第四話 -5
「ここが最上階だよ」
教皇代理が扉の鍵を開け、巧達を招き入れる。
中は薄暗い。
「儀式中は来るなと言っておいたはずだが?」
奥から声が聞こえた。
「すみません教皇」
教皇代理が返事をする。
「誰だ、そやつらは?」
教皇が振り向いて言う。白髪混じりの髭を生やした、六十代くらいの男だ。
「私の客です。見学をと思いまして」
「勝手なことをするな」
「すみません。では、儀式は中止しますか?」
「そういうわけにもいかない。もうすぐおいでになられる」
教皇は巧達に背を向け、何かをぶつぶつと唱え始めた。
「……ん?」
静春が何かに気付いた。
「教皇の前にある台の上……誰か寝てないか?」
巧と朱伽も目を凝らす。
ショートカットの髪――
寝ていてもわかるふくよかな胸――
赤い服――
「咲さんっ!!」
朱伽が飛び出した。
そのとき、黒い霧が咲の近くに突如発生した。
「な、なに…?」
朱伽が警戒し、足を止める。
「あれは……」
ふと、巧の頭に数日前のことがよぎった。
クシナダと名乗った少女――
護符から発生した黒い霧――
「誰か……来る!」
巧の声に合わせたかのように、霧の中から一人の女性が現れた。
髪は白く、長い。スタイルが良く、黒のスリットパンツが大人っぽい。胸の大きさは、咲やなずな以上だろう。
垂れ目で、一見大人しそうに見えるのだが……
「お待ちしておりました、オロチ様」
教皇の一言で、巧達に緊張が走った。
「あいつが……オロチ……?」
「なんで……こんなところに……」
オロチが寝ている咲に手を伸ばす。
「咲さんにさわるなっ!」
朱伽が叫んだ。
「……今日は人が多いですね」
オロチが周りを見渡す。
「申し訳ございません。今後、こういうことがないよう気を付けますので」
謝罪する教皇に、静春が詰め寄った。
「第ゼロ部隊の最宮です。教皇、どういうことですか?なぜオロチが……」
「……知らんでもよい」
「そういうわけにもいきません!もともとクロスアークは対オロチの為に作られたと聞いています!それが、裏でオロチと繋がってるだなんて……!」
静春が食い下がる。
「今まで我らが捕らえた者達はどうしたのですか!?」
「処分しました」
「っ!」
そう冷たく答えたのは、オロチ。
「そんな……」
ショックを受け、静春が崩れ落ちる。
「咲さんは、あたしが守るっ!」
朱伽の蹴りがオロチに襲いかかる。
オロチは朱伽の足を片手で簡単に受け止め、そのまま朱伽を床に叩きつけた。
「がっ……!」
「あなたに用はありません。邪魔をするなら処分します」
オロチが護符を投げた。
光が線を描き、その線が武器を形作る。
気付くと、オロチの手には片刃のごつい大剣が握られていた。
「さようなら」
容赦なく、朱伽に降り下ろす。
「くっ!」
ぎりぎりで避け、オロチから離れる朱伽。
「静春!ぼーっとしてないで手伝ってよ!」
「………」
静春からの返事はない。
「ちょっと!静春!?」
「おれは……何のために……」
「何ぶつくさ言ってんのよ!オロチがこっち来てるってば!……もうっ!!」
朱伽が静春を抱きかかえ、巧のところへ戻る。
「巧くん、戦える?」
「えっ!?」
「あはは、無理か」
苦笑し、朱伽はオロチへと跳んだ。
「最宮君っ!最宮君っ!!」
「あいつは……もう……」
巧が呆けたままの静春の肩を揺さぶる。
「このままじゃ朱伽さんがっ!」
「……朱伽……?」
壁や床が破壊される音が響き渡る。
明らかに朱伽が劣勢だ。何度目だろうか。朱伽がまた壁に叩きつけられた。
「ぐっ……あ……」
「これで終わりです」
オロチは大剣を構え、
「朱伽さんっ!」
「………朱伽……!」
降り下ろした。




