Reaction 5
捕らえた容疑者は、尋問に程無く自白し、俺は晴れて面目躍如の身となった。
翌朝、早速クライヴ大尉の元へ報告に出向いたが、一言「ご苦労」とだけ、労われた。
・・・まぁ、この人が、手放しで褒めてくれるとか、期待しちゃいなかったけどさ。
それよりも。困った事には。
あの日出会った美人が、どうしも忘れられず、ふとした拍子に思い出される事だった。まるで、脳裡に焼きついてしまったかのようだ。
スレンダーな体躯に、さらりとしたプラチナブロンド、切れ長の目・・・なにより印象的なのは、その雰囲気で。
彼の纏う気配は、その場の空気の色すら変えているんじゃないかと思ったほど。
出くわした場面が場面だったコトもあるのかもしれないけど、去り際に彼が見せた微笑は、これまでに出会った誰よりも艶やかだった。
やばいな、と、自分でも思う。
これって、一目惚れって、やつなんだろうか。
でも、待て、相手は男だ。
こんな堂々巡りを、何度繰返したか知れない。
―――ともあれ、探して、会ってみよう。
漸く決心をつけたのは、1週間後の事だった。
俺は、仕事帰りや非番の時間をできる限り使って、彼に出会った付近のバーや飲食店など、しらみ潰しに足運んだ。
仕事じゃないから、目立つ聞き込みはできない。地道に探すしかなかったが、狭い界隈だからとタカをくくっていたら、3週間程そうして探してみても、一向に手がかりが掴めなかった。
あれはイケズな上司に追い詰められた精神がみせた、幻覚だったんだろうか・・・ヤケになりかけた頃、偶然は訪れた。
そこは、薄暗い路地にあるバーだった。店に入ると、何故か客の視線を集めてしまった。
看板も目立たなかったし、あまり一見の客が訪れない店なのかも知れない。そう観察しながら、カウンターでアルコール度の軽い発泡酒を注文する。
薄暗い店内に目が慣れて、客を見渡したが、やっぱり彼の姿は見つからない。
無駄足にうんざりしながら、発泡酒で喉を潤していると、1人の男性客が俺に話かけてきた。
「ハイ、いい夜だね」
「・・・こんばんは」
20代半ばくらいだろうか。
人懐っこい笑顔をうかべているが、なんとなく、媚びるような、それでいて値踏みされているような視線を感じて、俺は警戒した。
「やだな、恐がんないで。この店初めて?」
うふふと微笑みながら、距離を詰められる。シナを作る様子が、なんか・・・キモい。
適当に切り上げて、とっとと退散しよう。
「そっすね。看板分かりにくかったし、こんなところに店あるの、知らなかったです。俺、ダチと待ち合わせだったんだけど、店間違えたかなぁ」
「じゃあ、その偶然に、乾杯しないとね」
男はそういって、俺の上腕に手をかける。
なんか、ちょっと、ヤバイ気がする!
本能的に全身総毛立った瞬間、ギイと、背後で店の扉が開く音がした。入ってきた人物は、硬直している俺に近付いてきて、ひとつ肩を叩く。
「お待たせ」
振り返ると、なんと、例の美人だった。
あんまり驚いて、返事もできずにいると、反対側で俺ににじり寄っていた男が、俺の肩越しに彼を認めて声をかける。
「あら、ロイ。この子、あんたのお手付きだったの?」
なんか、今、凄い事を言われた気がするんだが。
ロイと呼ばれたその人は、その質問にうっすら笑って「悪いね」と断り、「行こうか」と俺の背中を促して店を出た。