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Side effect  作者: 垂水蒼重
3/13

Reaction 3

 静まりかえった部屋の中、コツコツと硬い音が響く。クライヴ大尉が、デスクをペンでつついている音だ。

 神経質そうな指先が、一定のリズムを刻み、無機質な執務室の中で、威圧感を醸しだしていた。

 「・・・ヒュー。お前、今日の警邏中、窃盗犯、取り逃がしたってな?」

 漸く開かれた口から発されたその言葉と口調は、聞く者の血を凍らせようとでもしているかのようだ。

 「はい!申し訳ありませんでした!」


 俺は、今日もクライヴ大尉の執務室に呼ばれて、叱責をうけている。

 ここのところ、何かとネタを拾われては、日を置かずに呼び出される事が続いていた。


 「『でした』?過去形にしてんじゃねぇ」

 俺の返事に、クライヴ大尉が、間髪入れずに指摘する。眼鏡の奥から、鋭い眼光で俺をひと睨みする。

 「犯人の容姿は覚えてんだろうな?3日以内に捕まえてこいよ」

 「・・・」

 んな、無茶な。

 「返事は?」

 「はい」

 凄まれて、仕方なく返事をする。

 「―――行ってよし」

 「失礼します!」

 クライヴ大尉の執務室を出て、緊張の糸が切れ、小さくため息をつく。

 これでまた3日後に、呼び出しか。

 そう考えて、いかん、とひとつ頭をふる。後ろ向きな事を考える前に、あの窃盗犯への対処を考えねば。

 ともあれ、今日の仕事はこれで終いだ。俺は、夕闇が迫る暗い廊下を、寄宿舎に向かって、歩きだした。




 「よー、おかえり。今日は早かったなぁ」

 食堂で同期のヤツらに声をかけられる。俺もカウンターで自分の食事のトレイをとって、連中がたむろっているテーブルに腰掛けた。

 「ああ。無茶言われたけどな」

 「なんだって?」

 「今日取り逃がした窃盗犯、3日以内に捕獲してこいってさ」

 そりゃ大変だと、他人事のようにはやし立てられ、ムっとする。

 「お前らだって、その場にいただろ!?」

 と、今日の巡回で一緒だった二人の同僚をにらむ。そうなのだ、今日の失態は、別に俺一人の責任ではなかった。

 「仕方ないだろ、お前ご指名だったんだし」

 「まぁまぁ、俺たちも手伝うからさ」

 「その発言が既に他人事だっつんだよ」

 なんで俺だけ・・・と、ブチブチ文句を言いながら、塩気の多い食事をかきこむ。

 「それはそうとして、ヒュー、呼び出しって、・・・毎回叱られてるだけか?」

 仲間内の一人が、遠慮がちに、しかし興味深そうに聞いてくる。

 「何だよ、代わりたいならいつでも代わってやるぜ?」

 「いや、そうじゃなくて!」

 電光石火で否定して、声を潜めて続ける。

 「うちの従兄が、前にクライヴ大尉の駐在してた砦にいるんだけどさ・・・」

 「うん?」

 「その、大尉、ソッチ系だって噂があるって」

 「ソッチ?」

 「―――男色」

 「え!?」

 俺を含めて、何人かの声がハモって、食堂中の注目を集めてしまった。俺たちは、周りを気にして、顔を寄せあい、ひそひそと話を続けた。

 「マジで!?」

 「あの堅物が!?あり得なくね!?」

 「いや、オレもあくまで噂だって、聞いたんだけどさ・・・」

 ―――と、全員の視線が、吸い寄せられるように、俺に集まる。

 オイ・・・冗談じゃねぇぞ。

 「俺は特に、色目使われた覚えは、ねーけど?」

 妙に緊迫した空気が途切れる。

 「そうかぁ」

 「だよなぁ」

 それぞれ、ちょっとガッカリした様子で納得(?)する。全く、何期待したんだコイツら。

 クライヴ大尉の、まるで型にはめたような、知識階級ぽいオールバックに縁の細い眼鏡の組み合わせの、冷淡な風貌が脳裡に浮かぶ。

 ソッチどころか、色恋沙汰とは真逆の鉄面皮と、容赦のない口調を思いだして、俺はげんなりしてしまった。

 「もう、ヤツの話は止めてくれ。只でさえ美味くない飯が不味くなる・・・」

 俺の本気で嫌そうな声に、わかったわかった、とか、対策考えような、とか、口々に慰められる。

 俺は少しだけ機嫌を取り直して、食事を続けた。




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