第五話 -9
「ナミクーチカのやつ、やる気ないわね……」
テマリアがぼそっとつぶやいた。
その隙を狙って、かなめが突進。テマリアはギリギリで大剣を避けた。
「あぶなっ!こっちはやる気まんまんかよ!」
「……!!」
刃を返し、追撃。
「そんなスピードじゃ当たんないよ!」
かなめの連撃を、岩壁や天井も使って縦横無尽に走り回って避けるテマリア。その表情からは余裕がみえる。
「はぁ……はぁ……」
「もうバテたの?んじゃそろそろ反撃行こうかな」
テマリアがにやりと笑い、走る。
それを見たかなめは、
「はああああっ!」
地面に大剣を突き刺した。
一瞬ではあるが、地震が起きたかのように洞窟全体がゆれる。
「今さら何をしようと、わたしのスピードにんぎゃっ!!」
テマリアの動きを止めたのは、拳ほどの大きさの岩。それが天井から崩れ落ちたのだ。
「……むやみに剣振り回してたわけじゃない」
かなめのその言葉が、目をまわしているテマリアに届いたかどうかは怪しい。
かなめも出口へと走る。
「おらおらぁっ!」
白宗の斧、影猿。
オロチの剣、戒。
ぶつかり合う音が次々と洞窟内に響く。
「パワーは十分。スピードもなかなかだ。やるじゃないか」
オロチが距離をとる。
「ずいふんと余裕だな!木火土金水すべての力を手に入れた今、五行ではてめぇと同等だ!気合い入れねぇと本気出すまえに終わっちまうぜ?」
「同等、ねぇ……」
オロチが左手を白宗に向けてかざす。手のひらに光球が現れ、
「ぐああっ!」
次の瞬間には、白宗の身体は宙に浮いていた。
数メートル飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……なんだっ!?攻撃が見えなかった……!」
白宗が起き上がるまえに、オロチはすでに接近。大剣の切っ先を白宗に突きつけた。
「どうした?本気出すまえに終わっちまったぜ?」
「くっ!油断したか……!」
「油断じゃねぇよ。そもそも、同等だと思うこと自体が間違ってる。たしか、人間共はランク付けしていたな。おまえは……ランク6か。それに当てはめれば、オレはランク7か8だ」
「6以上なんてありえるかよ」
「人間はな」
「……てめぇ、自分が人を超えた存在だとでも思ってんのか?」
「ああ。オレは神だ」
オロチが大剣を振り上げ、下ろす。
避ける隙もなく、白宗は真っ二つに……なるはずだった。
六角形の青いガラスのような盾が、白宗を守った。五行で作られた盾だ。
「これは……」
オロチの目が、出口付近に立っている陽芽を捉える。
「なかなか上等な盾だな。そんな術が使えるようには見えんが……」
陽芽の手を見ると、黒い勾玉があった。
「玄武の勾玉か」
「……っ!嬢ちゃん、逃げろっ!!」
白宗が叫ぶ。が、オロチはすでに陽芽へ向かっていた。
オロチを止めようと、盾を連続で作り出す。が、
「時間稼ぎにもならねぇよ!」
オロチはそれを軽々と切り裂き、あっという間に陽芽の目の前へ。
「嬢ちゃんっ!!」
「……っ!?」
陽芽が悲鳴を上げるまえに、オロチの大剣が降り下ろされる。
とっさに目をつむる陽芽。
痛みはない。ただ……静寂があった――
「……?」
そっと目を開ける。
目の前にはオロチの大剣。それがギリギリで止まっていた。
それを止めたのは――オロチ自身。
「……おまえ……は………」
陽芽の顔を見て、オロチが目を見開いている。
「くっ……」
オロチが距離をとった。
チャンスとばかりに、白宗が陽芽のところへ駆けつける。
「大丈夫か、嬢ちゃん?」
「うん……」
ちょうどそこに、巧とかなめも走ってきた。
「二人とも!地上へ!」
巧の声で、白宗と陽芽も走る。
最後尾を走るかなめが、足を止めて振り向いた。
「巧の救出成功……ボク達の勝ちだ」
そう言って、かなめはまた走り出した。
「このっ……ふざけやがって!」
目をさましたテマリアが追う。
「いや、いい……」
が、オロチがそれを止めた。
「なんでよ!追いつけるよ!?」
「………」
「……オロチ……?」




