番外編 朱雀 -1
妹が来る。
妹といっても、血の繋がりはない。
同じ孤児院で育った子供達の一人だ。
小さい頃から、大きくなったら孤児院を出て、いっぱい働いて、孤児院のみんなに恩返しをするんだと、よく言っていたっけ。
本当に素直で良い子に育った。
私と一緒に住む……はずだった。
妹が来る……はずだったんだ。
大雨の中を走る。
富士取区では、夜遅くは基本的に出歩かない方がいい。治安が悪いから。
でも、そんなこと考えてる余裕はなかった。
……いや、治安が悪いからこそ、私は外に飛び出した。
みちる――!みちる――!!
妹の名を叫ぶ。
どれくらい走っただろう。
街のはずれで、私は見つけた。
衣服は裸同然にぼろぼろで、
泥と血と白濁した何かにまみれ、
絶命している妹を――
「……っ!!」
ベッドから飛び起きる。
……またあの時の夢………
目覚まし時計が鳴る。
うるさいのですぐとめた。現在午後八時。
「咲さん、起きられましたか?」
扉の外から声が聞こえる。
「あー、大丈夫よー」
返事をしながらいつもの赤い戦闘着の上からコートを羽織り、部屋を出る。
リビングには男が二人。
「咲さん、今夜もきれいだね」
そう言ってきた男の名は、阿坂。見た目も性格もチャラいが、仲間思いのいいやつだ。
「また行くのですか?」
こっちは三森。礼儀正しくて、家事でも何でもこなす。
「当たり前でしょ。警察になんか任せてらんないわ」
「……お気をつけください」
二人とも孤児院の仲間だ。
あの天変地異のあとだったかな。こいつらが孤児院に来たのは。
記憶喪失だわおかしな名前名乗るわで、私が名前をつけてやったんだ。……名字だけだけど。
「いってきま~す」
二人に声をかけ、白い息を吐きながら夜の街へと繰り出す。
あの日――
妹が亡くなった日から、私は時間があるときはこうして出歩くようになった。
目的は……
「よう、そこのお姉さん!」
「俺達に一杯付き合ってくれよ」
こういうやつらだ。
「申し訳ないけど、お断りするわ」
「そう言うなよ~」
「すぐそこだからさ。ね?ね?」
私を強引に路地裏へと連れ込む男達。
もちろん店なんかないし、この時間でも営業してるのはラインファイト闘技場周辺くらいだ。
「おら、騒ぐんじゃねぇぞ!」
「おとなしくしてたら手荒なことはしねぇからよ」
舌なめずりしながら、私の胸や脚に手を伸ばす。
「………」
待ってましたとばかりに、私はあっという間に男達を殴り倒した。
「さてと……」
倒れている男の一人を、髪を掴んで顔を上げさせる。
「数年前に起きた事件、知ってるかしら?一人の少女が強姦されて殺された事件」
「ああ?知るかよ!」
ゴキンッ――と、男の腕がおかしな方向に曲がる。
「ぎゃああああっ!!ほんとだ!俺は関わってねぇ!!」
「じゃあ、誰が関わっているのかしら?」
「………」
次は男の脚に狙いをさだめ、拳を振りかざす。
「待てっ!待ってくれよ!」
男は一人の男の名前を言うと、携帯でそいつの写メを見せてきた。
「そいつが関わったらしいってくらいしか知らねぇよ!もう許してくれ!」
「………」
今まで妹をひどい目にあわせたやつを探してきたが、今日やっと一歩進展した気がする。
男の髪を放す。
「ありがと」
私の心を、闇が支配していくのがわかる。
立ち上がって逃げようとする男を何発か殴り飛ばし、気絶しているもう一人の男の顎を踏み砕いた。




