第五話 -8
「というわけで、きみはあたしが相手してあげるわ」
ナミクーチカが巧と対峙する。
「……!」
巧に緊張が走る。
オロチ、テマリアの実力は知っている。ということは、ナミクーチカもそれなりの実力はあるだろう。普通に考えて、勝てる相手ではない。
「あら、緊張してるの?」
ナミクーチカが妖艶な笑みを浮かべながら近づいてくる。巧はボクシングのような構えをとりながらも、後ずさりしかできない。
気付いたときには、目の前にナミクーチカが立っていた。
「……っ!」
何の言葉も出ない。握った拳も震えている。
「……ちょっとお話しましょうか」
「……え……?」
ナミクーチカの突然の提案に、巧はきょとんとしてしまった。
「さっきの続きよ。秘密の研究」
ここに向かっているときに話していたことを思い出す。
「詳しくは知らないんだけど、非人道的なことが行われてたらしいわ。ほら、あなたの友達がかけられてた拷問もそのひとつよ」
「……あんなものが、もともとあっただなんて……」
「世界を恐怖に陥れてるオロチは悪、それと戦うのが正義……な~んて、そんな単純じゃないのよ、世界は」
「単純じゃ……ない……?」
ナミクーチカが踵を返す。
「はい、話は終わり。さっさと行きなさい。巻き添えくらわないようにね」
「え?えっと……戦い……は……?」
「あぁ、あたし苦手なの。オロチの仲間だからって、テマリアやハクシラみたいにみんな強いわけじゃないのよ」
「………」
「あ、それと、レイプの話……あれ、未遂だから。あたし達が止めたのよ。感謝しなさいよね。じゃね」
そう言うと、ナミクーチカは姿を消した。
「未遂……」
戦わなくて済んだからか、瑞穂が無事だったからか……ほっとした巧は、とりあえず出口へと走り出した。




