からの処刑放逐餓死エンドである。

 攻略対象を放置して女性キャラ全員と好感度を上げまくった果ての友情エンドですら、他国の中年変態貴族の側室にされるという悲惨な末路だ。


 ゲーム内でやったことを思えば当然なのだろうが、今の自分にとってミシュリーヌは実の妹であり、まだ8歳の可憐な少女だ。

 親の影響のせいで我儘さと、使用人を見下す態度が育ち始めてはいるが、今からなら軌道修正できるだろう。

 前世の最期の時まで、妹を心配していた俺だ。

 今世ではしっかりと、妹を幸せにしてやらなければ。


 

 


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