第一話 -6
夕食後、巧は自室の机に向かって勉強をしていた。のだが……
「………あーー、集中できない」
瑞穂のことが気がかりで、まったくはかどっていなかった。
「……あ、そうだ」
勉強のこと聞くふりしてメールしてみよう。
そんなことを考えながら、スマートフォンに手を伸ばす。
~~♪~~♪
と、同時に着信があった。
「……あ」
画面には『雲雀野瑞穂』の文字。
どちらかといえば電話よりメール派だが、この機会を逃す手はない。
巧は一度深呼吸をし、通話ボタンを押した。
「はい、もしも――」
『助けてっ!』
悲鳴混じりの瑞穂の声に、ドクンッと巧の心臓がはね上がる。
「えっ、瑞穂ちゃんっ!?」
『あの三人組が…きゃあああっ!!』
電話の奥で、ガラスの割れる音や複数の足音、男の声が聞こえ、
「どうしたの!?もしもし!もしもし!!」
スマホを耳から離してしまうほどの大きな雑音の後、通話が切れた。
「……行かなきゃ」
巧はスマホを握りしめたまま、部屋を出る。
と、運悪く母親と遭遇してしまった。
「あら、どうしたの?トイレ?」
「いやっ、何か瑞穂ちゃんが!ちょっと様子見てくる!」
母親の顔が途端に険しくなった。
今にも走り出しそうな巧の腕をがしっと掴む。
「こんな時間に何言ってんの!」
「今電話があったんだ!助けてって!」
「馬鹿なこと言ってないで部屋に戻りなさい!ただでさえ日中瑞穂ちゃんが来て勉強進んでないんだから!」
「そんなことやってる場合じゃ……!」
「今高校2年生なのよ!?大学受験まであっという間よ!?」
「でも――」
「でもじゃありません!こんなことしてるうちにどんどん勉強遅れていくのよ!?」
巧が反論しようにも、母はマシンガンのように次々と言葉を並べる。
「………」
刻一刻と過ぎていく時間。
行動を制限され、話も聞いてもらえず、温和な巧にもイライラがつのる。
そして、
「瑞穂ちゃんと勉強、どっちが大切なの!」
不満が爆発した。
「瑞穂ちゃんに決まってるだろっ!!」
強引に母親の手を振りほどく。
「巧……っ!」
「こんなときに勉強なんてしてらんないよっ!」
めったに聞かない我が子の大声に、母親は驚いた顔で固まる。
その隙に、巧は外へと飛び出した。
「瑞穂ちゃん……無事でいて……」