第一話 -7
瑞穂の家へ到着した巧。
チャイムを鳴らす。
顔を出したのは、見慣れない男だった。
小耳にはさむ程度に聞いたことはあった。
瑞穂の母親が、再婚予定の相手を家に住まわせていると。
だいぶお酒くさい。が、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「あの……瑞穂ちゃんは……?」
「あぁ、友達かい?塾に行ってまだ帰ってきてないよ。……あれ?いつもなら帰ってる時間なんだがなぁ……」
「えっ」
瑞穂ちゃんが電話してきたのは家からじゃない――!
「わかりました、ありがとうございます!」
巧は踵を返すと、比較的人の多い駅前へと走り出した。
瑞穂が通っている塾を中心に、街中をやみくもに走る。
「はぁ……はぁ……くっ、電話もらってからもうだいぶ時間経ってる……」
瑞穂に電話してもまったく繋がらず、手がかりは何もない。
「僕ひとりじゃ無理だ……そうだ、警察にーー」
そのとき、見慣れた制服の男達を見つけた。
「あれはうちの学校の生徒……小林君と斎藤君………っ!?」
ふと、瑞穂の最後の言葉が頭に浮かぶ。
あの三人組が……――
「三人組ってもしかして……
そういえば電話が切れる直前に聞こえた声、大内君のに似ていたかも……」
巧は二人のもとへと走った。
「……ねぇ」
「うおあっ!」
「な、なんだ空島かよ!」
巧に呼び止められた小林、斎藤の二人は異様に驚き、心なしか少し挙動不審にも見えた。
「あの……瑞穂ちゃん知らない……?」
「あぁ?雲雀野のことなんて知らねぇよ」
そう言いながら二人は足早に立ち去ろうとする。
が、巧は逃がさないと言わんばかりに立ちはだかった。
「あぁ?なんだてめぇ」
「空島のくせに歯向かうのか?」
斎藤に睨まれ、小林に胸ぐらを掴まれる。
怖い。手が震える。が……
「っ!」
この2人は何かを知ってる……
逃げるわけにはいかない!
「瑞穂ちゃんをどうしたの?」
小林を睨み返す。
「うるせぇんだよ!」
次の瞬間、強い衝撃と共に左頬に痛みが走った。
「ぐっ……」
口の中に血の味が広がる。
続いて腹部を鈍い痛みが襲う。
腹をおさえて地面にうずくまる巧。
その後も罵声と共に何度も衝撃が全身を襲った。
「はっ、ふざけやがって」
うずくまったままの巧を見て、小林と斎藤は立ち去ろうと歩き始める。
が、
「ま……待…て……」
巧のか細い声が、2人の足を止めさせた。
ぼろぼろの身体を起こし、痛みに耐えながら立ち上がり、2人を行かせまいと手を必死に伸ばす。
「うぜぇな、てめぇ……殺すぞ!」
そう言いながら振り返る小林。
「ひっ……あっ……あぁぁぁ……」
が、巧の姿を見た瞬間に小林は怯え、腰が抜けたようにしりもちをついた。
「……?」
状況が読み込めない巧だったが、チャンスとばかりに小林に走りより、小林の腕を掴む。
「ひぃああああぁぁぁっ!助けてっ!助けてっ!俺は何もしてない!何もしてないんだ!」
「……っ!」
小林の必死な叫びに、つい腕を放してしまう。
小林は地面にうずくまるようにして頭を抱え、先程から謝り続けている。
「えっと……?」
戸惑う巧。
「……空島、ちょっと手貸してくれ。ここじゃ他のやつらに邪魔になる」
そう言う斎藤は、小林を無理やり立ち上がらせている。
たしかにこのままでは、小林は通行人の邪魔になってしまう。
「……わかった」
小林の行動の意味がわからなかったが、巧はとりあえず小林を移動させることにした。