第五話 -5
「う、あ……ああああああああっ――!!」
クシナダの慟哭が響きわたる。
「もうやめろっ!」
巧は、無意識のうちにかたく握っていた拳でテマリアの爪を弾き、クシナダのところへ駆け出す。
「何をしているのですかっ!」
が、突然の声に足を止めた。
全員が声のした方を振り向く。
「ハクシラ……!」
クロスアーク本部で戦った、白髪の女性がそこにいた。
「どういうつもりですか?オロチ様はこんなことを望んではいないはずです!」
ハクシラがナミクーチカとテマリアに詰め寄る。
「………」
「………」
黙る二人。
「答えなさい!」
ハクシラの威圧に、二人がしぶしぶ口を開いた。
「……突然現れてでかい顔されて、あんたはムカつかないの、ハクシラ?」
「オロチの計画は、わたし達だけでやれる!」
「…………やきもち、ですか?」
「はっ?」
「なっ!?」
「異世界からの協力者ということで、オロチ様に必要とされてることに嫉妬しているのでしょう?」
「なにそれっ!?」
「そんなわけないだろっ!」
そういう二人の目は泳いでいる。
「……騒がしいな」
そのとき、さらにもう一人現れた。
赤い髪。鋭い琥珀色の眼光。オロチだ。
「オロチ様。今回のことは――」
「ああ、いくらか聞こえた。クシナダを連れて戻れ、シラ」
「はい」
うなだれたままのクシナダをお姫様抱っこし、連れていくハクシラ。
「瑞穂ちゃんっ!待って!」
止めようとする巧。その前にオロチが立ちはだかる。
「また会ったな」
「オロチ……」
「クシナダは記憶を失っていてな。本当の名前は瑞穂というのか」
「……おまえ達が瑞穂ちゃんを洗脳してるんじゃないのか……?」
「してねぇよ。あいつと会ったときには、すでに頭を強く打ったあとだった。まぁおそらくそこの男がやったんだろうが」
オロチが大内を指差した。
先程のナミクーチカの話を思い出す。
「……大内君……きみは……っ!」
「あぁ?なんだよ……」
拳を握る巧。一発くらいは殴らなきゃ気がすまない。
「ほら、これ使えよ」
不意に、オロチから何かを手渡された。
ずしりと重さを感じる。
剣だ。
「自分の大切な人を傷つけられたんだろ?なら、そいつは裁かれるべきだろう」
巧がふらふらと大内に近付く。
「おい、空島……冗談だろ……?」
「悩むなスサノオ。こいつをこのままにしといたら、またクシナダは傷つけられるかもしれない。いや、クシナダだけじゃなく、他の人々も傷つくことになるかもしれない。その人々を、クシナダ……いや、瑞穂を助けられるのはおまえだけだ、スサノオ」
剣を両手で持ち、振り上げて……
「ちょっ、待てよ!何もしてねぇ!俺じゃねえよ!」
「さあ、裁きを」
「ぅああああああっ!!」
「ひいいいいいっ!!」
ガギンッ――と
巧は剣を地面へと降り下ろした。




