Reaction 6
「あの・・・」
店を出て少し離れて、路地裏に入ったところで、俺はようやく声を出す事に成功した。
「なんで?」
突然、ロイに問われる。
「は?」
俺は質問の意味がわからず、マヌケな返事をしてしまった。
「なんで君みたいな子が、あんな店にいた?」
「あんな店?」
「セマられてたみたいだけど、どういう店か、わかんなかった?―――こないだの行きずりの男、あそこで知り合ったんだけど」
やっぱ、そういう店なのか。
ていうか。
「俺の事、覚えてるんですか!?」
「・・・。出会い方としては、インパクト強烈だったからね」
覚えててくれたなんて。しかも、それで、助け出してくれたってことか。
「ずっと、あなたの事、探してたんです」
「探してた?」
花のかんばせが、僅かに曇る。
「あ、先日の捕り物とは関係なくて!その・・・あなたの事が忘れられなくて・・・」
ロイは、面食らったようだ。
言ってから急に恥ずかしくなってしまったが、他に言い様もなく。
「・・・へえ?」
赤くなった俺を見て、ロイは面白そうに、口の端をあげる。
「や、下心とか、そういうのあってとかじゃないんで・・・す、けど・・・」
何を言い訳してるんだ、俺は!?
「下心あっても、オレはかまわないけど?」
軽・・・!
いや、出会った時から軽いのは、わかってたけど。
若干ショックを受けつつ、落ち着けと自分に言い聞かせ、深呼吸をする。
「―――ロイさん。あなたと少し話がしてみたいんだけど、付き合って貰えませんか?」
「いいぜ。それから、オレの事は、ロイ、でいい」
「ロイ、俺の名前は、ヒューです」
「ヒュー」
・・・あれ?
名前を呼ばれて、何かがひっかかった。何だ?
「少し先に、行きつけのバーがある。ノーマルな店だ。そこでどう?」
「あ、はい」
「じゃあ、行こう」
ひっかかったものの正体は掴めないまま、通りすぎてしまった。
ともあれ、俺は、ロイの先導するままに、後をついていった。
連れて行かれたのは、やはり看板の目立たない、先程の店よりシックな内装の、カウンターしかない小さなバーだった。
大人の隠れ家的な雰囲気に気後れしつつ、先程と同じ発泡酒をオーダーする。ロイも同じものを頼んだ。
「煙草、いい?」
吸うんだ。意外。
「どうぞ」
ほっそりした指先が、シガレットケースから煙草を取り出して、薄い唇に運ぶ。シルバーのオイルライターで、伏し目がちに火をつける仕草に見蕩れていたら、物欲しげに見えたのか「吸う?」と、シガレットケースを差し出されてしまった。
慌てて辞退した俺に、ロイは目を細めて笑う。
「ヒュー、君、ヘテロだろう?オレに対して、嫌悪感とか感じなかったのか?」
「全然。それで困ってるっていうか・・・俺、こんなに誰かの事が気になるなんて、初めてなんです」
また恥ずかしい事言ってる自覚はあったけど、正直に吐き出して、自分の気持ちの正体を突き止めたかった。
「オレに、一目惚れしちゃった?」
「たぶん。それに近いのかも」
ロイが、からかっているのがわかったが、俺は、ごく真面目に答えた。
「名前も、年も、普段何をしている人なのかもわからないのに、あなたの事が、どうしても頭から離れなくって。最初は、男相手に・・・って、悩みました。だけど、やっぱり気になってしまって。探して、会ってみようと、思ったんです」
「―――で?会ってみて、どう?」
「感動しました。すごく探したし、覚えててくれたの、嬉しかった。それに、さっきの店で、助けてくれたでしょう?あと・・・ホント、綺麗な人だなぁって」
「なんだかオレ、君の中で、すごい株あげちゃってるんだな」
ロイは煙草を燻らせながら、俺の話を聞いていたが、クスリと笑ってそう言った。
「もっと、あなたの事、知りたいです」
「積極的だな。こんな熱烈なアプローチうけたの、久しぶりだ」
流し目でそう言われて、また恥ずかしさがこみ上げてきた。
「・・・嫌でしたか?」
「いや。若いなぁと、思って」
「ロイって、いくつなんです?」
「22」
「なんだ。見た目に反して、実は、ものすごい年上なのかと思っちゃったじゃないですか」
「君はいくつ?」
「18です」
「若いよ。まだ10代じゃないか。―――可愛いな」
う・・・。その笑顔、破壊力半端ないんだけど。