第五話 -6
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「…………?………俺……まだ生きてる……?」
「……生きてるよ……でも、瑞穂ちゃんのことは許さない。あとで殴る」
巧は剣から手をはなし、大内の両腕を掴んだ。
「……何のつもりだ、スサノオ?その男が憎くないのか?」
「……憎いよ。斬ってやろうかと思ったよ。でも……それは違うと思う。生きて罪を償っていくべきだと思う」
「あまいことを……また罪を犯すだけだ」
「全員がそういうわけじゃない……!」
「……どうやら、オレとおまえじゃ意見が合わないようだな」
オロチの右手に五行の大剣が現れた。界斬刀 戒。それを持って、ゆっくりと近づいてくる。
「くっ……大内君、引っ張るよ!」
大内の返事を待たず、巧は力を込める。
大内の身体は、思っていたより軽かった。
直後、ドチャリ……という水っぽい音とともに、地面が赤く染まっていく――
「え……?」
「あ……?」
巧も大内も、動きが止まる。
大内の身体が軽かったのは、痩せほそっていたからだけではない。
腰から下がなくなっていた。
いや、正確には、岩で見えなかった下半身は最初からなかったのだ。
「なんだよ……なんだよこれっ!俺の身体どうなってんだよ!」
パニックになる大内。
巧は状況が把握しきれず、言葉が出ない。
「薬で感覚をにぶくしてるとはいえ、身体が真っ二つになっても痛みを感じないとはな……」
そんななか、オロチは冷静に大内を見ていた。
「僕が……引っ張った……から……」
「ああ、気にするな」
呆然としている巧に、オロチが話しかける。
「この壁は、拷問の一種みたいなもんだ。壁の向こうには特別なケイム・エラーがいて、人間を溶かしちまうらしい。人間の方は点滴で薬を入れられ、感覚がにぶり、溶かされてることに気付かない。やっと開放されたと思ったら、待っているのは死……ってわけだ。つまり、おまえが引っ張らなくてもそいつは死んでいた」
「あ……あ……ああ………」
それを聞いていた大内の顔から血の気が引く。
「助けて……助けてくれよ!お願いだから!何とかしてくれ!お願い……お願いします!」
巧だけじゃなく、オロチやテマリア、ナミクーチカにも懇願する大内。
だが、どうすることもできない。あまりにも出血が多すぎる。
その間にも血はどんどん流れ、
「いや……だ……死にたく……な……い……」
一分も経たないうちに、大内は動かなくなった。
「死んだか」
オロチが大内の顔を蹴りながら死を確認する。
「何でこんな……ひどいものを……」
「勘違いするな。オレ達が作ったわけじゃない。もともとあったものを使ってみただけだ。……だいぶ悪趣味だから二度と使わんけどな」
「作ってなくても、使ったなら同じだ!」
「……スサノオ、この男がクシナダにしたことを忘れたわけじゃねぇよな?」
「忘れてはいないけど……」
「なら、裁かれて当然だろう」
「罪を犯してしまった人にだって人権はある……更正することだって……!」
「他人の人権を踏みにじった者に、自分の人権を主張する権利などない」
「……それなら、何人も殺してるおまえだって踏みにじってるじゃないか!」
「ならば、てめぇがオレを殺してみせろ」
オロチが大剣を構えた。




