Reaction 9
「っ・・・ぁ・・・ふふ、性急」
舌を絡めて、息を乱しながら、ロイは笑う。その駄々漏れの色気、なんとかしてくれないかな。
「だって、余裕なんか、な・・・んっ」
俺の言い訳は、柔い舌に絡めとられてしまった。
息苦しいのに、唇と舌の弾力が、最高に気持ちよくて、口腔の熱に浮かされる。
離れ難くて貪り続けていたら、突然ロイに耳をくすぐられた。
「うわっ!?」
イタズラっぽい光を湛えた目が、俺を捉える。
「耳、弱いんだな」
艶を含んだ声で耳元で囁かれ、耳朶を食まれる。ゾクリとした感覚が背筋を走った。
「や、め・・・!」
耳を舐められる濡れた音と息遣いから、ゾクゾクとした快感に全身を襲われる。俺は思わず、ロイの背中に腕を回して、キツく抱きしめた。
「ヒュー、苦しい」
非難の言葉とうらはらに、その声のトーンには、やっぱり笑いが含まれている。
「ロイが、変なイタズラするから・・・!」
俺の泣き言を聞いて、ロイは、ピタリと動きを止めた。
あれ?なに・・・?
「ヒュー。お前、もしかして、初めて?」
突然、そんなことを問われ、返答につまり、俺は黙ってロイを見つめた。ロイは、自ずと答えを拾ったようだ。
「―――そこまで奥手だと思ってなかった。初めて、オレでいいの?」
気恥ずかしさに、俺は目をあわせられないまま、黙って頷く。
「・・・ま、いいか。あとになって後悔したら、予行演習だったとでも思え」
「思いませんよ、そんなこと」
酷い言い種に、思わず顔をあげて反論すると、ロイは、さっきまでのからかうような調子とは違う雰囲気で、やわらかく微笑んでいた。
「そうか」
そう言って、ロイは、俺の後頭部に両手を回す。そのまま、俺の腰と背凭れの間に身体を滑らせて、ソファに仰向けに横たわった。
俺は必然的に、ロイに覆い被さるような格好になる。
「オレも、耳、弱いんだ」
言葉に誘われて、耳に口付けると、ロイはくすぐったそうに肩をすくめた。
「・・・首筋も」
耳元から首筋にかけて、啄むようにキスを落としていくと、微かな吐息が聞こえてきた。
「教えて、全部。ロイの、気持ちいいところ」
「うん。教えるから・・・もっと―――」
甘い言葉のやりとりに、目眩がする。
そうしてふたりで、夜の更けていくままに、心ゆくまでじゃれあった。
ロイのベッドで、いつの間にか、眠りに落ちていたらしい。気付いたときには、空が白み始めていた。
俺は午後からのシフトが入っていた。そのまま出勤するわけにもいかないので、名残惜しいけど、部屋に戻ろうと考えた。
ロイはよく眠っていたけれども、黙って出ていくわけにもいかない。
衣服を整えながら、どう起こそうか悩んでいたら、気配を察したのか、長い睫毛が震えて、瞼が開いた。
ロイは俺をじっと見つめると、手を伸ばして、覗きこんでいた俺の前髪を軽く引っ張った。
引き寄せられて、口付ける。
唇を重ねる手前で、少し上体を起こしたロイの、顕になったデコルテの白さに刺激されて、貪りつくようにしてしまった。
「・・・朝っぱらから、ディープだな」
唇を放したロイに、またクスクスと笑われる。夕べから、ずっとそんな調子だ。
「帰んの?」
「ええ、午後からシフト入ってて」
「そっか・・・そこの引き出し、あけて」
ロイが示したサイドボードの引き出しを開けると、古びた鍵が、ひとつ入っていた。
「それ、もってけ。いつでも好きな時にきていいから」
え・・・てことは、この部屋のスペアキー!?
「いいんですか?」
「やるよ。だから、ちゃんと、会いにこいよ。でないと、職場での呼び出し回数増えるぞ」
「それはご勘弁・・・」
パワハラだよ、それじゃ。
「道、わかるか?」
「大丈夫だと思います、まだ早いし、散策がてら帰りますから」
「そうか。じゃあ気をつけてな」
「はい。今日はゆっくり休んでください。それじゃ」
ロイの額に軽く口付けてから、寝室を後にする。
リビングの大きめの窓からは、朝靄の港町が広がっているのが見えた。
部屋を出て、さっき貰った鍵で錠をしめる。・・・ホントにこの部屋の鍵だった。
疑った訳じゃないんだけど、ちょっと感動した。すごいお宝を貰ってしまった気分だ。
俺は、夕べからの出来事を反芻しながら、まだ薄暗い階段を降りていった。