番外編 青龍 -7
数週間が過ぎた。
おれはまだクロスアーク隊員を辞めないでいた。もしりんねが死んでいたとしても、せめてどんな最期だったのかくらいは知りたかった。
「なら、第ゼロ部隊に入ったら?」
ある日の昼食。
ティネからクロスアークに入った経緯について聞かれ、簡単にではあるが説明したら、ティネが突然そんなことを言い出した。
「第ゼロ部隊?」
「そ。クロスアークの精鋭部隊。白い鎧の」
白い鎧……!!
おれは食い入るようにティネの話を聞く。
「本部の一階は一般人もOK。二階からは隊員のみでしょ?もっと上の階になると隊長クラスにならないとダメだったり、第ゼロ部隊しか入れないフロアもあるって話だよ」
「もしかしたら、そこに何か情報が……」
りんねを連れていったのは第ゼロ部隊か……ならおれもそこに入れば……
「ティネ、第ゼロ部隊に入るにはどうしたらいい?」
「ひたすら手柄をあげれば、そのうちスカウトがくるんじゃない?」
気が遠くなるような話だ……
ラインファイトで鍛えてきたから、戦いだったら負ける気はしない。
しかし、手柄となると別だ。素早く駆けつけ、解決しなきゃならない。他の隊員との競争だ。その隊員は柳市だけでも百人ほどはいるし、各地に散らばっている。
「入れる気がしねぇ……」
平隊員として地道にやっていくしかないか……
「……仕方ない。あたしがなんとかするよ」
「え……?」
「お姉さんに任せなさいっ!」
ティネが立ち上がり、胸を張る。
「…………」
何故か自信満々で、基本的に強気で、いつも明るくて………ティネのそんなところが、りんねに似ていた。
だからおれは、入隊の経緯を話せたのかもしれない……
「で、どうする気だよ?」
「秘密よ!」
チャイムが鳴る。昼休みが終わった。
次の日――
おれはクロスアークの上層階の応接間に呼ばれた。
何だ?おれ何かしたっけ?
「失礼します!」
緊張しながら扉を開ける。
そこにはいかにも偉そうなオヤジと、あの髪の長いイケメンがいた。
あのイケメン、けっこう偉い人なのか……そういや、隊長とか呼ばれてた気がする……
「あの……おれに何か用ですか……?」
おそるおそる聞いてみる。
「うむ」
オヤジが口を開いた。
「第ゼロ部隊への入隊、おめでとう!」
「へ?」
急すぎて意味がわからない。
「まさか、こんな若者が第ゼロ部隊に入るとは。将来有望だな!」
オヤジがガッハッハと笑う。
「私は第ゼロ部隊隊長、岳浦 神威だ。まさかきみが私の部隊に配属になるとはな。よろしく頼む」
イケメン――岳浦さんと握手する。
……なんだこの展開?
その後簡単な説明があり、おれは状況を把握できないまま第ゼロ部隊へと配属になった。
おれは受付に走った。
……いた。
「おい、ティネ!!」
「ん?ああ、最宮。第ゼロ部隊に配属だってね。おめでとう!」
「おめでとうじゃねぇよ!まさか、おまえが何かしたのか……?」
ティネが、無言で親指を立てる。
こいつ、いったい何をしたんだ……?
「最宮!」
不意に声をかけられた。隊長――岳浦さんだ。
「はいっ!」
「この受付できみに会ったのは、一ヶ月ほど前か」
「あ、そうですね」
……何の話だ?
「たった一ヶ月で第ゼロ部隊隊員か……いったい何をした?」
「え?」
隊長の目が鋭くなる。
「そんな簡単に入れる部隊ではない。記録ではきみはここ一ヶ月に起きた事件のほとんどで活躍し、私の知らないうちに試験が行われ、合格している。おかしいと思うのが自然だろう」
「………」
返す言葉もない。
だっておれは、ここ一ヶ月で起きた事件すべてに関与せず、おれの知らないうちに試験を受けたことになっているのだ。
「……だが、データ改ざんの痕跡はない。証拠がない以上はどうしようもないんだが……」
「………」
「もし不正がないというなら、任務を遂行することで証明してみせろ。出来なければ……」
「……出来なければ……?」
「命を落とすこともあるかもしれんな。第ゼロ部隊の任務は、今までのものよりかなり危険だと覚えておけ」
「はいっ!」
敬礼するおれを横目に、隊長が去っていく。
「……ふぅ……」
緊張がとけた。
「怖い隊長さんだね」
「おまえが裏工作しなかったら怖くない隊長さんだったんだよ」
「あたしが裏工作しなかったら、第ゼロ部隊には入れなかったでしょ?」
……たしかに。
チャンスではある。今までじゃ掴めなかった情報だって手に入る。
「……あ、ありがとな……」
面と向かって言うのは何か照れくさいから、まったく別の方向を向いて言った。
ティネがとった行動はまずいことだけど、おれに協力するためにやってくれたんだ。礼くらいは言っておかないと。
「あ……うん、別にいいよ……」
思ってたより、しおらしい返事が返ってくる。見ると、ティネは顔をちょっと赤くしてうつむいていた。
「ところで、大丈夫なんだろうな?こんな無茶して、おまえがクビとか嫌だぞ?」
「大丈夫よ。さっきの隊長さんが言ってたでしょ?証拠がないって」
そういや言ってた。
もしバレたときは、おれが一人で罰を受けよう。これ以上ティネに負担かけたくない。
「心配してくれて……ありがと……」
ティネはまた顔を赤くしていた。




