第五話 -4
研究所のような白い廊下を、黙ってナミクーチカについていく。
オロチのアジトと言うくらいだから、ケイム・エラーがうろうろしてたりショッ○ーみたいな雑魚隊員がいっぱいいるのを想像していた巧。
だが、実際は誰もいないかのように静かで、ナミクーチカと巧の足音だけが廊下に響いていた。
やがて、地下へと降りていく。
今までの人工的な建物は終わり、洞窟のようなところを進んでいく二人。電気は通っているようで、至るところあるライトや蛍光灯が周囲を照らしている。
「……わざわざ掘ったんですか?」
沈黙に耐えきれず、巧が聞いてみた。
「まさか。あたし達、世間が思ってるほど大部隊じゃないのよ。むしろ少人数。もともとあった研究所を拝借してるだけ」
「……もともとあったって……研究所がこんな洞窟みたいなのを……」
「作るはずがない?」
「研究なら研究室でやればいいし……」
「研究室で出来ない、秘密の研究があったのよ」
「秘密の?」
「はい、到着~」
ナミクーチカが話を遮り、足を止める。
そこには、地下にしては広すぎるくらいの空間があった。天井の高さも5メートルはある。
「遅かったわね」
響く声。聞き覚えがある。
「たしか……テマリア……」
「あ、覚えてくれてたんだ?うれしいな」
そこには、巧に無邪気な笑顔を向けるテマリアがいた。
テマリアの横には、周囲のごつごつした岩に埋め込まれたような、人工的な壁。
その壁から、人の上半身が生えていた。
生命維持のためなのか点滴をされ、ぐったりしているが、それでもはっきりと、
「空島……」
岩から生えた人は、巧の名を呼んだ。
「えっ!?」
巧とその人の目が合う。
「……大内……くん?」
痩せ細り、髪はみだれ、泥と血で汚れていてすぐには気付かなかったが、それは瑞穂と一緒に行方不明になった大内だった。
「何でこんなところに……!」
巧が大内に駆け寄る。
「知らねぇよ……おい、引っ張れ……」
巧に手を伸ばす大内。
「……これ、引っ張って大丈夫なの?」
「この壁の向こうは空間になってる……。埋め込まれてるんじゃなくて、壁に挟まれてる感じだ……。強引に引っ張れば抜けんだろ……」
巧が大内の手を掴もうと、腕を伸ばす。
それを邪魔したのはテマリアだった。
「ちょっと待ってくれる?」
「……!」
テマリアの強さは知っている。勝てる相手ではない。
そのとき――
「突然呼ばれたと思ったら……何をやっているのですか?」
もう一人の人物が現れた。
裾の短い和服に、黒髪。
「瑞穂……ちゃん……」
「私の名はクシナダだと言ったはずです。それより、なぜあなたがここに?」
「あたしが連れてきたのよ」
ナミクーチカが答える。
「いったい何を考えて――」
「クシナダ!この男、知ってる?」
言葉を遮ったのはテマリア。大内の髪を掴み、顔が見えやすいようにぐっと持ち上げる。
「オロチ様より、ここには立ち入らないように言われてます。知っているはずが…………」
突然、クシナダが眉をひそめながらこめかみをおさえた。
「ちょっとまえの昔話をしましょうか」
ナミクーチカがクシナダに話しかける。
「あたし達は世界を変えるため、オロチを中心として活動してきた。その一環として、異世界から協力者を呼ぶことにしたの」
「………」
クシナダは無言。だが、ナミクーチカは話を進める。
「その異世界とこっちの世界を繋いだとき、その協力者はトラブルに巻き込まれててね――」
「……やめ……て……」
「オロチは仕方なく強引にこちら側に連れてきたの――」
「おねがい……もう、やめて……」
頭痛がひどいのか、頭をおさえながら顔が苦痛にゆがむクシナダ。
「それがその壁の男と……あなたよ、クシナダ」
「ぐっ……うぅ……」
クシナダがその場で崩れ落ちる。
「瑞穂ちゃんっ!」
駆け寄ろうとする巧。だが、黙って見ていろということなのか、テマリアが巧の首筋に鋭い爪を当てる。
「どう、クシナダ?ちょっとは記憶取り戻せた?あ、もうちょっと教えてあげるわ」
「うるさい……もう……黙ってください……」
だが、ナミクーチカは止まらない。
「そのときのトラブルってのがね、あの男があんたに――」
「黙って!うるさいって言ってるでしょ!」
クシナダが血相を変えて叫ぶ。
「なに?思い出した?それとも聞きたくない?あ、スサノオくんに聞かれるのが恥ずかしいの?」
ナミクーチカがにやりと笑い、
「もうやめてっ!」
懇願するクシナダを無視し、とどめを刺すかのように言葉を発した。
「レイプされた……って――」




