番外編 朱雀 -2
「はああぁぁぁ…」
大きくため息をつく。
さっきの男達のようなやつらは許せない。
とはいえ、やりすぎたとは思う。死んではいないと思うけど……
怒りや憎しみに支配され自分をコントロール出来なくなることがあるのは、自分でも気付いていた。
こうなったのは、妹が亡くなった後からだ。精神的なものかと思ったが、生活には支障なかったので気にしないでいた。
ただ、その度合いがだんだんひどくなっていってる気がする。そのうち私は、人を殺めてしまうのではないだろうか……
帰り道の途中、足音が聞こえた。
音の大きさ、テンポ、周辺のざわめきから、追っているのは大勢の男……逃げているのは……勘だが、おそらく女性だろう。この街の夜は本当に最低だ。
そのとき、目の前に人影が飛んできた。
ポニーテールの女の子だ。
「おっと……」
突然のことで、ちょっとびっくりしてしまった。
「わ、人がいたなんて……驚かせてすみません!」
女の子は、そう言いながら頭を下げる。
「いえ、大丈夫…………っ!?」
頭を上げた女の子を見て、私の心臓は跳ね上がった。
「みちる……!」
妹に……みちるにそっくりだったのだ。
「え……?」
「あ、いえ、なんでもないわ」
うっかり妹の名前を呼んでしまった。
みちるじゃないことはわかっている。この子は明らかにみちるより年下だ。
「う~ん……しまったなぁ」
何か悩みでもあるのだろうか?
「どうしたの?」
「いや、まさか人と出会うとは思わなかったから……」
女の子と話しているうちに、大勢の男達が私達を取り囲み始める。
「最初に声かけられたときにやっつけておけばよかったと思って……」
「あなた、この人数相手に逃げ回ってたの?」
「はい」
当然のように答える女の子。
これは、なかなか……
「すみません、あたし頑張って守りますから」
そう言いながら、身体が強ばっている。
戦闘経験はほとんどなさそうね。
「大丈夫よ。全部お姉さんに任せておきなさい」
「え?」
きょとんとしている女の子を背に、私は両拳に炎を灯した。
「えっと、観和朱伽です」
ポニーテールの女の子が自己紹介をした。
「よろしくお願い致します」
「よろしく~!いや~、きみ可愛いね~」
対称的な三森と阿坂の反応。
ここは私のマンション。
あのあと男達全員をぶっ飛ばし、女の子――朱伽をご招待したのだ。
「くれぐれも、手を出さないようにね」
「だってよ、三森」
「阿坂、あんたに言ってんのよ!」
そんなやりとりを見て、朱伽が苦笑している。
「ところで朱伽、何でこの街に?」
「高校入学です」
あー、そういえばこんな治安の悪い街にも学校あったなぁ。
「あたし、富士取区の外れの小さな村に住んでるんですけど、入学前に下見というかなんというか。そしたら終電なくなっちゃって……」
なるほど。よくある話だ。
この辺は栄えてるわりに終電は早い。
……そうだ。
「ねぇ、だったらここに住んで学校通ったら?」
「え?いや、でも……」
「通学も楽になるし、部屋も空いてるし」
「そんな、迷惑になっちゃいますから」
そんなことはない。
「シェアハウスみたいな感じよ」
「シェアハウス……」
「そ。家賃とか光熱費とかは私が払うわ。家事は三森に任せればいいし、阿坂は……何の役にも立たないけど……」
おいおい……と阿坂からツッコミが入るが、無視して話を進めることにする。
「で、朱伽は朱伽でやってもらいたいことがあるんだよね」
「……なんでしょう?」
「ま、詳しくは明日で。今日はゆっくり休んで」
ここで話すより、実際見た方が早い。夜も更けてきたので、とりあえず寝ることにした。
自室で着替え、ベッドに横になる。
「………」
眠れそうにない。
実は、朱伽を追っていたやつらの中に、事件に関わったというあの写メの男を見つけたのだ。
そして……やっと欲しかった情報を手に入れた。
妹を殺したやつら……黒幕は……
「……ぐ…………」
憎しみが私を包んでいく。
すべてを壊してしまいたい衝動を、私は必死に抑えた。




