番外編 青龍 -9
第ゼロ部隊に入ってから数ヶ月が過ぎたある日――
おれはクロスアークの書庫で、りんねの件について調べていた。この書庫は第ゼロ部隊以上の階級が入れる場所だ。極秘書類も多い。
「………くそっ、ない……」
しかし、りんねの記録は何もなかった。りんねが連行された日、本部が賊に襲撃されたくらいで、その後は大した事件は起きていない。
が、おれは何かあったことを確信した。連行の記録すら残っていないということは、そこまでして隠す何かがあるに違いない。
「ここじゃダメか……」
あとは第ゼロ部隊でも入れない扉の向こう。クロスアークの最上部。そっちなら何か手がかりがあるかも……
その日から、本部内の全通路、全部屋の造り、警備員の歩くルートや時間を調べ始めた。
いつか、最上部へ忍び込むために――
りんねが連れ去られてから二年が経っていた――
おれはラインファイトの闘技場へと向かった。選手としてではない。任務だ。
「これは……っ!」
到着したおれ達第ゼロ部隊を待っていたのは、凄惨な現場だった。
フィールドは焼け焦げてめちゃくちゃ。観客席も至るところで火災が起きていて、怪我人も多そうだ。まだ全員の避難は終わっていない。
フィールド内には……七人。
五人は知らない顔。その中の一人が壁にめり込んでおり、生死不明。あと二人は…
「KISAと……K-ASH……!」
たしか、KISAとレジェンドの試合だったはず。レジェンドはどいつだ?なんでK-ASHまでフィールドにいるんだ?つーか、グループ戦とか以外普通フィールドには二人だけのはず……いろんな考えが頭をめぐる。
が、KISAを見たとたん、二年前の記憶が鮮明に思い浮かんだ。
黒い気を放ち、正気を失って暴れたりんね――
「同じだ……」
そのとき、隊長から通信が入った。
「ぼやっとするな。行くぞ」
「は、はいっ」
次の瞬間、様々な方向から鎖が放たれる。
この鎖は、第ゼロ部隊が使う拘束用のものだ。鎖に自分の気を流すことで自在に操り、ターゲットを縛り上げる。
おれもみんなに続いて鎖を放つ。
すでにKISAはぐるぐる巻きだ。
ふと、りんねのときのことが頭をよぎる。
が、おそらくこれ以上のチャンスは訪れないだろう。KISAを捕まえることで、りんねがどうなったかわかるかもしれない。
……ごめん……りんねの消息をつかむために……!!
おれは、鎖を持つ手に力をいれた。
翌日、おれは本部の一階でぼんやりとしていた。
「いってぇ……」
昨日K-ASHに抵抗されたときに蹴られた脇腹が痛む。鎧を着てなかったら確実に病院行きだっただろう。
それだけ、K-ASHにとってKISAは大事な人だったんだ……
KISAは思った通りあの立入禁止の上層階に運ばれた。教皇は出かけていて夕方戻るみたいだから、動きがあるとしたら夜だろう。
入口の方に、見覚えのある顔を見つけた。
「あいつらは……」
たしか……昨日フィールド内にいた……K-ASHと一緒に暴れた女二人と、おろおろしてた男だ。
男と小さい方の女は、目を輝かせながらきょろきょろしている。正直、挙動不審だ。
「ははは」
うっかり声を出して笑ってしまった。しかも、本人達にも聞こえたのだろう。おれを見ている。
「笑っちゃってごめん。田舎から出てきた人がでっかいビルを見たみたいな反応が面白くて」
おれは三人組に近付き、謝った。
まぁそれほど怒ってはいないみたいだ。
ふと、男がおれの顔を見てることに気付いた。
「あれ?きみ……ラインファイトに出場してた……」
見られてたのかっ!
表向きはラインファイトには行ってないってことになってるから、誰かに聞かれるとまずい。
「さ~い~み~や~……!!」
……手遅れだったようだ……
背後から聞き覚えのある声が聞こえ、弁明しようと振り向いたとたん、頭に強い衝撃を受け、視界が一瞬暗転した。
「いっ……!ちょっ、おま……手加減を……」
「ラインファイトには出るなと言われてるでしょうがっ!もしも機密が漏れたらどうすんの、最宮静春!あんた、ちょっとは第ゼロ部隊としての自覚持ちなさいよ!」
………アホだ。
特に『第ゼロ部隊』というのはかなりまずい情報漏洩だろう。あの白い鎧――顔すら鎧で覆うのも、みんな同じデザインなのも、個人を特定できないようにするためなんだ。
「……しまった!」
ティネが口をおさえるが、もう遅い。
隠す必要のなくなったおれは、胸がでかい方の女といくつか質問を交わし、三人組は本部内へと入っていった。
「あいつら、レーヌ・ド・ルージュと関係があるな」
「え?わかるの?」
「いや、勘」
「勘って……」
本当は勘だけじゃない。あのとき、あの三人はフィールド内にいた。関係ない方がおかしいだろう。
「きっと何かやらかすはず」
「それも勘?」
「おう」
こっちは完全に勘だ。でも、きっと当たってる。だって……今のおれはあいつらと同じ目をしてるだろうから。
「呆れた……ちょっ、どこ行くのよ!?」
ティネの声を背中で聞きながら、おれは計画を実行に移すための準備に向かった。
そしてこの晩――おれは、多くのことを知ることになる。
オロチと取り引きしていた教皇――
教皇代理として潜り込んでいたオロチ――
りんねの消息はけっきょくつかめず……
そして、ティネが…………敵だった……




