第三話 -12
「咲さんっ、もうやめてっ!」
朱伽の声に、咲が振り向く。
いつものような優しい眼差しは、そこにはない。
獲物を見るような、睨みつけるような眼光。
「やめなさい。あの人はもう正気ではないわ」
黒衣の少女が朱伽を止める。
「でも……あたしが、咲さんを止めなきゃ……」
「今のあなたじゃ敵わない」
「それでも――!!」
よそ見をしたのはほんの数秒。気付いたときには、目の前で咲が拳を振り上げていた。
「っ!!」
朱伽がぎりぎりで避け、五行の炎を発現。蹴りで反撃するが、防御された。
一旦距離を取る。
「スピードはぎりぎりついていけそう……」
そのとき、
「ガアアアアッ!!」
咲の身体から全方位に黒炎が放たれた。
「くっ!」
とっさに防御。耐えきれるかわからないが、この至近距離では逃げ道がない。
衝撃に備える。
周辺から爆発音や何かが燃える音、悲鳴などが聞こえる……が、衝撃は来なかった。
「……?」
見ると、朱伽の目の前には黒衣の少女が立っていた。
フィールドはえぐれ、焼け焦げて、観客席すら燃えているというのに、少女の背後だけ被害を受けずに元のままだ。
「……ありがと……」
「気にしないで。私はやりたいようにやっただけだから」
少女が振り向かずに答える。
「なんじゃ!今の衝撃は!?うおっ!いつの間にか大惨事になっとる!」
フィールド端から声が聞こえた。
なずなとかなめ、そして巧だ。なずなとかなめはすでに戦闘態勢に入っている。
「この人数なら、咲さんを止められるかも」
朱伽も立ち上がり、構えた。
そのときだった。
どこからともなく様々な方向から鎖が飛びかい、咲を縛り上げた。
「グ、ガッ……アアアッ!」
咲が暴れるが、鎖はまったくはずれない。
「この鎖は……!」
ガシャッ、ガシャッと、白を基調とした鎧の騎士が突如現れた。
一人ではない。十人ほどはいるだろうか。
全員同じ鎧で顔も見えないため、誰なのかわからない。
ただ、
「クロスアーク……!」
とある組織の名前が、どこからか聞こえた。
「くろす……あーく?」
「ああ、巧はまだ知らんかったな。クロスアークとは……まぁ警察みたいなもんじゃ。世界中が混乱していて、警察を呼んでも来てくれないという状態が続いていたときに作られた組織じゃ。活発に動いてはくれるんじゃが……少々過激でのぅ。それを問題視している者も少なくない。しかも、鎧からしてやつらは第ゼロ部隊と呼ばれる精鋭部隊じゃな」
クロスアークのメンバーが、咲を取り囲む。
「ラインファイト選手KISAのイビル化を確認。連行する」
「ちょっ、待って待って!」
朱伽が止めに入った。
「あたしが正気に戻すから……だから待って!」
「元に戻す方法を知っているのか?」
「いや、知らないけど……」
「それでは話にならない。邪魔をするな」
「待って!お願い!」
「朱伽さん、なんであんなに必死に……?」
「クロスアークの連中は、犯罪者の命は補償しない……抵抗すればその場で殺害なんてよくある話じゃ。連行されて戻ってきた者は、今のところゼロと言われておる……」
「それって……!」
「うむ。咲殿の場合、オロチの思念をなんとかすれば元に戻る。連れていかれてはまずい!行くぞ、かなめ!」
「うん」
「え?行くって……?」
「強引に取り返すんじゃ!」
「まずいでしょ!」
「じゃが、ほれ」
なずなの指差す先には……クロスアークを蹴り飛ばす朱伽の姿があった。




