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第四話 -1

次の日の朝――


「世話になった」


玄関でなずなが頭を下げ、巧とかなめもそれに続く。


「いえ、大したことはしてませんよ」


「悪ぃな、見送りが野郎二人だけで」


朱伽の姿は、そこにはなかった。


「構わぬ。ゆっくり休ませてやってくれ」


「すみませんが、咲さんをよろしくお願いします」


「うむ」


外に出て、三人は歩き始める。

行き先は清立区(せいりつく)のクロスアーク本部だ。




清立区――

海に面しているため漁業が盛んで、富士取区(ふじとりく)とはまた違った活気のある地区である。


「今では中心部の季里区(きりく)より、その周辺の方が発展しておるのじゃ」


なずなの簡単なガイドを聞きながら、巧とかなめが街中を歩く。


「どこに向かってるの?」


「クロスアーク本部じゃ。一階フロアは一般の者も入れるようになっていたはず。そこだけでも確認しておけば、忍び込むのに多少有利じゃろ」


周辺のものより一際でかい建物が見えてきた。


「あれが本部じゃ」


それは、まるで教会のような建物だった。しかし、教会にしては巨大すぎる。


「大きい……」


そう言うかなめの目は輝いている。


「すごいね~。教会みたい」


巧もさっきからきょろきょろと見学中だ。


「クロスアークは教会に属しておるからな。……ほれ、二人とも行くぞ」


興味津々な二人は、なずなのあとを追った。



「「お~~」」


本部内を見て、感動の声をあげる巧とかなめ。

ステンドグラスが日の光を浴び、壁を、床を、鮮やかに彩っている。


「二人とも落ち着けぃ!何かこっちが恥ずかしくなってくるわ!」


ちょっと頬を赤らめるなずな。


「ははは」


そんな三人を見て笑う少年がいた。

身長はさほど高くない。かなめと同じくらいか。髪は金色に染めていて、ハーフパンツをはいている。


その少年が近づいてきた。


「笑っちゃってごめん。田舎から出てきた人がでっかいビルを見たみたいな反応が面白くて」


まさにその通りだった。

かなめはずっと病院暮らしだったし、巧も教会は初めてだ。


「たしかに珍しい建物だからね。けっこう同じような反応する人多いから、そんなに気にすることないよ」


「おぬしはここによく来るのか?」


「んー……まぁそうだね」


「……ん?」


巧が少年の顔を見て、何かに気付いた。


「あれ?きみ……ラインファイトに出場してた……」


「わっ!ちょっ!しー!しー!」


少年が口元で人差し指を立てながら焦りだす。


「え?何?」


「それは秘密ってことで」


何か事情があるのか、少年が小声でささやく。


「……ああ、あのなかなか強かった少年、おぬしか」


「ちょっ、声大きいよ……!」


「何を慌てておるのじゃ?」


「さ~い~み~や~……!!」


突然、少年の背後から恨めしい声が聞こえてきた。


「うっ……」


振り向く少年。そこには一人の少女がいた。


ここで働いている娘だろうか。インフォメーションで案内している女性と同じ制服、同じ帽子を着用している。

腰辺りまであるサイドテールの金髪が印象的だ。


少女は、持っていた分厚いファイルで少年の頭を思いっきり叩いた。


「いっ!ちょっ、おま……手加減を……」


「ラインファイトには出るなと言われてるでしょうがっ!」


少年はまだ悶絶している。


「もしも機密が漏れたらどうすんの、最宮(さいみや) 静春(しずはる)!あんた、ちょっとは第ゼロ部隊としての自覚持ちなさいよ!」


「………」


「………」


「………機密だだ漏れじゃな」


「……しまった!」


少女が自分の口をおさえるが、もう遅い。


「おぬし、第ゼロ部隊なのか。道理で腕がたつわけじゃ」


「まぁね」


すでに少女がばらしてしまったため、平然と答える少年。


「昨日のレーヌ・ド・ルージュの件、おぬしも関わっておるのか?」


「んー、任務については言えないな」


「ふむ……連行された者は二度と帰ってこれないと噂されとるが、それについては?」


ふっと、少年は困ったような、寂しそうな顔をした。


「無事……だと思いたい……」


「そうか……すまんの、いろいろ聞いて」


行こう、と巧とかなめに声をかけ、なずなは建物の奥へと歩を進める。


「ねぇ!レーヌ・ド・ルージュの関係者!?」


「秘密じゃ」


少年の問いに、なずなは笑顔で返した。

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