Reaction 8
ロイの部屋は、5階にあって、小さなキッチンのついたリビングと水回りの他に、寝室が1部屋あるようだった。
普段の仕事ぶりを思い起こさせる、生活感のない殺風景な部屋だったけれども、リビングの窓からは、3マイルほど離れた先にある海が見えた。
「港がみえる」
時間が遅いから、灯りはまばらだけど、もう少し早い時間だと、綺麗な夜景が見えるんじゃないかな。
「お前、港町の生まれだっけ?」
「ええ、ここから船で1時間ほど南に下ったとこです。見晴らしいい部屋ですね」
「それだけで決めちゃったから、ちょっと不便なんだけどな。―――同じのでいいか?」
俺が頷くと、ロイは、2つのグラスに琥珀色の蒸留酒をそそいだ。
「こっち、座れよ」
示された二人がけのソファにかけると、ロイも、その隣に座る。片膝をかかえ、ひじ掛けを器用に背凭れ代わりにして、俺の方を向いた。
ち、近い・・・。
俺はまたドキドキしてしまって、気を反らそうとグラスの中身を一口含む。
あ、ヤバ。この酒、結構強いかも。
「キツかったか?ほら」
眉をしかめた俺に、ロイが水差しを差し出す。
「ありがとうございます」
グラスを差し出して、水割りにしてもらう。ロイは目を細めて笑っている。
いちいち反応を見られていた事に気付いて、俺はまた恥ずかしくなった。
「ロイは、どこの生まれなんです?」
「この辺りだ。実家は窮屈なんで、兄貴たちに任せて、一人暮らしさせてもらってる。代々、城勤めの旧家でな」
「お兄さんたちも、城勤めですか?」
「ああ。二人とも、文官だ」
どうりで、噂を聞かないはずだ。文官とは普段から接点がない。
「お前は?妹がいるっていってたな」
「ええ、妹が一人。故郷の港町で、食堂の手伝いやってます。気強くて、俺なんか言い負かされっぱなしですけど」
「そうか。でも、お前の妹なら、可愛いだろ?」
「う・・・はい、見た目的には」
また不意打ちを、この人は・・・話題、変えよう。
「えーと、『クライヴ大尉』に、前から聞きたいことあったんだけど、いいすか?」
仕事上の話なので、一応お断りしてみる。
「うん?」
ロイは気にした様子はないようだ。
「俺、他の奴らより、呼び出される回数が多いと思うんですけど、あれ、何で?」
「ああ。お前に言い付けると、効率がいいから、だな」
?どういうこと?
「同僚との人間関係が円滑だし、お前が困ってると、回りの連中も進んで手ぇ貸すだろ?何よりお前自身が素直だから、厭そうな顔してても、なんだかんだキッチリ片付けてくるし」
・・・それ、もしかしてスケープゴートって言わねえ?
「褒めてるんだから、厭そうな顔すんな、ヒュー。愛され体質だよなぁ、お前」
モノは言い様だ。ロイはソファの背凭れに寄りかかりながら、艶っぽい眼差しで俺を見つめ、うっすらと笑っている。
「かなわないなぁ、もう・・・」
俺は、ため息をついて、水割りのグラスを傾けた。
そんな俺の頭に、ロイが手を伸ばして撫でた。
触れられた瞬間、俺が大袈裟に動揺して反応してしまったので、ロイは直後に手を止めた。
「触られるの、嫌だったか?」
「・・・嫌じゃないから、困ってるって、言ってるでしょうが」
その返事を聞いて、ロイは満足そうに、にっこり笑う。
「ヒュー。折角、オレの部屋まできたのに、ずっと話だけしてる気か?」
「えーと・・・」
もう、心臓飛び出すんじゃないかってくらい、バクバクいってんだけど。
真っ赤になって硬直してる俺の首に、ロイは片腕を回して引き寄せる。
「まずはお試し、な」
触れるか触れないかくらいの軽いキス。
「どう?」
「ど・・・どうと言われましても・・・」
「わかんなかったか?じゃあもうちょっと、長く」
そう言って、今度は、しっかりと唇を押しつけてきた。はっきりと感じてしまった、ロイの唇の柔らかさに驚く。
「・・・抵抗感とか、そういうの、ない?」
ロイが、唇を放して、至近距離で尋ねる。その息遣いに煽られてしまう。
「全然」
応えると同時に、俺は自分から、ロイに深い口付けを重ねた。